12-3 重要だけど自分には不要
【解体】スキル。お役立ちスキルと言われるも、攻略メインの方々にはちょっと不評なスキルだ。効果は、スキルレベル%で追加ドロップ。デメリットは、どんなスキルにも共通しているけれど、スキル枠を1つ消費すること。現状、最大で10枠しかないんだから、明確なスタイルを持ったプレイヤーには敬遠されがちである。
ちなみに、収入アップになるからそこまで嫌われているスキルではない。生産系でも、本当に作りたいものは技術で作る派にはそこそこの人気とのこと。軌道に乗るまでの時間が短縮できるらしい。
つまり、攻略最前線を切り開いていくことが目的な攻略組に入る須佐見には、縁遠いスキルのはず。つーか、この辺りの情報を教えてくれたのはお前だろうが!
「【解体】は攻略には死にスキルって言ってただろう?ウルフとの連続戦闘に慣れて装備とか薬とかの消耗も減ったから余裕が出てきたって言ってなかったか」
「おっ。よく覚えていたな。そのときはその通りだったからな。でも今は違うだろ?いや、そうか。宗谷は知らないのか。
……あー、どうしようかな。教えようか、止めとくか」
「何かの新情報か?だが残念。聞いてもまともに報酬が払えない。
気にはなるけど、その程度だ」
正直、攻略に関する情報は、別にそこまで欲してない。どうせ、俺にとって攻略なんて二の次、三の次。気にはなるけど、無理して聞く必要もない。なにせ、最近はまともに公式情報すら調べてませんから。
俺にとって、攻略情報ってのはそんな位置付け。それと同じ匂いがする情報だからな。と言うか、そもそもあっちでは須佐見との絡みがないわけで、今までのようにお互いに情報を交換するのでない限り報酬の支払いようが……あ、メッセージである程度の金やアイテムを送れるの?そうですか。勉強になった。
そんな俺の反応はどうでもよくて、須佐見自身が話したくってうずうずしているんだろう。昼食をかきこむ速度が上がっている。はいはい。ちゃんと聞きますよ。
「俺たちは、金曜の夜にこの情報を買った。瞬く間に購入者が殺到して、予定金額に1時間で到達だってさ。
いつもなら、予定金額を売り上げた翌日にまとめ情報ページに簡易版が掲載されるんだが、あまりに影響が大きい情報で購入者から対応が難しいって指摘があったから、異例なことに日曜の朝に公開された情報だからな。
公開されてからはもう、プレイヤーにとっては常識の情報だから、報酬なんてもらえんよ」
「俺が知らなきゃ、それは報酬支払うべき情報だろ」
「そうは言っても、お前にゃ正直必要ない情報だろうな、今のところは。
実はな、スキルの取り外し方法が分かったんだ。ちょっと時間がかかるが、10個に縛られる必要がなくなったわけだ。
でも確か、宗谷は全部選んでないんだろ、スキル。で、技術メインでやってる。ほら、微妙な情報だろ?」
「……なかなかに重要な情報だろ、それ。先々を見据えてスキルを取ってなかった人だっていただろうに」
「そうは言うけどな。そこまででもないんだ、これが。
なにせ、スキルと同じ技術を覚える必要がある。それも、どっちもレベル10まで育てなきゃいけないんだ。そうすると、そのスキルは外すことができるようになる訳だ。ちなみに、外し方はメニューでスキルを選択してドラッグするやり方しかないみたいだな。
難しいわけじゃないけど、ちょっと面倒だからなぁ。狙った技術を覚えるの」
「目的がしっかり決まっている人ほど遠回りに感じるだろうな。でも、それ以上の恩恵があるんだろ?」
「やっぱり、スキルでも技術でも、あると便利なんだよな。【解体】で言うなら、スキルが上がればドロップも増えるし、レアの確率も上がる。先に進めば進むほど価値が出てくるな。
技術なら、こっちも確率で死骸が残る」
「マジで?丸々残るのかよ。
グロ注意だろうけど、得られるものは桁が違うだろ、それじゃ」
ドロップはせいぜい、毛皮や牙などの素材や肉が一つ。ボスですら数個がせいぜい。それが、【解体】なら数倍になるってのなら覚える価値がある。
しかし、俺の指摘に須佐見は軽く肩をすくめた。そう美味い話はないみたいだ。
「残念ながら、そこまで有利ではないな。ちゃんとデメリットがあるんだ。
まず、なぜかわからんがインベントリに入らない。持ち運ぶか、必ず解体をしなけりゃならない。解体すればインベントリに入るんだから困ったもんだ。
解体の際はグロも注意だけど、ちゃんと腕がないとドロップの方がよっぽど良い素材しか得られない」
「……まさに、技術なわけだ。デメリットも多い。リアル解体だな」
「その通り。まあ、それ以上に恩恵もあるからね。成功さえすれば、数倍のドロップが手に入るわけだし。
得られるのも、ドロップなら肉だったものが、もも肉とか部位名付きで手に入る」
「そりゃすごいな」
「通常だと廃棄する内臓のような素材だって手に入るんだから、今後は生産系プレイヤーの護衛をしながら小遣い稼ぎするには必須の技術になる」
「惜しげもなく情報開示するな……もしや、覚え手が少ないのか?」
「ご明察。なんだかんだ言って、グロはきついな。それに、解体しなけりゃインベントリに入らないのがきつい。ドロップなら倒しただけで手に入るからなぁ」
「あーそっか。それなら、弓使いとか厳しいな。あと、遠距離魔法」
「連続戦闘の時には邪魔になるし、血の匂いが別のモンスターを呼ぶこともある。下手なら利益がほぼないし、そもそも時間がかかる。せん滅系の依頼なんて受けてみろ。物によっちゃ、戦闘時間よりも解体に時間がかかるぞ。
二の足どころか三の足を踏ませる設計だな」
メリットを享受しているからこそ、不満が出ているんだろう。でも、もっと便利にすると全プレイヤー必須になっちゃう。そこの辺りがゲームバランスってやつなんだろうな。
そんな話をしていると、瞬く間に昼食の時間が終わってしまった。楽しい時間ってのは過ぎるのが早いよな。