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キャンプ地へはそれほどの問題なく帰ることができた。三回ほどサイドアタックを受けはしたが、サイズのおかげで攻撃を受ける前には反応できたので、ダメージは最小限。消費した回復薬や魔力回復薬よりもドロップアイテムの方が多い。
鳴子用に設置した糸は特に切れている場所もなく、テントも無事。うーん。これなら少しはアイテムを置いていけるな……これからも大丈夫な保証はないが。
うっそうとした木々に囲まれた空間から、少しとはいえ開けた場所へと到着したことで、みんなも幾分緊張と警戒を解いていた。
「見通しが良いっていいわぁ~」
「他の方面への探索は後にしましょう。英気を養わないと」
「「「さんせーい!」」」
「……甘い物はないぞ?」
思いっきり目が物を言っている視線に耐え切れず、インベントリから野菜と肉を取り出しながらくぎを刺す。さつまいもとかがあれば蒸かすだけでも十分に甘いおやつになるんだが、今のところ見たことがない。じゃがいもはどうだったかな?帰ったら確認してみよう。冒険の区切りにおやつってのはありかもしれん。
戦闘の数が少なくても、緊張と疲労から少しばかりのどが渇いている。なので、今作るべきは肉と野菜のスープ。今回は、特別にさっき手にいれたキノコを投入しよう。
竈の火種に枯草や糸くずを落として大きくし、薪を入れて火をおこす。鍋にはまず、焦げ付かないように肉の脂身を投入。十分に脂が出たらキノコ。その名もイベントしめしめじ。見つけるとしめしめと喜ぶことから……って説明文作るの面倒だったのかなと不安になるキノコだ。味はそこそこ美味いらしい。
「良い香りがしますね」
「へぇ~そのキノコは食べられるんだね」
「見た目よく似たキノコで腹を下すやつがあったから、“鑑定”してない物には気を付けること。リアルならマジで命にかかわるから、野生のキノコを食べるのは論外!
毎年、死亡事故が起きてるからな」
「……キノコ、マジこわっ」
「……確か、毒キノコよりも餅の方が死亡者が多いはず」
「……それでも、お餅、食べるよね」
「……うん。食べる」
「……」
「……」
「……さ、ここに肉を入れ、軽く火が通ったら野菜。そして“クリエイトウォータ”。
よし、これで出来上がり」
「おおぉ……って、煮ないとスープには、えっ?できてる?なんで?」
「まあ、もう少し煮た方が美味いだろうけど、まあ、材料は炒めてあるから大丈夫だろ。
それと、最近あったかいレベルのお湯が出せるようになってな。冷えてる程度の水も出るぞ。もっと練習すれば快適な生活に大きく近づくな。お風呂も入り放題だ」
「そんなことができるんですか?」
「結構、スキルって使い慣れてくると微調整ができるんだよな。“クリエイトウォータ”なら、魔力はちょっと余分に消費するけど、水の量を変えたり、温度を変えたり、出す場所を変えたり」
「使いこなすことができる、か。そう言えば、スキルアーツも最初は決まった体勢からじゃないと発動しなかったけど、今はだいぶ融通がって話も聞いたわね」
「……それを補助するスキルもあると思う。体術とか、魔力操作とか」
「そう言えば、【身体魔術】持ちは動きながらでも魔術が使えるって話もあったわね」
「スキルで物を作るときも、最初は定型的な物しかできなかったけど、最近は、結構色々調整できるってわかってきたし。なんか、思っていたよりもスキルの使い勝手が良いわよね」
「まあ、工夫のし甲斐があるって言うか、面白いよね」
「モンスターの見た目リアルさとかも設定で変えられるんでしょ?通常が最もリアルで、デフォルメ度があるって話」
「痛覚度とかも決められみたい。あと、疲労度。こっちは、通常が一番。痛みとか疲れるとかを実際に近づけられるって。でも、そんなの変える必要性なくない?」
「あ、私試したよ。昆虫系とか嫌だから見た目の方。だから、今は結構メルヘンチックな世界にいるの。ちょっと集中しづらいけど……まぁ」
「そう聞くと、試す気にもならないわね。
でも、おかしいと思ったわ。アマが大きなカマキリ見ても平気なんだもの」
「昆虫系だけ表示を変えてもらえたら良かったんだけど、全部変わっちゃうの。正直、ネタ設定だと思う」
最初の探検が終わり、心底ほっとしたのか彼女たちの会話は尽きることがない。
それにしても、変な設定もあるもんだな。親切心なんだか、苦手なものがある人向けサービスかな?そこまでしてゲームしたいかとも思うけど。
疲れた体に温かいスープはじんわりと沁みた。薄暗い森の中は、思ったよりも気温が低いのかも。調味料が塩くらいしかないけど、キノコから良い出汁がでて、思いのほか美味い。
まったりと英気を養ったら、次の行く先を決める必要がある。まだ、野営の準備に入るには時間があるんでね。
「今まっすぐ行ったわけだから、今度はこっち、右手側に行こうよ」
「時計回りってことね。良いんじゃない?ただ、ちょっと方向を変えるだけだと変化が判りづらいから、そっちにまっすぐ行きましょう」
「帰ってくるときに、鳴子に引っかかるまでがお約束」
「それは忘れない方が良いわね。あ、薪はさっきの往復で拾った分で充分かな?」
「少しばかり乾かした方が良いのもあるな。日当たりの良い所に置いて出よう。それでもだめなら、竈を使いながら乾かすさ」
「“ドライ”が使えるのってレベル30からだっけ?ギーストは?」
「そんな魔術があるのか。まだちょっと先だな」
「一つの魔術ばっかり使っていてもレベル上昇はそこまで行かないって聞くし、第1陣でも使える人は少ないかもね」
「スキルや技術、アイテムの重要性が良くわかるイベントだな、今回は」
「そう言えば、色んな敵が出てくるって聞いてたんだけど……」
「昆虫とかだったよね。あとなんだっけ?」
「出てきたのはビックマンティス、しびれ蝶に眠り花。あの先には蜘蛛系がいたと思う。巣が見えたし。
あとは、ゴブリン系とアンデッドの話が出てたかな?」
「昆虫系も植物系ももっと色々と出てきそうね。気を付けないと」
「蛇、ウッドマン、カブトムシ、トレント、ドライアド、蔦系に蟻なんかは有名どころだな。あとはマタンゴとか、スライムか」
「ゴブリン系って言っても、森だとコボルト、オークとかも出てきてもおかしくないと思う」
「怖いのは、擬態している植物系と潜んでいる系よね。サンズに頼るだけじゃなくて、みんな、気配に注意してね」
「「「「は~い」」」」
最後はリムリラが締めた。さすがリーダー。では行こうか。