13-7
「ゴブゥ」
小さなうめき声を耳に残し、ゴブリンは倒れた。リムリラ単体での対戦だったが、特に問題なくどころか、余裕たっぷりで圧倒していた。あの動きは俺にゃ無理だな。
でもまあ、小柄なゴブリンは特に恐ろしさもなく、ゴブゴブ言うので結構遠くからもいることがわかり、まさに初心者向けのモンスターとしか思えない設定だった。持っているのも、こん棒と言うには細い棒だし。
「楽勝ね」
「……まあ、ね。ただ、ちょっと小柄だからやりにくいかな?ビックマンティスもそうだったけど、狙いづらい気がする」
「動きが遅いから今は大丈夫だけど、練習した方が良いかもね。ほら、ゴブリンって言えば集団でしょ?」
「あー。それと進化と武器防具も。
そう考えると、雑魚の割に長く脅威になるモンスターかも。ほら、ゴブリンキングとか」
「対人戦の練習にもなるかもね。ギルドの訓練場も賑わいそう」
「訓練よりも実践って感じで冒険に出る人が多いんじゃないかな?デスペナもヘルモードって訳じゃないし」
「結構進んだけど、昆虫系、動物系、植物系。どれも出てこないね。ゴブリンだけ。アンデッドもまだか」
「正面に進んだ時に比べると、敵の数も少ないし」
「ここまできて、やっと二体が基本になったもんね。それも、ただゴブゴブうるさくなっただけだし」
「……油断は禁物。ゴブリンシーフやレンジャーなら奇襲もありえる。
マジシャンだってナイトやファイターと組まれれば厳しい」
「そんな進化系はまだ当分出てきそうにないよね。連携したゴブリンとの戦いの方が早いでしょ」
「今まで、連携したモンスターはウルフくらい。珍しい」
「そうね。……そう考えると、今回のイベントは、アークを出た先を体験できるイベントなのかも、ね。
森を抜けると川があって爬虫類系の魔物が出たり、山があって鳥系が出たりしそうね」
「地形に合わせたモンスターが出るのは、そうかもね。今がそうだもの」
おーい。どうでも良いけどゴブリンをなで斬りながらの会話ってのはどうなんだい?いや。どうでも良いんだが。
どんどんと先に進むにつれ、現れる頻度が高くなり、始めは一体だったゴブリンが、たまに、時々、ちょくちょく、ほとんどと二体になった。ぼちぼち三体が出てきた。
う~ん。まだ単純にゴブリンが複数いるだけなんだけど……連携取り始めたり、進化系が混じり始めたら休憩か、戻ることも視野に入れて良いかも。
ドロップアイテムもかなり溜まってきたことだし。まあ、ゴブリンの牙とか使い道がないけど……鍛冶の時使うとゴブリンスレイヤー的なのが作れたとは思うんだけど……スキル持っていて、鉄鉱石やインゴットを持ち込んだとしたって、この数の牙は不要だし、そもそもそれを作るくらいなら別の物を作りたくなるだろ。矢じりにでもできるかな?
せめて、オークやコボルト、もしくは進化系なんてのが出てきてくれれば、戦いにも戦利品にも変化が出て楽しくなるだろうに。しかし、今のところ手に入るのはゴブリンの牙ばかり。出汁とる気にもならん。使い道は後で考えよう。
あまりに頻発するゴブリンの圧力に負け、先行していたサンズも大人しくメンバーと一緒に戦っている。独りでだと、囲まれれば面白くない事態になりかねないからね。でも、リーチの関係で、敵の大半はリムリラが倒し、わずかに抜けてきたヤツの相手だけだ。……こううるさいと、さっきの彼女たちの雑談で出た奇襲を注意する必要があるのかもしれない。索敵がまともにできてない状況だから。進化系が集団に混じってきたら、ちーとばかし一時撤退も考えないとダメか。
「ソフィー、MPってどれくらい残ってる?」
「ん?結構ある。使ってないから」
「じゃあ、ちょっと、あの先、木がないところに“ファイヤーボール”良い?音で集めてせん滅しよ。集まったら風系連発で。
火事にならないように、ギーストさん。魔術の準備お願いします」
「万が一ってことがあるからな。了解」
「りょ」
「みんな、回復薬ある?足りてるのね。
魔力回復薬は、それぞれ3つ以外はソフィーとアマ、ギーストさんに集めて。
先の広場の具合を見て、休憩か帰るかしよう。戻ったらキャンプだね」
戻る時間を考えれば、そろそろリミット。野営の準備を大半終わりにしたから時間の余裕はあるが、一歩間違ったら、真っ暗な中に帰るはめになり危険である。多分、フィールドと同じで夜の間は敵も分布も変わってくるだろうし。
「予想と違ってゴブリンしかいないけど、油断ができないよね。コボルトなら問題ないと思うけど、オークとか、オーガなんてのが混じっていたら」
「目撃情報はないけど、いないとは限らないもん、ねっと。よし、途切れた。
回復薬いくつか貰える?」
「ほい。お疲れ様」
ゴブリンと戦いながら指示出していたんだから、リムリラの能力は高い。複数相手にしているのにほとんどダメージを受けてないけど、大量のゴブリンとの戦いを前に、念のためフル回復しておくわけだ。
一呼吸おいて戦闘準備が終わるタイミングを見て、ソフィーが魔力回復薬を飲む。緩やかに回復していく魔力を十二分に活用するちょっとしたテクニックだ。
丁寧に魔力を高め、呪文を唱える。杖はまっすぐに木々の間を狙って。
「“ファイヤーボール”」
下草を焼く火炎の勢いは弱く、それに比べると音が大きかった気がする。音と衝撃にも力を割いている分、火の玉の大きさに比べると火力は弱いのかも。
それでも山火事になったら目も当てられない。念のためにいつでも唱えられる準備をしつつ、あるスキルを取得する。
今後の自分の戦い方を考えても、今の状況でも有効だろう。そう考えながら。