13-2
「ほら、そろそろ行こうよ」
「「「「「は~い」」」」」
いつまでも道具類を見ているみんなにしびれを切らして、リムリラが出発を促した。まあ、前衛の彼女は効果が高めの回復薬といくつかの補助薬を持てば準備は終わり。特に生産系を取っていないのか、興味深そうに道具類を見てはいたけど、手を出さないので暇だったんだろう。
魔法を使う後衛のソフィーなんかはアシストの役目もあるのか、補助薬を色々と手に取って悩んでいたから、余計に手持ち無沙汰だったんだな。
でもまあ、リムリラの言うことは正しい。時間は有限である。それでは早速、行きましょうか。
「「おおー。まさに森!」」
「キャンプって言うよりも、森林浴ね。植生も豊かそう。広葉樹メインかしら」
「素材だらけ。ラッキー」
「……伐採できればね。ウィンドカッターで切れるかしら」
「キャンプ地はここしかないみたい」
わかるー。
……思わず、輪に入りそうになりました。どの発言も、俺が最初に感じたことばかり。
落ち着いて周りを見渡せば、前回と全く同じとはいかないが、やっぱりテントを張るのにちょうどいい太めの木が。あ、今回は3本ある。人数によって変わるのかもな。
「前回は、あんな感じの太い木を後ろの備えにしてテントを張ったんだ。一晩だけだったけど、獣の襲撃は無かったな。夜番はしていないが、特に問題なかった。あ、一応鳴子はセットしたぞ」
「野営の必需品ですよね。いくら寝ずの番をしていても、これがあると無いじゃ安心感が違います。暗くなると見づらいから。
えーっと、あそこを開けますか」
開けるって何よ?そう思っていたら、彼女ら全員で幅2メートルほどを残し、全方位に鳴子を設置していく。人数がいるので、俺がテントを出して竈の位置を決める間にすべて終わらせていた。開けるって、そこだけ鳴子を設置しないってことね。確かに出入りしやすいか。それに、そこをメインに見張れば良いんだから夜番にとっても楽かも。
あー。それにしても、少しでも夜番をしておけば、【暗視】が上がったかも。使う機会が少ないからあまり意識しないけど、レベルが上がってて悪いスキルじゃないから、今後は随時上げてこっと。
竈は中央よりややテント寄り。もし敵がやってきたときのために、戦闘スペースが必要とのこと。そうだよな。人数いるからそれなりの空間がないと。まあ、食事するにも作業するにも、十分って言えるほどはないな。
「でもちょっと狭いですね。うーん。次回は、斧とか持ってきて伐採しましょうよ。ここの広場は大きい方が使い勝手が良いと思うの」
「いいねぇそれ。なんならログハウス立てちゃったり?今はやりのDIYで」
「無理じゃない?【木工】のスキルがあっても、家なんて低レベルじゃ手も足も出ないわ。
柵を作るのが良いとこでしょ」
「ログハウスって丸太積むだけじゃないの?」
「見た目はそうね。
でも、さすがにそれじゃ家はできないわよ。あ、でもどうせ短期間だもの、丸太を壁にするのはアリかもね」
「でっしょ~♪」
「……出てくる敵を見てからね。壁が不利になるならダメよ」
おおぅ。人数いると意見が色々と出るな。自分じゃ、柵はまだしもログハウスを作るなんて思いつかなかった。床と屋根を考えなければ、丸太の上下を削いで平らにして積むことで、素人でもなんとかなるんじゃないか?現実じゃ無理だろうけど、ゲーム内なら、な。
板の壁にしたって、ストーンウォールで挟とむか、落とし穴を作るピット系の魔法があれば溝を作るとかすれば、仮設は可能かもな。なんなら自分家の庭ででも練習を……いや。せっかくの畑をつぶすわけにはいかないか。反対側は馬車が通るスペースだし。あ、牧場で試すってのもアリか。計画してみよう。もしくは、丸太をぶっ刺して壁……どこの砦だよ、それ。
そんなこんなで、瞬く間に宿泊も含めた準備が整った。竈もあるし、各種生産用のスペースも取ってくれた。これなら気兼ねなく楽しめそうだ。
「素材の大半は仕舞ってくださいね。場所がないんで」
「ああ。インベントリに入るから問題ないさ」
「そんなに入るの?一体どうやって」
「テントに回復薬と魔力薬のストックを予備として置かせてもらった。その分、袋が空いたのさ。
あ、消耗品はジャンジャン使ってくれ。そうじゃないと素材がもったいない」
「持ち込んだ素材じゃなくて、ここで採取したものから使えばどうですか?」
「あー。そうだな。ポイント上位を狙うんじゃなければそっちの方が良いよな。
ま、どちらにせよ、ガンガン使ってくれ。その分作るから」
「でも、面倒でしょ?せっかくのイベントなのに冒険する時間も削れるし」
「知ってるかもしれないけど、数作らないとレベルが上がらないんだよな、生産系のスキルって。それに、空き時間で作り足すから気にしなくていい。もちろん、森の探検には参加するさ。俺のスキルじゃただの賑やかしにしかなれないけどな」
「その辺りは、イザって時の護衛でお願いします」
「それなら問題ないな。質の良い防具は揃えてある」
最前線のプレイヤーと比較したらゴミレベルかもしれんが、平均と比較すればステータスはそこまで低くないと思っている。インベントリの回復薬と合わせれば、そうそう死ぬこともあるまい。盾役として時間稼ぎくらいはできるつもりだ。
うん。盾やタンクとしてのプレースタイルも良いな。ソロは難しくなるが、必要な時だけ野良パーティーをお願いする形。検討してみるか。