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生産だって冒険だよね  作者: ネルシュ
世界は続くよどこまでも?
158/236

11-1 変わらないもの

やっとこさ、更新。

「おっ。また今灯きょうも引き受けてくれるんかい。

 用意した魔力水が無駄にならずに済んだ」

「いえいえこちらこそ。いつもお世話になります」


 リアルで一週間、ここセックで牧場の手伝いをしている。もちろん、依頼として受けているので、いつも同じ牧場ではないが、これだけの期間いれば大抵のところは顔見知り。ましてやこんな田舎町。噂が回るのは早い。俺が魔力水をことのほか喜ぶことも、回復薬とかを作る薬師的なことをしていることも、最近増えた変な冒険者――“住民”から見たプレイヤーに対する素直な感想――とはちょっと違って嬉々として動物の世話や手伝いをして旅立つ気配がないこととかが、いつの間にやら知れ渡っている。

 そのおかげで、そこかしこで余っている魔力水をおまけに貰えているんだが、自分のことがこちらが知らない人に知られていて、少々ほほえましい目線で見られていることは、ちとこそばゆい。もっとゲーム感が強ければ気にならないんだけどな。

 今も、ここらの牧場では長老的な人に孫的に見られている雰囲気が伝わってくる。いや、貴方はたぶん、60近い父よりも年下設定でしょう?現代とは環境が違うから老けて見えるだけで。だから、そんな目で見ないでください。

 見た目はかなりの年寄りだから違和感はないけど、なんとなく腰の座りが悪い。


「手つきがだいぶ様になってきたの。これなら、見習い期間を飛ばして手伝いとして採用できるぞ」

「いやぁありがとうございます。なかなか慣れなくて」

「そう簡単にできるようになられたら、こっちは商売あがったりじゃな。こいつらの気持ちがなんとなくわかるようになるまでには時間がかかるぞ。

 おっ。そいつを片付ければお終いじゃな」


 今回の依頼は牛小屋の片付け。慣れた仕事だ。効率も最初からは雲泥の差。それでも技術が覚えられないんだよなぁ。本当に技術習得はランダム性が高いな。

 で、長く育成に携わるとなんとなく気持ちがわかるっていうけど、ゲーム内でもそれを採用ですか。こっちならパラメーター設定で何とかなるから良いんだろうか。経験積めばなんとなくこっちがわかるように感情表現を示してくれるようになるのかな?

 変なところで細部にこだわるよな。こういったゲームなら、もっと戦闘系に力を入れると思うんだけど、思いのほか生産系の、それも微妙な部分が設定されている。ああ、須佐美は何人かこだわるスタッフがいるんじゃないかって言ってたな。時々、アップデートで変更されることもあるみたいだし。

 ま、その道のプロでもなければ、なんとなくそうっぽければそれで十分なんだけど。


「お疲れさまでした。腰の痛みはどうですか?」

「ありがとよ。おかげで助かった。痛みもだいぶ和らいだ。

 それにしても、無理はするもんじゃないの」

「腰の痛みにも回復薬が効けばいいんですが……」

「一時的なごまかしにはなるが、直りはせんよ。そこまで万能な薬など聞いたこともないしの。

 まあ、言うなればこの体がポンコツになってきただけじゃ」

「時々になりますが手伝いますので、無理しないでくださいね」

「そろそろ息子も帰ってくる。それまでの辛抱じゃな。

 それで、こいつが今回のおまけじゃ」

「ありがとうございます。魔力水と……なんですこれ?」

「見てわかるじゃろ。うちの牛の角じゃ。そうそう生え変わらんからちいとばかし貴重なんじゃが、たまたま何頭も連続しての。

 細工にも使えるが、なかなかに硬いから素材としても使い勝手が良いぞ」


 この辺りでは研いで槍の穂先に使う人もいるとか。……そこまで強度があるのかと思ったが、金属製品が高価だから代用品なんだろう。削り方によっては農作業道具にもなるかな?こいつは嬉しいおまけだ。工具が充実しているから、速攻で屋敷行きだな。加工するのが楽しみだ。

 丁寧にお礼を言って、ついでに予備の回復薬を渡す。初心者用なので、一時的な痛みのごまかしにしかならないけど、使ってもらえればありがたい。これくらいしかできないけれど、いただいた恩にはお返ししたくなる。これも、ゲームというよりも別生活的な感覚があるからかな。戦闘中なんかはけっこうゲーム感があるみたいだけど、あんまり戦わないから実感がない。生産もスキル全開ならゲーム感が強いけど、【薬剤】も【牧畜】もスキルじゃないし……って、牧畜はまだ技術ですらないか。でも、専門家が評価してくれたんだから、そろそろ覚えても変じゃないよな。次回のダイブに期待だな。

 これだけ聞くとまったりと長閑な田舎生活にしか思えないが、実態はその通りである。自分にとって『冒険者達』とは、現実とは違ったのんびり生活をしてストレスを発散するゲームである。最近は世間での評価もそっちが増えつつあるようだ。まあ、本格的に普及が始まったから注目度が上がっている割には目新しいことはほとんどない現状、そういった切り口も増えるよな。おかげで、購入予定者へのアンケートではじわじわと生産やまったり系の回答が戦い系を侵食しているそうな。


 さて。今灯の仕事はお終い。日課である生産活動を一通りしたら気分転換に風呂に入って飯にしよう。そのためにも、まずは冒険者と生産の両ギルドへ行くとしようか。

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