12-5 レシピ
「図書館の本を読み漁れば、それなりにレシピが手に入るんだろ?」
「【言語】のレベル上げが必要になるから勧めはしない。中には、【絵】や【解読】が必要なレシピもあるらしいが」
「ほほぅ。そんなのもあるんだな」
「文字だけで書かれた図面で家は建てられないだろ?レシピによっては、必要とされるスキルも、知識も多岐にわたる……と推測される」
「よくある話ではあるが……」
「実際に高度なレシピは見つけられてはいるが、習得に必要なスキル条件まで確定していないからな。たぶんそうだろうってことだ」
何せ、読めんのでな。とはマスターの言。
特殊な場合を除き、他のゲーム経験者が多ければ多いほど、よくある設定ってのは看破される。突飛な設定ばかりのゲームってのはそんなにない。どうしても、どこかで見たようなものがあるのは仕方ないことだ。
だから、習得に必要な条件なんかもかなりの確度で推定される。特にリアル感を大事にするゲームだから、まったく関係のない条件は付けられないからな。
「今持っているレシピに関する情報はそれくらいか?」
「メインは個別のレシピ内容だからな。そこに踏み込まなきゃこれくらいだ。
そうだな……あえて言うなら、その街独自のレシピがある……はずだ。各ギルドの資料室はもちろん、クエストや珍しい依頼は積極的にこなした方が良いだろうな。それと、住人の願い事だな」
「いやに断定的だけど、根拠があるのか?」
「その土地ならではのことを学ぶのに、住人と仲良くなって悪いことはない」
「そりゃそうだ」
「残念ながら、提供できる情報はこれくらいだな。あ、スキルでのレシピは自動書記が可能だが、技術でも同じに自動書記だ。ただ、技術であれば、追記や詳細など自力で書くこともできるぞ。どちらにせよ筆記道具が必要だから気を付けると良い。
それと、特に技術は、後々のためにもレシピを書いておくことを勧める。人間ってのは忘れる生き物だ。自分なりの工夫や注意点を足しておけば、類似のレシピを作るときに役立つぞ」
筆記用具の用意は、特にスキルでは大抵引っかかるミスとのこと。まあ、【薬剤】で素材があれば瓶入り薬ができるって具合に、だいたいが全自動で全力サポートのスキルの仕様なのに、そこだけ筆記用具が必要ってなることを何もせずに理解しろって方が無理だろ。
まあ、レシピの作成については、スキルの能力でもアーツでもないってことなんだろうな。
技術での筆記用具はわかるけれど、気を付けないと文字が日本語になるってのは盲点だったな。同じプレイヤーなら問題ないけれど、売ったりするなら暗号文書と変わらない。そのため、日本語表記レシピは買いたたかれるそうな。
「普通にレシピって売ってるのか?見たことがないんだが」
「そりゃ、店先に並べて売るもんじゃないからな。各ギルドである程度の功績を積んだ上で初めて購入できる。まあ、ランクを上げとけってことだな。
露店でも売ってるが……ハズレ率が高くてな」
「ハズレかぁ」
「買う前に見せてもらう訳にもいかず、見て即偽物と判断できる人物ならそもそも買わない。詐欺がはやるわけだな」
「半分前金として、成功報酬ってのは」
「それをするには、買う方の信頼性が低いな。見も知らぬ者を信じられないのはお互い様だ。実力不足での失敗なのに、偽物扱いする輩もいるだろうし。
そういった観点から、まっとうな取引は3つ、いや4つ」
「そんなにあるか?」
「一つはさっき言ったギルドで買う。基本的なレシピしかないがまあ、一番安全で間違いがない。二つ目は店舗や住人から買う。長い付き合いなら尚良し」
「露店じゃなければ良いのか?」
「店があれば、詐欺の利益よりも損失が高いだろ?店じゃなくても、生活基盤がそこにあれば同じだ。それを投げ捨てて逃げるほど価値あるレシピでもなければ偽物って可能性は限りなく低いな。
あとは、ギルドの立会販売を利用すること。知ってるか?」
「立会販売?聞いたことはないが推測はできる。売買に立ち会ってもらうってことだろ?」
「ああそうだ。取引の際に契約書を交わし、そこにギルドも署名をする。違約の際はギルドからも違約金請求がくる方式だ。手数料もかかるが、ギルド経由の売買に比べれば、な。
手数料は取引額の1割。支払いは大抵頭金方式だな。通常6割」
「ギルドを敵に回す気がなければ詐欺は無理だな。……ただ、プレイヤーは支払い前にデスペナで所持金を失う可能性を考えると……」
「事前に、必要分ギルドに預けることを勧める。宿屋などにタンス預金するのは、止めとくべきだな。
ちなみに、真贋判定や商品追跡などはオプションだな。住民が良くやる方法は、レシピをそのままギルドに預けて、材料を用意してギルドで作る。全部含めてもギルド経由で買うよりも安いが、手間はかかる。
ま、売買としてはこの3つだ」
本物の証明があるところで買う、信用・信頼できる人から買う、偽物だった場合の対処をして買う。まあ、まっとうな手段だな。ん?4つって言ってなかったか?
疑問が表情に出ていたんだろう、にやりを笑みを浮かべてマスターが口を開いた。
「そして最後に、直接学ぶ」
「確かに、買ってない……か?」
「売買とは言いづらいな。だから、取引として4つ。
金出して教えてもらうんだ。短期間家庭教師と言うか、指導者派遣事業って感覚だな。
プレイヤーなら金で済むだろうが、住人相手だとクエストや信頼が必要になる。当面は中々ハードルは高いだろうな」
「先に進むプレイヤーが増えれば……それでも、店での購入が基本かな?」
「そうだな。個別に対応してたらやってられん。色々言ったが、店にリストだけ出して、受注生産での売買が基本だな。そう腐らないから高いもの以外は在庫もあるだろう」
こういっちゃなんだが普通だな。でも、そうか。現実だろうが仮想だろうが、売買は売買。商取引の考え方になるわけだ。将来的には、為替なんかもできるかもな。
「まあ、金貨2枚だと情報はこれくらいだな。……ただ、これ以上いくら積まれてもレシピの中身を除けば渡せる情報なんてないがな。
あ、そうだ。知っとるかもしれんが、レシピの値段は、高いぞ。なにせ、それを学べば最低限の収入を作り出せる術だ。買おうってのなら、気合入れて貯めろ」
ご忠告どうもありがとう。