11-5 納品
売り物の薬を袋にまとめ、インベントリへ。最後に倉庫を見渡すと、すっかり何もなくなった、最初に見たままの内部が周りに広がっている。現実とは違い、埃っぽくないのがありがたい。
まだまだ撤収するつもりはないが、一度倉庫整理をしようと考えた結果だ。季節外れに訪れる冒険者が増え、ただでさえ少ない薬草類の備蓄が足らないようなので、恩を売るためにもって考えがある。他にも狙いがあるんだけど。
アークの方もイベントに伴い増えた流通が落ち着いたようだが、次の新規加入も近くなったし、その際にはまた流通量も増えるだろうから、個人的には放出しても問題ない。試作の乾燥薬草が順調だし、アークに戻っての作業は乾燥の効果検証が待っている。今まではアークでの皆の練習用に活用してもらおうと帰りの馬車で持って帰ってもらっていたものを、今回ばかりはこちらで大放出。
理由?魔力水が手に入るかもしれないからである。お手伝い系の依頼の達成で貰えることがあるのなら、納品系でもあるに違いないって推測から。
そもそもお手伝い系の依頼はほとんどやったし、何度も魔力水を貰いはしたが、そう大量に余るもんでもないから冒険者が増えた現状では手に入りにくくなってきた。そこで目を付けたのが魔力水を管理しているギルドが出している依頼。薬草や製品の納品だ。今までは加工した原材料も製品も、大半は荷物運んだ帰りの馬車で持って帰ってもらっていたからこっちで売ることはなかったんだよね。そもそも、こっちのギルドは小さいから需要って意味でもあっちで売った方が良いって判断もあった。
まあ、セックで大量に売って、その金をアークに持っていったらマズイだろうってのは後付けの理由だ。ある程度は売って、その分、未加工の皮なんかを買って帰ることはしていたんだが、それは向こうで買うよりも大量に、安く売っているから。なにせ、酪農をしている現場だもの。
「販売と納品ですね……どうされました?」
「いえ。なんでもないです」
珍しく受付で待ち時間があったのでグダグダと益体もないことを考えていましたとは言いにくい。長くセックに留まった割には、作業系の依頼を受けるのと素材を買うばかりで、生産ギルドとの付き合いがありませんでしたって心の中で確認作業をしていただけです。
あ、一度は奥の作業スペースも使ってみようかな。こっちにはそうそう来ないだろうから、冒険者ギルドの中も探検した方が良いかも。
「それにしても増えましたね、冒険者」
「いつもなら多くなる時期ではないんですがね。薬草類の収穫時期にはまだありますし。
滞りがちな護衛依頼が消化できてうれしいんですが、理由がわからないのがちょっと。祝福の冒険者ばかりなので心配はしていませんが」
いつも一定の季節に来ている冒険者が、突然いつもじゃない時期に大量来訪したら、そりゃ何があったかと心配になるが、住民にとっては行動原理が判らない祝福の冒険者の増減は仕方ないというのが各ギルドの共通認識とのこと。まあ、理由がわかるなら教えてほしいってことなので、アークの西門や東門から出るために必要と思われてるって話はしておいた。
「まあ、どちらもそれなりの信頼と実力がないと、冒険者には開放していませんからね。その辺りは、真面目に各ギルドで活動していれば教えられるはずですが?」
「ああ、ほら。人数も多いですし、そもそもアークでも祝福の冒険者が増えたのってここ最近じゃないですか。情報がいきわたってなかったんだと思いますよ」
「はぁ……そういうものですかね。
それはそうと、今回大量に納品していただきましたし、ギルドランクや今までの取引実績を考えますと、ある程度の優遇措置が可能ですが、説明いたしますね」
「薬草の優先購入でしたっけ?俺が納品したものですし別に」
「ああ、申し訳ございません。そちらの会員登録については、まだ条件を満たしていらっしゃいませんので無理なのです。まあ、ご自分で納品したものをご購入されるのもどうかと思いますが」
「じゃあ、具体的にはどんなことが?他に思いつかないんですが」
「えーっと、まずですね、この奥にも受付があるのはご存知ですか?依頼の受付に関しては、こちらのみですが、納品や売り買いについては、奥でも可能になります。お客様が多い時期でもお待たせする時間が減るかと。
ほかには、作業スペースの使用につきまして、少々の融通ですね。混んでいる時でも比較的優先されます。料金は変わりませんが、貢献していただいている方にとって少し生産ギルドが使いやすくなると考えていただければ」
なんと言うか、ちょっとだけ顔が効く常連扱い?アークに戻ったらそんなにここに来ないし、そもそも今は作業を倉庫でしているから特にいらないんだよなぁ。
ただ、買取とか報告が少し楽になるのは良いな。優遇措置にあまりに差がありすぎると癒着だの発展の阻害だの色々言われそうだけど、ギルドとしてもちょっと融通する価値ある人は囲い込みたいんだな。
「まあ、生産ギルドへの貢献が高く、つまり、ランクが高く、ここセックでも活動実績がある方は皆さま同じですが。
会員ほどではありませんが、ギルドへ貢献してくださる方には少しだけ優遇する。この考えはどこのギルドでも同じかと」
「書庫については」
「今回、様々な商品を納入していただきました。しかも、その品質はなかなかの物。溜まっていた依頼もある程度解消できました。依頼数の関係でランクはまだ12ですが、一般書庫の他、部屋から持ち出さなければ重要書庫の一部にも立ち入りできますよ」
ここでの会員扱いは最低ランク15。その外にも要件があったはずだけど、まだ最低ラインにすら届いてないから考えてもしょうがないな。
一般書庫に入る際は職員立会ってことだけど、まあ当然。だから、忙しい時期を避けてほしいってのも理解できます。週末に向けて来訪者が増えるだろうから、さっそくに見させてもらおう。