2-2 初売り
2時間の仮眠ですっきりしてしまった。
睡眠時間が足りない気もするけど、VRしながらも身体は休めてるからかな。脳みそ使ってるはずだから、気づかない疲労が溜まってるかも。
今日は早めに寝るか。
ふ
【英雄歴263年春3月8日06:03(6月5日08:01)】
昨日(ゲーム内)の疲れも全快。さて、今日もお手伝いしようかな。
まずは、この部屋で10個“鑑定”してから朝ご飯を作ろうか。干し肉と堅くなったパンしかないから、干し肉のスープだな。
食べながらステータスを見ると、精神力が1上昇してMPが25になっていた。【水魔術】取得の影響かな?あ、昨日見ればよかったじゃん。ちなみに、【水魔術】はすでに2だ。
今度スキルを覚えるときは、事前に確認しておくか。
鑑定も1上昇。初心者回復薬ばかり“鑑定”したから上がらないと思ったけど、よく考えたら朝大量に“鑑定”したおかげだろう。
ん?知力も上がってるな。【鑑定】が上がったからかな?そう考えると、スキルや技術を上げると低レベルでもステータスアップが見込めるわけだ。
鉄板ネタである、低レベルでも熟練の鍛冶師が強いって状況があり得るわけだ。
お、技術に【薬剤】が。しかもレベルは1。結構作ったからな。もっと色々作れば簡単に上がりそうだな。
簡単な食事を済ませてお店に向かうと、既にポム店長が準備を始めていた。
「ポム店長。初心者回復薬を作ってみたんですが、見てもらえますか?」
そう言って昨晩作った初心者回復薬を全て並べる。もらい物も追加で1つ。問題がなければ、残りの14個も渡しちゃおう。
「あら、良いじゃない。これなら普通に。これも大丈夫ね。
あらっ?こっちは?これも?え?」
普通のともらい物は問題なかったけど、小と大を見たとたん、首を傾げて止まってしまった。
「あのー」
「ああ、ごめんなさい。私じゃこれはちょっとわからないわ。普通のじゃないのはわかるけど……」
あ、鑑定を持ってないのか。
「こっちの色が薄めの二つは効果が半分弱です。私とかだと、普通の初心者回復薬は強力すぎるので、効果の軽い物を作ってみたんですよ。
濃い方は6割増しって処ですかね。体力のある人向けですね」
普通の、初心者回復薬(中)が50だから、こんな説明で良いか。
「回復量はいくつ?」
「えーっと、こっちが20で、こっちは80です」
HPが通じるかわからなかったから曖昧な説明にしたのに、具体的な数字を聞かれるとは思わなかった。
NPCにもステータスって通じるのか?
数字を聞いて、ポム店長が一歩こっちに近づいた。
表情は柔らかでも、商売人の目をしている。
「高いのは欲しがる人も多いけど、低いのはねぇ。手間と経費が余分にかかって効果が低いなんてあっても困るわねぇ~。液薬は長くても3巡しか持たないもの。
でも、80も回復するのは良いわね。欲しがる人が多いわ」
ん?経費が高い?
「80は薬草2枚ですが、20は薬草1枚で2つできますから経費は少ないですよ?」
「え?毒草を使ったんじゃないの?」
お互い首を傾げた。
もしかしたら作り方が違うのか?
