11-2 新たな道
「ああ、良いところに。ご無沙汰です。
まだこちらに居たんですね。もしかしてここのところアクセスしてませんでしたか?連絡がなかったのでどうしたのかなぁと」
「ご無沙汰です、シロさん。
いやぁこの村の雰囲気が気に入りまして、結局あれからずっとここで家畜の世話をしてました」
生産ギルドから帰る際に後ろからかかった声は、先週の旅路でお世話になったシロだった。うーん。シロの丁寧な言葉につられて、仕事モードに近い話し方になっちゃった。シロも苦笑している。
もっと気楽にと言われてしまった。確かに、俺も冒険中はもっと砕けた口調だったもんな。シロの丁寧語は癖兼ロールプレイらしいから変わらないけど。
「【牧畜】狙いですか?確率が低いって聞きましたが。
どちらにせよ、楽しそうで何よりです。メインホームを気に入ってもらえるのは嬉しいですね」
「シロはここメインで活動だっけ?珍しいよね。俺が言うのもなんだけど」
「たしかに、なんですね。まあ、それなりにここにもプレイヤーはいるんですよ。発展著しいアークに比べると冒険には不利かもしれませんが、あっちに見える山や森に行こうとしている人もそれなりにいますから。成果は上がっていないようですが。
個人的には、それでもプレイヤーが増えた割にはあまりアーク以外に目を向けていないのが気になりますね。だから、先に進めないんじゃないかって意見が出ていたくらいですから」
「へぇ……ん?た?」
「ええ。過去形です。
実は、このローブ新しくなっているのに気が付きました?」
「あー言われてみれば、前着ていたのと違うね」
革製ではあるが、一般に出回っているウルフ革と比べると少々光沢がある。端の部分が丁寧に処理されていたり、縁に細かい刺繍がしてあったり、ボタンなどもよくよく見ればきれいに磨かれていて高級感がある逸品だ。
色味は純白ではなく、少々緑がかっている。具体的に思い出せるほどシロのローブを覚えてはいないが、色が覚えていたものと異なっていた。
こんな色の革ってこの辺りで売ってたっけ?ハイウルフリーダーの皮はまだ加工されていないはずだし、そもそもウルフとは質感が違うなぁ。どっちかっていうと、哺乳類の革というよりも、テカリ具合からワニとか蛇とかの爬虫類系?つっても、ただの印象だけど。
「あのベルベット工房の最新作。グリーンリザードの革マントです。
試作品なのですが、撥水性もさることながら、なんと【回復魔法】の効果が極微増という性質がありまして」
「……それってすごいのか?迷宮ドロップなら、もう少し効果が高いアイテムもあったと思うけど……」
あのって言われても、俺はそんな工房は知らないので。まあ、一般プレイヤーには有名なのかもしれないが。
それに、効果自体も、迷宮で手に入るアイテムなら、そういったものがあったと思う。スキルレベル+1とか。
俺の言葉に、シロは身を乗り出して説明してくれた。なんでも、画期的な出来事らしい。
「効果はまだまだですが、これ自体はものすごいことですよ。
まず、プレイヤーが作成したアイテムに効果が乗るのは、たぶんこれが最初ですよ。今ベルベット工房では、盛大に検証が行われています。再現性や最低条件、効果を高めるにはどうしたらと大騒動です。私はモニターとして使用感を報告する契約で安く譲ってもらいましたが、買うとしたら当分はかなりの高額になるでしょうね。
そして、このことからわかることが……」
「わかることが……?」
「南以外へ行くことができたプレイヤーがいるということです。そちらの情報の確度はほぼ間違いないですね。新しいドロップ品が出回るようになりましたし。そろそろ方法が広まりますよ。
現に、こちらに依頼で訪れるプレイヤーが増えましたから」
「と、言うことは?」
「ええ。こちらに依頼で来る、つまり、依頼をこなすことがどちらかの門を通り抜ける鍵だと認識されてます。
実際は、ギルドからの信頼度です。どちらの門の先にも重要な施設や街があるらしく、信の置けない人は通していないとのこと。これは、直接聞いて確認した人が複数いるらしく、確度の高い情報ですね。
まあ、信頼度が依頼をこなした数を言うのか、ランクを言うのか、それともレベルやステータスなども関係しているのかは検証中のようですが」
「どれを指しているにせよ、依頼をこなす、特に今まで手薄だった護衛系に手を出すプレイヤーが増える理由としては」
「ええ。正当すぎるほどに正当な理由ですね。今更感もありますが、まだまだゲームは序盤。皆さん試行錯誤ですし、狩りしかしなかった人も色んなことに手を出すようになったみたいです」
「まあ、ゲームとして考えるなら、序盤のここで一通り全部に手を出さないと先に進めないようになっていてもおかしくはないよね」
「ええ。
商業都市テツエンからは王都や鉱山都市ガルゲラなどの主要都市につながっていますから信用が必要なのは理解できますし、東門から先はモンスターがはびこる森とのことですから。みんなが自由に行けるようになったら、私もそちらをメインにするかもしれませんね」
「へぇ、色んな事がわかってきたんだね。地名とか、その先の様子とか。最初に行けた人が情報流してるんでしょ?先に進みたいだろうに大変だね」
「まあ、進んだ人が情報を流さなくても、住民は結構知ってますからね。特に近くの街の様子なんかは一般常識レベルですよ。
ようやく、住民との交流に力を入れるプレイヤーが増えたってことでしょうね」
あまりプレーできない私のような者には、そうやって調べたり広めたりしてくださる人がいるのはありがたいです。プレイヤーが増えたことと、序盤での行き詰まりが功を奏しましたね。とはシロの声。遠くの街の名前などはβ時代の情報だとか。
色んな情報が集まるには、プレー人口が増えないと中々に難しいようだ。最初期に当選した人に検証系の人が少なかったのも原因だろうけど。
まあ、逆に、徐々にユーザーが広がるにつれて、ゲーム世界が広がっていくんだから、結果としてよかったのかもね。