2-4 順調
7時間以上仕事をしても現実では3時間経ってないって、何かあれだよな。室内で時差ボケになりそう。
月曜からの準備をする。仕事?違います。
おかずを作り冷凍。ご飯を炊き冷凍。どちらも一食用に小分けにしておく。そうやって、忙しい平日の時間を節約するのだ!作ってくれる人も居ないのでね。
早めの夕食と風呂に入り眠る。
お休みなさい。
狙い通り、5時には目が覚めた。朝食から出かける準備まで全て整えても、まだ1時間以上の余裕ができたので、早速ダイブ。
ゲームの世界はまだ真夜中。
こっちで1日居なかったわけだが、順調に作業は進んだらしい。
なぜわかるって?机上の袋にメモがついていた。
「販売(小)100(中)201、私作成(小)230薬草20、冒険者ギルド100枚は私使用」
……袋の中身は見たくない。俺は小市民だ!
虚しい自己暗示の結果、俺の所持金は15,922G、薬草残り208枚と相成りました。
いいんだ、【鑑定】【水魔術】【薬剤】がそれぞれ1上がったから。
それじゃあ、3時間(ゲーム内)でできるだけ作るか。
今回は、残っていた初心者魔力薬5個使って、3種類を作りまくろう。これで、初心者魔力薬は残りは5個だ。
……魔力草も大量に手に入るなら、回復薬と同じように作りまくれるんだけどな。
3時間で、(小)100(中)40(大)50。今回の成功率は高かった。
ただし、(大)は売らないコーナーへ。売上配分を決めてからにしたい。
残り時間は、あと30分。そこで止めて仕事に行かなくては。
余った薬草はあと2枚。これで、ちょっとだけ実験だ。
作るのは、(小)よりも効果の低い製品。(小)の考え方から、水を4倍入れればできるんじゃないかな。
ごりごり ピチャピチャ くつくつ どばどば かんせー
はい。失敗。
モノはできてますが、失敗です。
結果は、ほのかに色づいた水になりました。効果はないです。飲んでも水と同じですが、なにか手を加えようとすると茶色くなります。
そっか。(中)から(小)で倍に薄めたら効果が4割に落ちたんだから、更に倍だと薄すぎるのか。
じゃあ、3倍で試そう。
ごりごり ピチャピチャ くつくつ どばどば かんせー
“鑑定”
初心者回復薬(微)品質40 HP回復10 回復薬。一歩足りないため、力あるものには効きづらい。
……効果は狙い通りだけど、なんだ、この説明は?
あ、もしかして、高レベルに効きづらいってことか。それと、工夫すれば普通の回復薬になるってことかもな。
MPの許す限り(大)を“鑑定”してログアウト。
説明文は同じでした。初心者回復薬系は同じように表現されている。【鑑定】のレベルが上ったから表示されるようになったんだね。ここのところ鑑定していなかったからわかんなかったよ。
沢山鑑定したり製作して表示されるようになった内容は、“鑑定”で表示される情報よりもすくないんだな。
時たま、既知のアイテムも鑑定するか。
ではこれも売らないコーナーへ。
さて、仕事に行こうか。
仕事は順調だった。月曜とは思えないほどに気分がスッキリしている。
午前中で今日予定していた仕事は終わったので、午後はまだ期限前の仕事を片付けられる。これなら、水曜の有休も無問題!
