12-7 弟子の現状
「それでですね、みんなのレベルも上がったことですし、今度は森の方へ行ってみようと思うんです」
「森って、東門の先?もう行けるんだ。すごいな。
まだまだ数が少ないだろ?」
「いやいや。もう行くための条件が固まったみたいですよ?検証班様々ですね。
東は、レベル20と討伐依頼を10件達成することです。まあ、レベル20に行く頃には自然と討伐依頼の数は超えますよね」
それだけの討伐依頼をクリアするころには、ランクも上がって、冒険者としては新人から片足を抜け出した位置に到達したと言える。ギルド員曰く初級冒険者になるそうだ。
納品や採取だけで行けるランク10までは新人や初心者、25までが初級者、40までが中級で、それ以上は上級。初級が長いと思うけれど、それは一か所に居つく冒険者を作らないためだとか。実力のある冒険者は、その実力にふさわしい依頼を探して国内どころか複数の国を跨いで冒険を繰り返す。その中で、少なくない量の交易がおこなわれ、世界がつながり広がっていく。そうやって成り立っている世界らしい。
商業活動にがっつり冒険者が絡むってのは不思議だな。ただ、よく考えると険しい山や深い森から採取するのは商人には無理だろうから、それも当然なのかも。運べる量には限りはあるが、護衛依頼の時だって自分で持てるなら行商人と同じことができるわけだし。実際に、セックとの間ではやってもらったし。
「戦えれば、強くなれば大丈夫な東門と違って、西門は街中の依頼と護衛を10回ずつ達成しないとダメなんですよ。それも、評価は高めで。
ランクも15は必要ですし、攻略組の中には、メンバーに中々許可が出なくて解散しかけたチームもあるとかないとか」
「東の森の方が難しいって聞いたんだけど、西も面倒な基準があるんだな。西門の先って何があるんだっけ?」
「実は、商業都市とか、王都とからしいです。つまり、この国の中心地ですね」
「ほほぅ。そっちに行くと世界が広がっていくのか。……東は?」
「深い山があるそうで、そういった意味での価値はないかもしれませんね。ただ、敵も強くて、素材も色々と手に入るみたいなので」
「冒険するにはもってこいってか。やっぱ山の方面は強敵なんだな」
「大抵のゲームはそうですよね。
で、西ですが、要はここアーク出身の冒険者として紹介できる人物じゃないと外に出せないよって事みたいです。街で暴れた経歴があるプレイヤーは、さっきの条件をクリアしても出られなかったって聞きましたし」
ここアークは辺境と呼ばれる場所に位置している。そこから国中に、そして世界中に多くの冒険者が旅立っていくのだ。始まりの街としての価値を損なわないためにも、ある程度まともでないとアーク出身の冒険者と名乗れないようにする方策の一つ。そもそも、外に出さなければ他所で不名誉なことができないってことだな。まあ、それ以外にも、不名誉な冒険者をギルドが処罰する制度なんかもあるらしいけど。
うーん。ちゃんと法律的なのを知っておいた方が良いのかな。基本的な、街中で暴れるなとか、窃盗暴行とかは犯罪的なルールは把握してるけど……まあ、常識だからね。ただ、細かいところは現代日本とは違うんだろけれど、詳細に確認したことないな。あ、「貴族の権力絶対」的なルールもあるんだろうけど、その程度も知らないや。そこら辺は小説やゲームによって違うから、思い込みで動くとやばいかも。今更ながらに心配になってきたな。
「門を抜ける際には、セバンスさんをはじめ、この家の皆さんには色々お世話になりました。もう、足を向けて眠れませんよ」
「ん?なんでだよ。
さっきの基準なら、特に何かセバンスにお願いすることなんてないだろ」
「いや、それですよ。その基準。ちょっと思い立って、セバンスさんたちに聞いてみたら……」
「聞いてみたら?」
「常識らしくって簡単に教えてくれました」
「マジか!」
「マジです。数値に具体性はなかったですけど。
まあ、他のプレイヤーが先に住民から情報を貰ったみたいで、具体的なランクや依頼数とかは、その情報を元に検証したって話です。でも、私たちにはその情報を買う余裕はなかったですし、早く行ってみたかったですから本当に助かりました。
守るべきルールも教えてもらいましたし。犯罪については、まあ、常識の範囲内でしたね。ただ、危ない話も聞いたんですよね」
「危ない話ねぇ……貴族関係かい?」
ちょうどそんなことを考えていたから、思わず口から洩れた。でも、よくよく考えたら、積極的にかかわらない限り問題ないか。貴族全部がむやみやたらに権力を振り回す設定なら、国として成り立たんだろうし。
「そっちは、ちょっとだけですね。大きな商売をするなら、関わり合いが出てくるだろうってくらいです。
メインはほら、こういった世界じゃ必ず超える必要があるものですよ。山賊や盗賊。
そう、対人戦です」
「……PKがあれば別だけどなぁ。現代人が慣れてるなんてありえないから大変だよな」
「いやぁPKがあってもちょっと違いますよ。何せ、ここの人たちは生きてますから。人生背景なんて考えだしたら、武器振るう手も止まります」
「……リアルの血生臭さはないだろ?案外平気なプレイヤーも多いんじゃないか?」
「このリアルさですよ?単純な盗賊退治だけならまだしも、実際はかなりメンタルに来ると思います。被害者もそうですけど、実際に街中に潜む仲間もいるって聞いてるので、日常との切り替えが、ねぇ」
「あー。顔見知りが盗賊の仲間とかだと、衝撃を受けそうだな。剣を振る手も鈍りそうだ。
……うん。やっぱり、街に引きこもるべきだな」
「うがー。師匠の引きこもりが悪化してしまった!」
頭抱えるほどか?失敬な。
俺はただ、街の外に出る必要性がないだけだ。それに、セックには行くぞ?やることがあるからな!