12-12 最も簡単なマーケティング
仕事から帰ってきての再ダイブ。今回は、朝のうちに作った品のバージョンアップが目標。しかし、材料の鉄が不足している。倉庫の隅に、ゴブリンとかのドロップでもある折れた剣が小山になっていたのにさっき気づき、ちょっとへこんでいる。
分解して鋳つぶしても、低品質の鉄インゴット数個にしかならないだろうが……まあ、鉄鉱石が手に入るまでの練習にするか。習作も、それなりの質の以外は鋳つぶしてインゴットにしてしまおう。
「枕の使い勝手はどうだった?」
「残念ながら、革の切れ端は評判が悪いですね。ないよりはまし程度でしょうか」
「さすがに、廃物利用は無理かぁ」
「高評価なのは枯草です。適度な硬さがよかったのかと」
「たくさん詰めたしね。じゃあ、毛は微妙?」
「少し柔らかすぎたのかと……。
もちろん、今までの物からすると格段に良いのですが」
まずは寝具と思い、セバンスに使用感を聞いてみると、思い描いていたのと少しだけ違った。毛の方が柔らかくて良いと思ったんだけど、違和感があるみたい。まあ、今までが木やそこに薄い布をかけた程度の物だったから、感覚の落差なんだろうけど……あ、そうだ!
ちょっとだけ思いついたことがあるので、改めて試作。
毛の枕と革の枕を解体して……よし。これでいい。押した感じも悪くない。
「じゃあ、今度はこっちを試してみて?」
「手触りが違いますね。この硬さは、毛と革を混ぜたのですか」
「毛だけと違って、使ってもそんなにへたらないと思うんだ。その分、硬くなっちゃうけど。
枯草の準備が面倒だから、こっちが良いと助かるんだけど」
「馬の食餌がありますので、手に入らないわけでは……」
言われて気づいた。そうだよな。藁やら枯草だって、立派な資源。自作をあきらめれば方法は色々ある。
でもまあ、数作る訳じゃなし、そのために買うのも面倒。ここにある素材で作れるならその方が。
「これで問題なければわざわざ買う必要ないし。あ、割合変えたのをいくつか作るから、比べてね」
「承知しました。何人かで使い、感想を取りまとめます」
「よろしく」
枕はこれで大丈夫。評判が良いやつを比べて、自分好みの枕にしよっと。
さすがに布団は難しいので、毛皮を裏表で縫い合わせるだけ。毛とか入れるとしても、丸めたりなんだり使っているうちに偏っちゃうから。たしか、昔テレビで見たんだけど、ブロック的に縫うことで偏りにくくするんだっけ。でも、そうすると持ち運びしにくくなるからなぁ。いくらインベントリに収納するとはいえ、それで一枠ってのも。縫い合わせただけなら、複数まとめて一つにできるし。使ってみて、あまりにダメでなかったら、今回はせんべい布団的な物体の勝ちで。
新たな毛皮を在庫から取り出しつつ、さっきまでの作業で確認する必要があることを思い出した。今回のイベントでは、インベントリにたくさんの物を入れなくてはいけないのだ。そう。その分、袋(大)が必要になる。鉄鉱石とまではいかないまでも、それなりに小山になっていた毛皮。余りに大量に手に入ったので、家のメイドさんたちが袋に加工して売っていたはずだが、在庫は有り余っているはず。……ただ、そこまで大きなのは残ってないんだよなぁ。
質の良いやつは、そもそも専門のお店に売っちゃったから。作る専門家じゃないから、うちは最初から二級品狙いなのだ。本業と専門家を圧迫しない、隙間産業的小遣い稼ぎである。
「持ち運び用の丈夫なリュックも作らないと。サイズは……大きすぎると邪魔だから、中くらいだな。袋と違って負荷がかかりやすいから大きめのやつを使うとして」
「習作として小さめの袋を作っておりましたので、処理済みの大きい革も残っておりますよ。縫合によっては重い物を入れるとばらけてしまいますので」
ラッキー。
袋が大きくなればなるほど、重い物が入る可能性が高くなる。だから、【縫製】が高レベルでないと任せられなかったみたい。それに、雇い主である俺が使うかもって考えて、大きいのと質が良いのはあまり使わないようにしていたようだ。気にしなくていいと思う反面、今回は助かった。
気を取り直して、背負いかばんを作る。やっぱり、作っているプレイヤーも多いらしく、最近は可愛いタイプが人気なんだとか。え?色染までやっている人がいるのか?どっかで染料を見つけたんだろうな。
でも俺は革本来の色で勝負!自分用だし、なにより面倒だし。ゲフンゲフン。革の質感って良いよね!
革と格闘すること1刻。デザインも作りも荒いがリュックができた。まあ、袋に背負うための紐を縫い付けただけだが。試作品はこれで良い。一通り作り方も、問題点も見えてきた。
ここからが、生産者の腕の見せ所。残してあった柔らか草――そろそろ追加で買わないと――を使って、紐の一部を柔らかく、背負いやすいように。肩に当たる部分は、内側に毛皮を縫い付けてダメージコントロール。袋は、背中側と底は固く、他は柔らかめに。荷物が少ない時はズレないよう縛るため、紐通しを縫い付ける。口の部分は特に柔らかくして、閉じ紐ができるようにベルトの要領で作ってみた。
サイズも自分で背負って測ったから無問題。……やっぱり、市販されているリュックサックとはいかないが、まあ、十分使用に耐えうる物ができました。
あとは薬や素材、生産に使う道具類の準備ができればOKかな?ほとんどが在庫で対応できそうだ。
一部改良するだけの時間を見越しても、余裕があるな。やっぱり、入念な事前準備がまったりプレーには欠かせませんな。