昼飯もいつもより美味しく感じる。
「水曜の仕事終わりに取りに行くから」
朝丁度会った須佐見には水曜に届くのでと伝えたら、食後にそう言われた。
「なんだ、木曜は有休か?」
「もちろん!」
いや、冗談だったんだけど。
「会社辞めるなよ。企画のホープ」
本気半分で忠告しておく。
「抜かせ!すぐに追い抜いてやるわ!」
効率重視の廃ゲーマーではないが、須佐見はそれなりに情報収集をするタイプ。
ゲームでは事前情報無しで始める俺とは違い、色々と調べているみたいだ。
須佐見が本気でやれば、俺なんてすぐに超えられるだろ。
「勝手にしろ。俺はまったり派だから」
よく考えたら、レベルも1だし、そもそもアークから一歩も出てないぞ。
次の街への行き方も知らないや。
外から見たら、まさにまったりプレイ。やってることは薬剤地獄だけど。
「まったり派でも、先行しているアドバンテージはすごいぞ。
どんな感じだ?」
「まだ、はじまりの街アークだな。俺は生産系だから」
【錬金】の評判が悪いらしいので、そう濁す。そもそも錬金成功してないし。
「生産かー。『冒険者達』じゃそっちは厳しいんだよな。でも、お前が順調って言うんだから、結構稼いでるんだろ?」
「なんだ、人を金の亡者みたいに」
いや、堅実だから、なんてシドロモドロに弁解する須佐見。
「まあ、今はクエスト中だけど、資金は1万Gは貯まったな」
使う宛もないから、溜まる一方だ。
「おぉ。じゃあ、もうスキルは7つか。早いな」
なんだそりゃ?
見てわかるほどに不思議そうな表情をしていたのか、呆れつつ教えてくれた。
「いくらなんでも基本情報くらいは調べろよ。スキルの開放条件は、最初3つ、時間経過で2つ、神殿への寄進で2つ、新しい街への移動で1つ、クエストで2つのスキルスロットだぞ。寄進は、累計5千と1万だ」
「ほーそりゃ知らなかった」
俺の知ってる基本情報は、販売用の専用HPにあったやつだけだし。それもたいして読んでない。
おかげで何でもかんでも目新しくて楽しいぞ。
「ま、寄進は生産系、クエストは戦闘系が獲得しやすいように工夫した結果だろ。スキルが全部埋まってからが本当の勝負だからな」
そう言って去っていく須佐見を思わず拝む。ありがたい情報をもらった。
帰ったら早速神殿で寄進をして、MP関係のスキルを取ろう。
……あれ?SPあったっけ?
シャワーと食事をとってからダイブ。
恒例のチェックでは、【鑑定】【水魔術】【薬剤】が1上がっていた。【水魔術】が5になったからか、SPも1に。
レシピには初心者回復薬(微)が追加されていた。
なお、薬草は残りがなく、机上には配分された売上だけ。これで19,622G。1G100円としたら200万円近いぞ。
(大)の残りを“鑑定”してからお店へ。
お客さんの数はある程度落ち着いたみたいだ。なにせ、平日昼間にダイブするプレーヤーには低レベル初心者が少ないからな。
それでも、お店はトルークさんが手伝ってポム店長がギリギリ回せるレベル。
って、おっさん。仕事は良いんですか?
「これも仕事の一環よ。ギースト、お主を待っていたのだ」
どう見ても、ポム店長が狙いだと思っていました。お似合いですよ。
「まずは、冒険者ギルドから薬草を取ってきて貰えるかしら?」
俺らの会話を遮りながらポム店長からの依頼。
「はい」
さて、またダッシュで行きますか。
神殿に寄って1万G寄進しつつ、冒険者ギルドへ。
ギルド長にお小言を貰った後、倉庫で大量の薬草を頂きました。
……1000枚はないわ~。
なんと、ポム薬屋大繁盛の結果、他の店での需要が激減。ギルドに集まる薬草がだぶついているらしい。
それでも、普通であればここまで集まらない。いくら魔力を吸収して成長する薬草でも、そこまでの資源回復力はないからだ。原因のもう一つは、このあたりにインスタントダンジョンが発生。しかも、この街の領主が管理しているかららしい。
ちなみにインスタントダンジョンは、別名陽炎迷宮。ランダム発生の迷宮だ。時間経過で成長して、ボスを倒すか、実時間3週間経過で迷宮モンスターを放出して消滅するお宝兼迷惑施設だ。
宝箱の中身も迷宮と共に育つので、いつ倒すかも問題となる。
位置情報もそれなりの金額になるから、祝福の冒険者には歓迎されるらしい。
採取は難しいけど、インスタントダンジョンでは宝箱から手に入るから、かなりの数が納品されているとのこと。
まあ、こっちの季節で夏の半ばには攻略されるから、それまでの辛抱だ。……今は春の3月だけど。
競争相手がいないと儲かりますね。