11-7 問題
まずは、入り口脇の棚二つ分が整理できた。もちろん、大まかにすぎないが。
そろそろいったん休憩を入れよう。現実の方でも飯を食べる必要がある。あ、その前に冒険者ギルドにも顔を出しておこうかな。そっちの資料庫はまだ見てないし。
念のために受付に一言断ってから帰ろう。一部だけ終わったって。まあ、期限は現実世界で1週間ちょっと。このペースなら十分に終わるだろう。
階段を降りると、受付の人から驚いた顔で話しかけてきた。
「あ。お早いですね」
「さすがに終わりませんよ。5分の1ってところです。
また来ますよ」
「はい。これでも依頼ですので期限内によろしくお願いしますね。
あ、そうでした。もしお時間があるようでしたら、冒険者ギルドにも顔を出していただけますか?」
「はあ。構いませんが」
と言うか、元々行く予定だったし。声や表情からすると別に深刻な話じゃないんだろうけど、気になるな。こんなことを言われたのは多分初めてだし。
「急ぎで回復薬などの納品の他、そういった要望に対応できる方の紹介も依頼されていまして。高品質の商品を扱っている方には、このように声掛けさせていただいております」
「へぇ~、光栄ですね。
それにしても、急ぎだなんて、いったい何があったんです?」
「ああそれは……ギースト様は祝福の冒険者でもありましたよね?では、念のため、直接冒険者ギルドで聞いていただいた方がよろしいかと」
予断を与えますからって言われると、微妙に行きづらくなるんだけど。でも、生産ギルド内は緊迫感ないし。職員もそれ以外も。
悩んでも仕方ない。あまり時間はないけれど、行ってみようか。
作業をした部分を説明した後に外へと向かう。うーん。記憶にあるよりも少しばかり道行く人が多く、足早?いや、今人が増えているって話だからなぁ。
冒険者ギルドの中も、特に慌てている様子はないけれど、ちょっとだけ人が多いか。
「こんにちは。生産ギルドから来ました。冒険者ギルドにも登録済みです」
「ああ、それではこちらへどうぞ」
ギルド証を提示しながら声をかけると、早々に奥の小部屋に通された。資料庫の閲覧条件などを聞きたかったんだけど。
ちょっと大きめの机一つと椅子が五つ。簡単な打ち合わせができる部屋のようだ。奥まった場所にあるので、あまり周りに聞かせたくない話をするときの部屋だろう。
入って席に着くと、挨拶もそこそこに話し始めた。
「ギースト様は、現在の事情はご存知ですか?」
「いえ、全く。生産ギルドに初心者回復薬などを納品したところこちらを紹介されました。
別の予定もあったので顔を出した次第です」
「別のご予定ですか?」
「はい。今生産と文字の勉強をしてまして。勉強がてら、生産ギルドでは一般書庫の整理を受けてます。こちらの冒険者ギルドの資料室も見たいと思い、条件などをお伺いしようかと」
「ああ、そう言うことですか。資料室でしたら受付脇の小部屋ですよ。依頼を受けた際にちょっと見たいという方が多いですから冒険者ギルドに登録していれば問題ありません。ある資料は簡単なものだけですので、調べものとなりますと……」
「ランクなどで見せられない資料があるでしょうから、その辺りもお伺いしたかったんですが……」
「……ええ。ご察しの通り、書庫もありますが、案内は今は少々難しいかと。
こちらの事情を説明をしても?もちろん、協力いただけなくても吹聴さえしなければ特に問題ありませんが」
聞いたらまずいことがあるかもって内心が顔に出てたのかも。忙しそうだけどそこまで切羽詰まった感はないし、せっかくだから聞くだけ聞いてみようか。
こちらが頷くと、あからさまにほっとした感じで話し始めた。
「まず、この辺りにはウルフが生息していることはご存知ですか?時々、川向こうの森から鳥や虫系のモンスターがやってきますが、基本は群れのウルフしかいないことも?」
「ウルフだけというのは初耳ですが、いることは聞いてます」
食物連鎖とかどうなってんのよ?そこら辺がきちんとされているゲームじゃなかったっけ?
その辺りの疑問を残して話は進んでいく。
「少し前の話ですが、変わったウルフを見たとの報告がありまして、何組かの冒険者に確認していただいたところ、困ったことが判明しました。
グラスウルフの出没です」
「それは、ウルフとは違うのでしょうか?亜種のような」
「ええ。グラスウルフは草原に適応したウルフの亜種で、ウルフよりも少々強いですね。特に毛の色が草に紛れやすいので要注意です。
ここに住むウルフが進化したのだったらよかったのですが、双方は縄張り争いをしていましたので、その可能性は低いと判断されました」
「ここに住み着いていたなら縄張り自体はすでにありますからね。そうなると、どこからかやってきた……?」
たしか、森からモンスターがって依頼をジン達が受けたとかって聞いたような。この件かな。
俺の質問に、説明してくれているギルド職員が背筋を正す。
「それも、森からとわかっています。それが問題なのです。
草原にいるはずの種族が、群れを成して森から現れる。そこから考えられることは一つ」
「……ひとつ?」
「……いいえ。言いすぎました。可能性だけならいくつもありますね。
縄張り争いに負けて森を超えてきたなどの可能性もないわけではありませんが、ここですと、森は広く、その先は山になりますから、草原に生息するモンスターが来ることは考えられません。
今回は迷宮、それも迷宮崩壊の可能性が高いと判断されています」
それは大ごとじゃないか!