11-8 危機?
迷宮崩壊。俺の拙い知識曰く、攻略されなかった陽炎迷宮が迷宮に巣くうモンスターを吐き出すこと。過去にはこれで滅んだ街もある。どう考えても大災害。
でも、相対するギルド職員は特に取り乱してもいない。ちょっとだけ面倒くさそうな雰囲気でしかない。冒険者ギルドとしては問題ないって考えていることがわかるが、危機感なさすぎな気もしなくもない。
「崩壊は一大事ですが、現状では対処できる範囲です。
確認されたモンスターはグラスウルフに角兎、朝告げ鳥。アーク周辺のモンスターに毛が生えた程度の強さですから、飼われているワイルドブルの敵ではありません」
柵もあり運よく冒険者の数もそろっている。予想では、住民に被害がでるほどではないようだ。どちらかと言えば、近場になかった素材が手に入るようになり、護衛で来る冒険者にも利益になるのでありがたいほどだとか。
迷宮には近隣のモンスターが出現することが多いので、今回はある意味当たりらしい。
「崩壊で怖いのが集団で押し寄せる魔獣暴走ですが、今回は森のそれなりに深いところにできた迷宮のようですから、距離もありますし、森や草原で削られるでしょうからそこまで深刻ではありません。
現に、すでに第3次放出がされたと推測されますがようやく草原に姿を見せた程度ですから」
「第3次と言うことは……」
「ええ。崩壊までは時間がありません。なので、万が一を考え、柵の補強や薬の確保、討伐報酬を上げての近隣モンスター駆逐など、対処療法をしている状況です」
「迷宮の場所は?」
「森に慣れた冒険者などが心当たりを探していますが、未だ見つかっていませんので直接の間引きは難しいですね。
草原に現れた群れは順次つぶしてますので、暴走時の数はそれなりに抑えられそうですが」
近隣で手に入らなかった素材が流通するようになったことと、討伐依頼が増えたことの方が忙しいらしい。お疲れ様です。
それにしても、第1次放出が迷宮拡張期、第2次が停滞期、第3次が円熟期で最後が崩壊だっけ?崩壊時が最もモンスターが多いらしいけど、第3次でも草原に姿を見せる程度だからそこまで大量に押し寄せることはないだろうって判断のようだ。
聞いてみると、人里離れたところでの迷宮崩壊は結構あって、それにより地域に住まうモンスターなどの生態系が変わることもそれなりにあるらしい。そう冒険者ギルドは判断している。
それでも、万が一を考えて準備しているのはさすがだな。まあ、自分達の命がかかってるし当然か。
「討伐が得意な方々には草原での討伐依頼を。偵察や森林内の活動が得意でしたら探索を。生産系の方々には柵の補強や薬の納品をお願いしています。生産ギルドでも同じですが、こちらがメインでやらせていただいてます」
「まあ、やることは防衛や討伐がメインですもんね。
そのためには回復薬などはたくさんあっても困らない。だからこちらを紹介されたんですね」
「ええ。生産ギルドがこちらに紹介してくださるほどですから期待させていただきます」
早速に商談となった。商品納品ではあるものの、冒険者ギルドへの貢献として考えてくれるのでランク上昇もあり得るってことだけど、討伐とかの依頼をこなしていないから俺には無意味。今の俺には、ね。
ちなみに、求められたのは回復薬と魔力薬。これは初心者系でも問題ないどころか、その方がありがたいとのこと。なんでも、ここにいるワイルドブルは幼体だから、あまり強い薬は与えたくないんだと。冒険者用じゃなくて家畜用だとは思わなかったよ。
万が一を考えて、麻痺薬とか混乱薬のようなサポート薬も大歓迎とのことなので、アークからまとめて運んでもらっても良いかな?あっちだとそんなに出ないから素材もだぶついていたはずだし。
「さすがにそちらは際限なくは購入できませんが」
「ですが、初心者回復薬なんかもありすぎたら困るんじゃないですか?使用期限もありますし」
「そのあたりは、迷宮捜索のパーティーや迎撃班に配布してますので」
今回の対応は、実際の襲撃がいつ、どれだけの規模であるか不明なため、残念ながら報酬は低めで拘束時間が長い結果となっている。その代わり、倒したモンスターの素材は倒した冒険者の物。まあ、余裕がある場合じゃないと回収しきれないようだけど。
今回は低レベルのモンスターしかいない迷宮、かつ、村への被害が少ないと判断されたので強制依頼ではないが、事態を知った冒険者の多くがセックに残留してくれているとのこと。まあ、崩壊が近く、珍しくはあるがそこまで大変な敵が来ないことわかっているから、稼げるし、ギルドの覚えも良くなるので残った方が良いんだろう。
得られる素材目当てで出発しない商人も多く、護衛依頼を受けるにも競争が激しいってことも理由の一端。草原の奥深くまで行く力量がないチームは柵の補強なんかを受け持っているそうな。
商談?崩壊騒動が始まってから何度もやったんだろうってわかるくらい説明もこなれているし、わかりやすい。こっちとしては特に異論もないので、他の方々と同じ条件で請け負わせていただきます。
「もちろん、薬草などの持ち込みも大歓迎ですよ」
「そちらは余裕があれば、ですかね」
「まあ、持ち込むなら生産ギルドの方が良いですからね。そうしていただいて構いませんよ。
こちらとしては、どこに売られようと、セックにあることが重要ですから」