ポム店長の知る作り方を聞くと詳しく教えてくれた。
初心者回復薬にちぎった毒草を入れ、5分後に熱する。毒草が泳ぎ始めたらもう一つ初心者回復薬を入れ、毒草が完全に溶けたら、初心者回復薬(小)×2のできあがり。
それなら効果が低くて値段が高くなるよね。手間と追加材料が必要だし。だから作る人も売る人もいないのか。
毒草が売って1G、買って2Gなのは、これくらいにしか役に立たないから。水で煮だしても毒液にはならないらしい。
うーん。でも、せっかくのアイテムだし、何かに使えるんじゃないかな。
逆に俺のレシピを教えようとしたら驚かれた。
「さっきのは誰でも知ってるレシピだから教えたのよ。
あなたが作った(小)はとても価値ある物よ。普通なら50G以上だから、1つ25Gだって飛ぶように売れるわよ。冒険者には不要でも、50Gの初心者回復薬ほどの効果が必要ない人が大半だもの。日常の怪我なんて回復量10あれば十分よ。
そんなレシピなら生産ギルドだって高く買い取るわよ」
80のやつもかなり売れそうだけど、まずは(小)を作ってほしいとお願いされた。どうも、商売よりも町のみんなのためにって考えてるようだ。ポム店長はいい人だな。
(小)なんてレベル1、2の冒険者しか買わないと思っていたから、別にどうでも良いんだけど。本当にそんなに売れるのかな?
教えてもらった別のレシピは、毒草でHP回復量が減るってことだから、工夫すれば他にも応用できそうだし。
話し合った結果、お手伝い期間は俺だけが作り、売り上げ状況を見て今後については相談となった。
俺は【薬剤】を教えてもらったし、道具と部屋を借りてるからタダでも良いんだけど。そもそもそんなに売れると思ってないし。
ポム店長は、継続的に利益が見込めるから、それ相応の対価を払うべきと考えてくれている。俺の挙げた対価もお店の手伝いに対する物との主張。
なんか真面目な人だね。
結論は棚上げだけど、ポム店長の判断で開店までに回復量20の(小)を作れるだけ作ることに。薬草は俺のが15、お店の在庫が28の計43。成功率を高めるために、離れにお古だけど、簡易じゃない薬剤作成キットを追加してくれた。“鑑定”すると「わずかに成功率が上がる」との説明文が。ありがたい。
作っている間に店長は冒険者ギルドで薬草採取依頼を出しに行った。薬草は売値5Gの買値10G。依頼は10枚60Gだから、受ける方はまとめればわずかでも得になる。ちなみに依頼している方は70G支払っている。差額は冒険者ギルドの手数料だ。
枚数制限無しの常時依頼にしてもらったので納品物はお昼と夕方の休憩時に受け取りに行く予定だ。
43枚の薬草を使って、ひたすらに初心者回復薬(小)を作成する。
昨夜の成功率は4分の1ほどだったけど、今日は成功率が上がった。お古の薬剤作成キットは簡易版よりも使いやすく、【薬剤】1のおかげか、失敗も驚くほど少ない。
グリフなら色々検証したくなるだろうな。俺にとっては成功することが重要で、具体的な確率は正直どうでも良い。
34枚成功。前の2つを足して、初心者回復薬(小)は計70個になった。昨日、回復薬(中)は30個売れてるので、これだけあれば十分だろう。
開店まで1時間を切る頃にはポム店長も帰ってきた。その手には薬草が20枚。これはポム店長が初心者回復薬(中)に使うことに。昨日売れた分を補充しないとだからね。
水瓶はいっぱいにしてあるから、今日こそは空いた時間は商品を鑑定してすごそう。
「ありがとうございました。またお越しください」
「ギーストさん。悪いけど、お昼休憩に冒険者ギルドに行って貰える?」
私もそう思いますです。はい。
予想に反して、初心者回復薬(小)は全然売れなかった。朝一で店に来た冒険者はまとめて(中)を買ってすぐに出て行くばかり。ちなみに、初心者回復薬(大)は100Gだけど売れた。初心者系はレベル5から効果が減り始め10を超えると半減するはずなんだけど、なんで買うのかな。
10時を過ぎて初めて(小)を買ってくれたのは、子供がやけどしたという若奥様。半信半疑だったのか、値段と効果を何回も確認された。
