11-14 弟子
「フィールドボスってハイウルフとその取り巻きだっけ?
これから先、コンスタントに倒せると思う?」
「うーん。倒せはすると思いますよ。レベルも上がりましたし、戦い方もわかったので。
でも、なんでです?一度倒したから、普通に行ったら出ませんよ?
あ、護衛ですか?」
「そ。よくわかったね」
「さすがに、メンバーが変わったらもっと上げないと難しいですよ。チームワークもですし。
なので、そういった依頼はまだ受けられませんよ」
俺をパーティーに組み込んで守ってくれた『名無し』のようなことをするには十分なレベルとプレイヤースキルが要る。そうじゃなければ、負けてしまうからな。ただ、今回はそうじゃない。
以前会った『鉄壁』からの情報なんだが、他にもフィールドボスに出会う方法がある。聞けば、ああなるほどって思うけど。
「実は、パーティーに組み込まなくても大丈夫な方法があるんだ」
「そうなんですか?掲示板でも見たことないですけど」
「まあそうだろうね。この依頼を受けられる人は、こっちの冒険者ばかりだったらしいから。信頼が何よりも重要な依頼だから。
その方法は……」
「その方法は?」
「乗合馬車の護衛だ。確実ってわけじゃないが、時々出るらしい。
しかも、乗客に未討伐者がいた場合は必ず出る」
もちろん、討伐云々は祝福の冒険者限定だ。戦闘なしでセックに行かせないと開発者は考えてるって意見もあったけれど、これでも強い護衛がいれば無戦闘で行けるよな?たぶん、アイテムの供給源って考えなんじゃないかな?って俺は考えている。
ハイウルフはアーク周辺にはいないらしく、その素材はそれなりの金額で取引されているのだ。皮鎧にすると、この辺りの素材の中じゃ一級品になる。
「さすがに馬車の護衛は……」
「馬車に乗るのは祝福の冒険者。つまりはプレイヤーだ。ボスは倒せなくても、ウルフの数匹には負けない。だから、馬車の心配は不要だ」
……たぶん。
こんなことができるのは、範囲攻撃がないタイプのボスだから。ここでしかできないことだろう。
「パーティーメンバーがフルで、乗客を気にしなくていいんだったらできると思わないか?」
「……それならまあ……」
「まあ、友達と相談してから決めてくれていいけれど、受けるときはセバンスに言ってくれれば、依頼を出すよ。馬車はこまめに出ているからいつでも良いんだが、今日の夜にはお終いかな。そろそろ迷宮崩壊が始まるだろうから」
「そっちの締め切りがありましたね」
「まあそのための依頼だからね」
普通なら、こんな面倒なことまでして、プレイヤーもアイテムも輸送しない。緊急性は低いとはいえ、迷宮崩壊が起きるからしているまでだ。
そう思っていたら、ミル・クレープの表情が緩んだ。ふんわりとした笑顔になる。
「……師匠って優しいですね。いつもここの人たちのために一生懸命です」
「そうか?誰でもできることをできる範囲でしているだけだぞ?採算も見てる。損もしてない」
「……そして、自己評価が低くて、少し自虐的ですよね」
「……」
過分な評価である。
そう言いたくもあり、しかしながら、自覚もあり。
自然と目をそらしてしまった。気が付けば、手も止まっている。……区切りの良いところまでやってあるのは、さすが俺!生産行為が無意識にまでしみ込んでいる。と自画自賛。
「なんだか……」
彼女が言い淀んでいる先はわかる。他人のような気がしないんだろう。それは、まさに似ているから。俺は、挫折した、諦めた、君の慣れの果てだ。だからこそ、言わなくてはならない。こうなってほしくないと。
口をつぐみ、目線が下がっているミル・クレープを見つめ、口を開く。
「優しいわけじゃない。臆病でいい加減なんだ。今回だって、できることをしなかったと言われるのが嫌だからしているだけさ。
あとの二つはあれだな。何とも言えないな。
実は、俺は見も知らぬ他人からの評価ってあまり気にしない。と言うよりかは、他人の意見を聞いてしまうと、それに流される性格だから聞かないようにしているかな?だからどちらかというと、自分の中の評価基準で判断している。なので、自己評価が低いとか自虐的とか言われても、答えようがない。
もちろん、実際に見聞きすれば気になる。だから、ネットでの情報収集をしないんだ。どこで自分のことが言われてるかわからんからな」
仮にも社会人なので、もちろん、会社では当たり障りなく勤務している。見知っている他人からの評価ってのはちゃんと気にしてるんだ。周りから浮くと仕事がしにくいので。
知人から言われるとああそっかと思い、できる限り直そうとは思うけれど、性格や考え方ってのはなかなか変えられない。特に大人になると。
「……でも……」
「でも、言われたことがないわけじゃない。自分なりには、原因もわかっているし、どうしたら良いかってのも、な。
いつでも直せるって思っているし、別に不便を感じているわけでもないし、これが自分だからな」
そう言って笑う。……あ、ダメだ。駄目な笑顔だったな。彼女の表情がそう語っている。
それでも、俺ができるのは笑うことだけ。なぜなら、これが俺だからだ。今更、そう今更変えられない。
「まあ、でも、そんなに簡単なことじゃないんだろうな」
「……理由を。
理由を聞いても良いですか?」
「楽しい話じゃないぞ。特に盛り上がりもない。ただのつまらない昔話だ。何より、ありふれている。
だが、まあ、ここまで話したんだ。嫌じゃなければ聞いてくれ。
何。作業ついでに聞き流してくれればいい」
止まっていた手に力を入れ、再び動かしながら。
ゆっくりと口を開いた。