11-11 予定変更
「倉庫の返却ですか?はい。こちらで大丈夫ですよ。
もしかして、アークに戻られるんですか?稼ぎ時はこれからですよ?」
「ちょっとやるべきことがありまして」
「はあ。有望な生産者が減ることは残念ですが、お引止めするのもご迷惑でしょうから」
なんか生産ギルドの職員にそう言って貰うと向こう行かなくても良いかなって気になっちゃうな。うだうだと芯がない自分がちょっとあれだなと感じる。まあ、別に人生かかっているわけじゃないので、その時その時で考えているだけ……だからフラフラするんだけどな。
肝心の倉庫の返却自体はすぐできた。現実で言うところのウイークリーマンションみたいな扱いだから、期間途中の解約についての再確認があっただけだ。ほとんど返金されないけれど、それは期間もほぼ終わっていたから。その点でもちょうどよかった。ただ、あっちの受付の人が何か言いたそうにこっちを見ているな……おっと素で忘れてた。あったじゃん、受けている依頼。
すぐ帰れないって外で待つシェールに後で言わないとだめだな。
「まだ少しは居ますし、今まで納品していた初心者回復薬などは、継続してあちらのシェールが持ってきますから。
不足によって崩壊でこの村に被害が出ても寝覚めが悪いですし」
「ありがとうございます……でも、倉庫を返却されましたが大丈夫ですか?」
「何がです?」
受付の人が何をそんなに心配してくれているんだろうと疑問に思う。書庫整理をするだけだから、要領もわかったし、リアルで一日あれば終わるだろ?
うん。忘れていたのは、正規の依頼ではなくてクエストって形で受けた書庫整理だ。一区切りついてログアウトするために倉庫に向かっていたから忘れていたよ。
……そうか!ログアウトか。
「ギースト様は倉庫で寝泊まりされていたのでお伝えしていませんでしたが、今はどんどん冒険者が増えていまして、宿に泊まれるかがちょっと……」
「……ああ、そうですね。宿の問題がありましたね。
ちなみに、他の冒険者はどうされているんですか?」
「今は柵の外、新しい柵との間でテントを張られていますね。外の柵の近くですと必ずしも安全とは言えませんが、一方向、それも草原側が柵に守られていることから比較的安心できる宿泊所になっています。それに、そこそこの人数がいますから。いちいち戻るのが面倒と、柵立てや夜間見回りの依頼を併せて受ける人も多いですね。
数が少なかったときは広場でしたが、さすがに今は……」
「ああ、まあそこは何とかします」
考えていませんでしたが。まずはシェールさんに相談してみよう。アークにあったような祝福の冒険者専用ルーム的なのがある宿屋を知っているかもしれないし、納屋を貸してくれそうな知り合いだって。どうにもならなかったら自己責任で書庫の隅でログアウトさせてもらおう。祝福の冒険者はログアウトしてしまえば何も残らない。すなわち、立って半畳寝て一畳の空間さえあれば何の問題もないのだから。
さて。もうこれで忘れていることはないかな?話していた受付から離れると、こっちを見ていた受付の人に手招きされた。はいはい。なんでげしょ?
「アークに帰られるって聞こえてきましたが、書庫整理、大丈夫ですか?お忙しいのでしたら無理されなくても……」
「問題ないですよ。要領はつかめたんでそれほど時間かかりませんし」
「はあ、まあ、それなら」
「ただ、すみませんが、終わるまで書庫に引きこもっても大丈夫ですか?」
「……引きこもりですか?えーっと」
「私は祝福の冒険者なので、寝るときは居なくなりますから場所取りませんし、邪魔にもなりません。汚れませんし。ただ、一席だけを作業が終わるまで私の居場所として確保しておいていただければ」
「うーん……あまり使われていない部屋ですし、今必要な資料は全部出してありますから、崩壊騒動が終わるまでは使うこともないでしょうし……わかりました。使っていただいて大丈夫です。
ただし!期間は1巡とさせていただきます。それ以降は保証しません」
1巡ってことは、5灯なのでリアルでは2日弱。ログアウトすれば【言語】レベルも上がるから作業効率は向上するだろうし、まだまだ接続可能時間は残っている。
うん。大丈夫だ。
そう判断したので、早速にシェールへと今後の指示を出す。最初は一緒にこれから帰る予定だったから、またもやの予定変更になるけれど、それは別に構わないだろう。セバンスの手紙も俺がこっちに居続ける前提で書かれていたし。
シェールは、俺の作業が終わるまでは、今まで通り、アークとセック間を移動しつつ、商売。特に、こちらで皮などを購入して向こうから持ってきた回復薬などを納品するのだ。利益よりも、こっちの防衛線に役立つ物を運び入れることに重点を置く。
メイド達は、もちろん生産がメインだ。世話する対象である俺はいないが、家の保全にはそれなりに人手がいるだろうから一人当たりの生産量はたかが知れている。が、人数が増えることもあり、総生産量はそれなりだろう。
セバンスには、雇用拡大と牧場の購入、それに伴う諸事をお願いした。当面の必要経費プラスαを残した全財産を使えるように許可を出しつつ、俺の手持ちも渡しておいた。もし急遽金が必要になったなら、俺のコレクションを売ってもらってもかまわない。各スキル効果プラスが付いている装備一式は惜しくはあるが、今後も集められるものでしかないからな。気兼ねなく馬車が使える状態になる方が何倍も重要だ。
さて。一刻も早くアークに帰るためにも、書庫整理に専念しますか。でもまずは、ログアウトして夕飯かな。