その話を聞いたのか、ママさんネットワークに入っていそうな住民が徐々にやってきた。50Gの(中)を使うにはもったいないと怪我をそのままにしていた人たちが、25Gならって買いに来たんだ。あまりに古い傷は治せないけど、一ヶ月くらいなら回復薬で治るからだ。
初売りから1時間で10個。悪くないペースだ。
それだけなら、まだ間に合うはずだった。
昼休憩まであと少しとなったときの来客が転換点だった。それは、祝福の冒険者。(中)では全快しても大半が無駄になる層の一人だった。
(小)は、HP25以下なら値段あたりの回復量では損だけど、無駄になる効果も少ないのでトータルで考えると逆に効率が良い。それに気づいたのか、10個まとめて買ってくれた。
すぐに仲間を連れて再訪してくれて、現在の在庫は10個になった。あ、今9個。
レベルが上がれば必要なくなるんだろうけど、これからも新規参入者は随時現れる。このままじゃ1日100個あっても足らなくなる。
休憩に入ったら冒険者ギルドで納品されていた薬草を貰う。大量持ち込みがあったのか、なんと100枚。
それでも足らない可能性もあるから、依頼は継続させてもらった。
そのまま食事を買いに行き、ペルさんに紹介していただいた宿を早々に引き払ってしまったことと現状を報告。薬屋のポムさんもお知り合いでした。
1枚7Gで販売されていた露天の薬草を32枚購入して帰宅。
ちなみに、全編絶賛走行中。
つ、疲れた。
疲れた身体にむち打って、132枚で(小)を作成。ちなみに、商品はすでに売り切れていました。
完成した側から売れていく。
気がせいたのか失敗は2割ちょっとの30枚。朝よりもちょっと率が悪い。
他の商品も一緒に売れたので、いつもより早く閉店させてもらった。
【英雄歴263年春3月8日17:24(6月5日11:48)】
本日の売り上げ:初心者回復薬(小)274、(中)46、(大)1。他の薬もなくなった。
貰い物の(中)は最初の一個以外出さなかった。というか、出す暇がなかった。
「お疲れ様~。いや~すっきりしたね」
「明日はお店開けますかね?」
何にもありません。在庫もないし、材料だって残ってるかどうか。
「これから私は露天を廻りますから、冒険者ギルドをお願いできますか?」
それでも良いけど、そろそろログアウトしないとまずい。計算したら今日は既に9時間近くダイブしているし、食事もしていない。
連続してダイブできないんだから、レシピを教えて、こっちでなんとかしてもらおう。
「明日からお手伝いできる時間が減るので、今のうちにレシピをお教えしておきたいのですが」
「あ、ギーストさんは祝福の冒険者でしたっけ」
すっかり忘れていたらしい。困った顔で続ける。
「教えていただければ私にも作れると思いますが……そうですね。
報酬はまた考えましょう。レシピの価値はこれで理解していただけたと思いますし」
あーなんか報酬がすごいことになりそう。
お店全体の売上げは今日だけで1万Gをちょっと欠けた。その7割が俺の作品で、新レシピだけでも6割になっている。ちなみに、昨日の売上げは1200G。つまり、他のも通常の倍以上売れたわけだ。そりゃ在庫もなくなるわ。長期保存ができないから不要在庫はかなり圧縮してるからな。
今日使った薬草245枚(うち、俺の92枚)。ポム店長作成分と材料費を除いて7000Gを渡してきたので、販売委託料1000Gを無理矢理受け取ってもらった。
それでも俺の所持金6902G。昨日の7倍だ。
水補充と“鑑定”に初心者魔力薬を5つも飲んだけど、桁違いの利益があった。
「報酬については後にしましょう。まずは商品準備のために、レシピを覚えてください。
って言っても作り方は簡単です。火にかけながら追加する水の量を倍にするだけです。水の入れ方は(中)と同じなので、注水に時間がかかるのが欠点ですね」
薬剤作成キット付属の容器にはメモリがついているので、作り方を知っていれば間違えようがない。熟練者ならなおさらだ。
だからこそ、レシピの盲点だったのかも。
じゃあ、冒険者ギルドに行ってくるか。
現実でお腹が空いているので、今回も絶賛走行中。
露天から帰ってきていたポム店長に84枚の薬草を渡したらログアウト。
設定では、(小)は昔からあったけど、水増し粗悪品扱いだったってなってます。
似た値段で売ってれば、当然そうなりますよね。