13-12
「魚がそもそもあまりいないわね。捕まえたいなぁ」
「今の私たちのステータスなら素手でも行けそうよね。
遠目で見たら結構いたのに、ほんと、全然いない。怖がりなのかもね。ほら、天然の魚ってすぐに隠れるって聞くし。あ、あっちの岩場にならいるかな?」
「待って!戻って!」
「「……は~い」」
サンズが急に大声を出したので、驚いて川の方を見ると、リムリラとアマが装備片手に川上の岩場に行こうとしていた。二人とも、サンズの指示通りに戻ってきたけど、首をかしげている。
別に危険性もなさそうなのに。
でも、サンズの表情は硬い。武器こそ構えていないが、いつでも走り出せるような態勢で、戻ってくる二人へと近寄っていく。目は川上から放していない。何かあるのか?
「あそこ。変」
「ん?どこ?もしかして岩?あそこに何かいるの?」
「魚が消えた。敵かも」
「え?マジで?」
川の中にちょこんと存在している大きめの岩。腕を回しても抱えきれない大きさで、上に乗れるサイズ感。緩やかな流れの川にあるのは確かにおかしいけれど、まあ、ゲームだし。あれがあった方が、川って感じはあるよな。そこそこ深いし。
でも、魚が消えたってことだし……。
「見間違い……ってことはないわよね。確かに、あの岩の周りだけ魚影が見えないわね」
「岩の陰に隠れてるって可能性もあるけど」
「それはない。【索敵】で魚の気配が消えたもの」
「サンズの【索敵】をごまかす相手かぁ。集中しても?」
「岩の辺りに何かいることはわかるけど、何がいるかはちょっと」
「……こっちに寄ってくる気配はないのね?」
「それもない」
「可能性としては、カメレオンのような擬態系、幽霊のような透明系、岩の表面に張り付いている可能性もあるわね」
「……魔術を投げてみる?矢とか石でも良いけど」
「矢を無駄に消費したくないわね。石でも良いけど、だれか【投石】とかあったっけ?」
「【投擲】ならあるけど、取ったばっかだからレベル1だな。筋力が高い人が投げた方が良いかもな。それに、ゴースト系に効くか?」
「レベル1じゃねぇ……どうせ戦闘になるなら、先制攻撃で魔法撃つ?それなら、万が一ゴースト系がいても効くでしょ。たぶん」
「水辺だし、【火魔術】が効果高いかも。どう?」
「……じゃあ、“ファイアアロー”いっとく?
何が出るかわからないから、準備はお願い」
「そうね……V字にしましょ。私とミルが左右の前、サンズとギーストが中で、中央がソフィーとアマね。サンズ、周りには敵いないでしょ?」
「……問題ない」
「じゃ、行くわ。“ファイアアロー”!」
一本の火矢が、川の中に鎮座する岩へと飛んでいく。岩の表面で火が弾け、その火の粉が消えても何も反撃はなかった。
「あれ?何もなし?サンズ、反応は?」
「……あれ、見て」
「ん?動いてる?」
見ている前で岩がゆっくりと左右に動き出した。音を立てて揺れる岩が、ゴロゴロと水をかき分けて転がり、川から陸へと上がる。
そのまま、動かない。どう見てもただの岩でしかない。でも、動いたしなぁ。横で透明な魔物が転がしたって動きじゃないし。
「……あれ?そこで終わり?」
「サンズ。【索敵】お願い」
「……その岩。たぶん、岩のモンスター」
「じゃあ今のうちよ。攻撃開始!近づかないで!」
「“ファイアアロー”」
「しっ!」
「……やることない」
「ミル!足元の石でも投げてて!警戒は私がするから!」
岩相手に刃物はあまり効果がない。それどころか、刃こぼれが気になるくらいだ。それに、それなりの大きさの岩だから近づいてってのは怖い。ゴロンと乗っかられたら大ダメージだ。
だから遠距離攻撃オンリーだけど……。火魔術も矢も効果があるんだか無いんだか。反応がない。こうなると、正直、俺には打つ手がない。
何せ、【投擲】スキルがある俺の石よりも、ミルの石の方が勢いがあるんだから。あ、あったわ他の遠距離攻撃。
「ダメもとで“ウォータブレッド”やろうか?水魔術だからそこまで強かぁないけど。毒薬とかは投げても意味ないだろうし」
「……そうね、お願い」
「“ウォータブレッド”“ウォータブレッド”“ウォータブレッド”」
「“ファイアアロー”」
「もう石ないよ。その辺の木でたたく?」
「はぁ。……ごめん、そうして。斧の刃がダメになるよりはよっぽどいいわ」
ミルが拾った木?枝?は数回殴れば折れてしまうけど、そんなものはいくらでもある。ときたま転がるから連打は難しいが、ヒットアンドアウェイで彼女もノーダメージ。
その後も、ときたまゴロンと動きはするものの遠距離攻撃に徹していたこっちには何の影響もなく、時間とMPを大量消費した。手ごろな木を拾ったミルが、何度目かの突撃をかます。岩は連続で転がるのが難しいらしく、今はゴロンとして一拍置いた後に木が折れるまで全力フルスイングを食らわせているのだ。これが最もコスパが良さげ。
木が折れる音とともに、岩が急にバカンと割れ、光となって消滅した。突然の事態に飛びのく態勢で固まっていたミルがこちらを向く。
「ナイス、ミル。よくやったわ」
「功労賞」
「あ、ドロップアイテム……石?」
「『ロックストーンの欠片』だって。中に鉱石とかが入っているかもだって」
「へー。あれロックストーンて名前なんだ。そのままじゃん」
「相変わらず、ネーミングセンスないゲームよね」
「その欠片って内容限定宝箱かしら」
「魔法も矢もあまり効果がなかったみたいだし、ハンマーとかが有効かしらね。これをメインに狩るのはお勧めできないわね」
「コストもそうだけど、時間がかかりそう。割に合わないね。
【索敵】がないと見つけられないし、タイミングズレたら乗っかられて大惨事」
「まあ、ロックゴーレムとかも後々出てくるでしょうし、その練習になったと思えば。
それにしても……」
みんな言いたい放題。岩、改め、ロックストーンの皆の評価は散々だ。まあ、苦労したのに成果があれだけだもの。珍しい鉱石や宝石でも出てくれば良いんだろうけど、こんなところでそんなものが出るわけない。精々、質の良い鉄鉱石辺りが大当たりだろう。
アマが言うとおり、ゴーレム系の練習だと思えば、ここで見つけられたのは僥倖だ。でも、彼女は小首をかしげて言葉を濁した。何か気になることがあるらしい。
「何よ、何が気になるの?」
「ほら、このフィールドは初心者向けじゃない?だから、明確なコンセプトがあるって思ってたのよ。
眠りとかしびれとかの特殊攻撃、ただ数が多い敵、こっちは犬が出たから連携だと思ってたんだけど……」
「ボーナスモンスターじゃないの?レアな。普通なら見つからない系の」
「そうかしらね。うーん。予想が外れたわ。くやしいー」
「川の中だからわかりやすいけど、岩場でこんな敵が出たら厳しいわね。【索敵】がなければ、突然圧し掛かられてジエンドよ」
「まあまあ、みんな落ち着いて。コンセプトも、この先の対応もあと、あと。
まずは一休みでしょ。そしたら探索の続き。そのために川辺に来たんだから」
「「「「忘れてた」」」」