13-17
「よーし。そろそろきゅうけーい!
ほらほら、いざって時にへばってたら意味ないわよ」
「運ぶ作業のほとんどがインベントリ使ってるから、そこまで疲れちゃいないさ。
でもま、そろそろ手元が薄暗くなるからな」
「そうそう。一通り作業は終わったし、最悪、寝られないんだからちゃんと休まないと」
そう言われて、なんとなく周りを見回す。空はまだ明るいが、木々に囲まれた広場は、少しだけ薄暗くなっていた。朝まで使っていた広さを囲む板柵。支える柱だけなく、つっかえ棒として斜めに支える柱がそこかしこにあり、かなり防御力が高い。その防御力をさらに上げているのが、空堀。深さも広さも心もとないが、一時の防壁としてはかなりの効果を生みそうだ。
そして、その周りにある切り株ゾーンに待つは、多彩な罠。主に行動阻害や音を出すものだが、敵の早期発見、行動遅滞によって生じる余裕こそが、何よりの防御になる。切り株近くの森の木々も、通りにくいように倒したり、枝を結んだりしてある。これらのような小細工にどれだけの効果が見込めるかは未知数だが、できることはしておきたい。
【木工】を持つミルは、さっきから矢を大量に作ってサンズへと渡している。思ったよりも木が余ったからな。……あ、小さな逆茂木も作ってもらって、空堀の周りや底に敷くか。ゴブリンやゾンビがでた方向優先で。夜でも出現モンスターの傾向が変わらなければ効果的だろう。設置は他のメンバーにお願いしよう。
その間、俺は散々作った回復系アイテムではなく、ドロップも使った妨害系アイテムを作りまくる。蜘蛛の糸を使った網、もちもち樹液でつくるトリモチもどき、しびれ薬や混乱系の毒薬なんかは優先して作る。他にも、蔦を使った括り罠に、硬い枝で踏み罠、しなる枝で弓罠などなど。どれも、単体で発動するタイプで、手軽に置けて効果がある罠だ。邪魔に感じたドロップアイテムも活用し、投げる武器として不要なゴブリンドロップの錆びた品々を各方面にストック。
砂利石代わりにゴブリンの牙を撒くことで、隠れ寄ってくる面々を音で見つける工夫。これは、ソフィーが家にある防犯用の玉砂利から思いついた。鳴子も方向によって違う音が出るようにしてある。
いつでも回復系アイテムを作れるように準備をして、休憩を取ることにした。
「よくゲームであるけど、本当に蜘蛛の糸なんて使えるなんて驚き。それに、このねばねばした樹液も。相談してよかった」
「樹液で斧がべたべたするって言われたときはどうしようかと思ったわ。ギーストがなんとかできて本当に助かったわ」
「どうにかって言ったって、ちょっと他の素材と混ぜてみたらトリモチみたいになっただけだし。それに、これは未完成だよ。別にレシピになってないから。色々足りてないんだろ」
「木は覚えたんで、戻ったら探してみますよ。採れたら高価買取お願いしますね」
「それは任せて。
そうだ。まだ襲撃の気配はないけど、やりたいことある?」
「さすがにやり切った感が……」
「ゾンビとかアンデット系に対する対策がないよね。逆茂木とか、堀とか近寄らせない工夫はしたけど」
「聖水の作り方とかわかんないよね。木で十字架作ったって効果ないだろうし。あ、落とし穴でも掘る?あっち側だけ堀は深くしてあるけど……」
「これだけしてあれば十分よ。全滅するほどには来ないでしょ。
心配なのもわかるけど、ちゃんと休まないと持たないわよ。あ、夜番は誰からにする?」
「最初は二人が起きてて、襲撃が始まったら全員で対処で良いんじゃない?起きてる二人は大変だろうけど、波が落ち着いたら真っ先に休んでもらうんで」
「あー、それなんだけど、俺が夜番するわ。MPの回復は十分だし、待ってる間に何か作ってられるし」
「ありがたいけど良いの?きつくない?」
「寝不足で剣を振り回すのに比べればなんてことないさ。ちっとくらい眠くたって、物は投げられる」
「私も起きてる。リムリラとミルは直接戦うし、ソフィーとアマの魔力は生命線。索敵を考えても私一択。まずは、四人とも万全の状態にすべき」
サンズ本人からそう言われると反論しづらい。それに、襲撃がなければ通常通りの三交代で夜番を行うだけである。万が一、夜通し襲撃があった場合を想定しているだけだし。
ということで、いつもよりも少々早いが、四人は体を休めることにした。
こっちはこっちで、せっせと矢を作り、薬を作り、時に手を休めて見回りをした。最初は、特に何もなかった。暗さが増すにつれ、爽やかな鳥と虫の鳴き声が、郷愁をあおるフクロウのものへと変わる。闇が濃くなるにつれて増える音量は、しかし、夜の静寂の深さを強調した。
森の全方向から聞こえてくる、虫の鳴き声とゆっくりとしたフクロウの鳴き声。……確か、フクロウって夜の森の狩人って言われているくらいやばい鳥だった気もするけど。主食は野ネズミのはずなので大丈夫だと思いたい。そこそこ時間がたったけど、闇が濃くなったくらいで他の変化はないし、警戒はサンズがしてくれるしで、自分は加工に注力しますかね。
襲撃の気配もなく、皆が寝ているので会話も控えるとなると、静かなので集中できて作業が捗る。捗ってしまう。日中、大急ぎで作業したので、残っている素材は少なかった。そろそろ作るものがなくなってきたな。どうしようか。そう思っていると、サンズが急に立ち上がった。
「鳴き声が減った」
「……確かに」
気が付けば、森中が静かになっていた。