12-8 スキル
「……じゃあ、西はどうですか?最初は荒野に近いですけど、その先は世界に通じてます!冒険の始まりですよ」
「間に合ってます」
「ですよねー。
新しい敵、新しい街、新しい出会い。何もかもが新しい旅!」
「……新しいレシピ、新しい素材には興味があるが」
「でしょ?行きましょうよ」
「だが、徐々にとはいえ、ここにも入るようになるみたいだし、そもそもこの辺りで手に入るレシピや素材もコンプリートはしてない。
あとでわざわざ戻ってくることを考えれば、二の足を踏むさ」
「……ここで手に入る素材は、行った先でも手に入りますよー。
レベルも上がるし、ファンタジーらしい風景だって見られるに決まってます。どうですか?」
「……考えとく」
そう言わないと、いつまで経っても誘われ続ける気がした。そりゃぁ俺だって気にならないわけじゃない。将来的には行ってみたいとは思う。うん。将来的には、だ。
ここには既に家があり、使用人が居て、素材が集まるシステムが出来上がっている。生産職としては、恰好の条件がそろっている。相当に新しい素材やらレシピが手に入るのでなければ、出ていく必要はない。
ま、今のところはって感じだが。絶対に先に進みたくなるはずだし。なにせ、ゲームはまだ始まったばかりだ。
「なんにせよ、まずはセックだな。思ったよりも作りこまれてて色々と楽しめそうだ。【牧畜】や【薬剤】以外にもアークよりレベルが上げられるスキルがあるみたいなんだよな。
それに、手に入る素材も新しくなったし」
「グラスウルフですね。ちょっとだけウルフよりも質が良いですよね。なんか、迷彩チックな服だかマントを作った人がいるみたいですよ。
残念ながら隠蔽系のスキルはついてないみたいですけど、もっと進めばそんな素材もありそうですよね」
「スキル化されてなくても見づらいもんは見づらいから効果はあるんじゃないかな?そうじゃなくても、追加効果を付けられたって話がなかったっけ?」
「そう!それなんですよ!
やっぱりあったんですよ」
急にミル・クレープが前のめりになった。話が見えないな。前にそんな話題が出てたっけ?
首をかしげる俺を気にせず、彼女は言葉を続けた。
「素材の質で付与できる数が違うって言われてましたけど、ちょっと違うみたいなんです。
プラスレベルの合計と付与数それぞれに制限があるんです」
「えーっと……プラスレベルの合計ってのは、つまり、【剣】1【盾】2と【剣】3が同じ扱いってことか?で、付与上限が2だとしても、レベル上限が3なら【剣】3にはさらに付与できないと」
「ええ。そのようです。って言っても、自在に付与できるプレイヤーはまだいないみたいですよ。作ったものに付与されていることがあるってだけで」
「それなのに、よくまあ検証したな。
で、付与はスキルレベルが高くないと無理なんだろ?」
「今のところは付与確率は低いみたいですよ。……ただ、噂レベルですが、有名な職人さんの中には、自在とはいかなくても結構狙える人もいるみたいです」
「自在にできるなら伝説レベル、そうじゃなくても世界有数の職人って落ちだろ?鍛冶で言えばドワーフの名工ってヤツ。まあ、よくある話だよな」
「スキル作成だとある程度ランダム、手作りじゃないと狙えないってのが通説ですね。
制限は素材によるみたいですけど、種類だけじゃなくて質にもよるんじゃないかって言われてます」
「まあ、そうだろうな。高品質の方が良いってのは当たり前だろ」
「ええ。
スキルに関してもまだ上限に達した話も聞かないですし、進化させたプレイヤーはちらほらレベルです。先は長いですね。進化じゃなくて派生を取る人もいるみたいですし」
ん?上限に達してないのに進化?そうなると、進化させる前に限界まで伸ばしたくなるな。
それに派生?そうなると、スキルの数が桁違いになってくんじゃないかな。大丈夫か?
「限界前に進化できるのか。それに派生も。やり込み要素すごいな」
「スキルだけだとSPが足らなくなりそうですよ。進化でも派生でも使いますから。
上限までのレベル上げは中々に難易度が高いみたいですよ。やっぱり、上がれば上がるほど、スキルレベルは上がりにくくなりますし、進化させた方が効果が高いのにレベル上がるし。5レベル毎でSP手に入りますから、切りの良い所で変えるプレイヤーが多いですよ」
「始まったばかりだから、先へ先へってプレイヤーが大半だな。
……そうなると、逆に限界になるまで上げたくなるな」
「きついですよ?単純に物を作っていればレベルが上がるわけじゃないですから」
「やっぱりそうか。そんな気がしていたんだ」
「同じものを作っていても貰える経験値は減っていくんです。レベル上げに必要な経験値は増えますし、レベル上げは大変ですよ」
「新しいレシピの価値が上がるな。先に進ませるギミックとしては正しい」
「だから、先に行きましょうよ」
「まだ街間の移動ができるスキルやサービスは見つかってないんだろ?なら、戻ってくるのは面倒だからこっちでできることをやってからにしたいな」
「……まあ、それはそうですけど。
師匠と一緒に遊びたいんですよぉ」
最後の方は小さな声なので良く聞こえなかったが、彼女の表情と仕草を見ればわかる。特に何をしたわけでもない師匠をよくもまあ慕ってくれるもんだ。
正月に会ったきりの甥っ子を思い出した。思わず頭をポンと撫でてしまった。
「セックに行くときには先約があったが、次の街へは、ミルの都合がつくならお願いするから。
その時は頼むな」
「はい!」
周りに恵まれた。本当にそう思う。
……さて。これから何を作ろうか。