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まさに鎧袖一触。三人とも、歴戦の勇士と評されて良いと思う。
グリフが進めばゴブリンが倒れ、ユニックの盾は使われることすらなく、サラムもMP節約のためか剣を振る。一歩進めば三匹が、三歩進めば十匹が牙へと変わる。
「強化されすぎじゃないの?全員が全部一撃だよ?」
「さっきまでも全部一撃だったじゃない。防御かけたから被弾気にせずに戦ってて、ダメージ増したからスムーズに剣が通って、スピードが上がったから確実に当たってるだけよ」
「バフ怖い」
「おーい。遅れてるぞ?
三方は守ってるけど、一応戦闘中だから気を抜くな!矢とか後とか、万が一があるからな」
「「ごめん」」
「この数なら大丈夫でしょう」
「本番は洞窟だからな。……ほら、これでお終い」
ほえぇぇ。目の前で見ると、すごいわ、攻略層は。これでトップ層じゃないってんだから……『名無し』の面々と『英雄の宴』の誰かさんの動きは、俺には捉えられないだろうな。
イベントでPVPがあったら全力で拒否しよう。まともに戦えそうもない。
あっという間に広場に集まったゴブリンをドロップアイテムへと変え、後ろに付いて歩いていた俺の仕事は落とし物拾い。戦った感ゼロ!まあ、洞窟内だと絶対に出番があるみたいだから良いんだけど、ちと心苦しい。
まだバフ真っ最中の三人は、森の中でも早く進めるみたいなので、俺達二人は必死こいて歩く速度を上げた。わざわざ遅く歩いてもらうのも悪いからね。俺らがちょっとくらい疲れてても、現状だと戦闘の足手まといにはならないみたいだし。
「早く行こう。バフが効いている間に距離稼ごうよ」
「良いのか?二人辛いだろ?時間は十分あるからゆっくり行けるぞ?それか、移動にバフした方が良いんじゃないか?」
「ナイスアイデア!」
「……一応、私たちにもバフかかってるけど」
「「……あ」」
速度の差は、戦闘職と生産職の基礎ステータスの差でした。スキル構成が違うから上がってるステータスも違うんだな。
グリフ達も俺も気が付かなかった。ソロばかりで戦いの経験が少ない俺だけならまだしもと思わないでもないが、『幻獣旅団』もステータスの違いがここまで顕著になる場面はあんまり経験ないらしい。通常なら、三人にバフをかけ、自分自身には強力なやつをかけて調整してるんだってさ。でも、今回は俺にも魔法をかける都合上、MPが厳しかったらしい。ごめんよ。
てなことを和気あいあいとしゃべりながら森を歩いていても、特にゴブリンはやってこない。途中でバフが切れた時も、俺達の速度にのみ再度バフした時も、森を抜けて洞窟に辿り着いたときにだって一匹もゴブらなかった。マジで、全員が洞窟で待ち構えているらしい。
森が急に開けた広場。オーバーハング状態の崖に、ポツンと一つ穴が開いている。初めて見るゴブリンの洞窟は、思っていたのよりも嫌な雰囲気を醸している。
……この崖を登る奴、絶対いるよね。そんな現実逃避が頭に思い浮かぶ。まあ、運営側が何らかの対処しているか。それにしても、これからこの洞窟かぁ。雰囲気あるなぁ。
「何度見ても不気味ですよね。しかもなんか臭いますし」
「まあ、ゴブリンの巣穴ですから。臭いは反応度を下げれば気にならなくなりますよ」
「えー。そうすると、リアル感下がるじゃないですか。ある程度はリアルさ感じたいですよ」
「痛し痒しだな」
「二兎じゃね?」
「ま、全部が良いってことはなかなかないよな。
さて、そろそろ行くか?チュパ、バフ頼む」
「りょーかい!MP全快してるから問題ないよ“ヘイスト”“ストレングス”“シールド”」
「あ、ギーストも【夜目】持ってるよな?洞窟内暗いから、ないならカンテラ準備するけど」
「大丈夫、あるから」
おっ。【夜目】のレベルアップもできそうだな。夜戦闘でも上がったけど、あんまり使う機会がないんでまだ低レベルなんだよね。作業所は夜でも明るくしてくれてるし。今度、経験値稼ぎも兼ねて明かりを点けずに作業してみようか。
よし!頭を切り替えて、目を洞窟へとむける。
フォーメーションは、身軽なグリフ、火魔術のサラムが前方に、バフのチュパ、アイテム倉庫の俺、守りの要ユニックの順。ゴブリンであれば、複数隊のバックアタックが来てもユニック一人で十分対処できるとの判断でこうなった。
まあ、彼らは今までもインスタントダンジョンなんかでゴブリンはかなり相手しているようだから、特に不安は感じてない。俺自身も、ウルフと死闘を繰り広げたころに比べれば数倍強くなったし。
それに何より、バフの効果をさっきまざまざと見せつけられた。俺にはあそこまでの劇的変化はないだろうけど、それでもかなり強くなっているはず。ま、頼りになる仲間もいるから数えるほどしか戦わないで済むだろうけど。
「脇道もあるが、それよりも厄介なのは細っこい道だな。俺らじゃ通れない道も小さなゴブリンは抜けてくる。不意打ちには気を付けろ。
横からの一撃は避け辛いぞ」
「一撃当てて逃げるような知恵の回る奴はいないから、そこは気にしなくて良いけど……ちゃんと倒さないと夜の襲撃がなぁ」
「時間がかかると戦闘中にお代わりもありますから油断できませんね。まあ、全方向同時多重攻撃でもなければ誰かがフォローできますから」
「ユニック。それフラグ」
そんなに甘くなかったか。ガクン。