閑話 一石二鳥
「せんぱ~い。いい加減、飽きました」
「文句言うな。金を使わずスキル経験値を貯めるにはこれが一番良いんだ」
「来る日も来る日も延々と柵の修繕ってのは疲れますぅ」
「だから二日に一回はギルドで作業してるだろ?
どっちかっていうと、そのせいで金が貯まらんのだぞ?」
「うぇ~い」
あっちゃぁって顔をした後輩の手はさっきから止まっている。まあ、わからんでもない。確かに、単純作業が続くとダレてくる。監督官がいるわけじゃない依頼は自分との戦いだからなぁ。
目標値があるわけじゃなく、修理した作業量で報酬額が決まるタイプの依頼だからこそ、いったんダレると復活が難しい。モチベの再アップは、なかなかなぁ。高額の成功報酬なら問答無用なんだが。
こうなったら、いくら口を酸っぱくして言おうが、こいつのやる気スイッチが入らない限り作業効率は激減である。俺の集中力も途切れがちだったから文句も言いづらい。リアルタイムでレベルが上がるゲームじゃないから、今報われる感もないし。
木製の柵修繕。これが今受けている依頼。【木工】スキルがあれば経験値も貯まる、なかなかに効率的な案件。スキルなしでやるなら、低確率だけど技術を覚えることもありえるのに、難しくない。マジで良い依頼だ。唯一の難点は、単純作業による飽き。依頼料が雀の涙なのは、生産系依頼の基本なので難点に当たらんのだよ。
しゃがんでの作業を中断するに、思わず立ち上がって体を伸ばす。現実の肉体じゃないのに、なぜか凝った気がするんだよな。うーん。今度マッサージでも受けてみるか?こっちでだけど。
「あれ?いつもの人じゃないっすよ。冒険者っぽいっす。あ、もしかして、あの人はプレイヤーですかね?」
「どうかな?【牧畜】なんてスキルなんて取ってる人はレアじゃないか?技術狙いの線もあるけど、使い道がないからなぁ」
「じゃあ、こっちの冒険者ですかね?でも、ネタプレーの線も捨てきれないっす」
「さて、と。もうひと踏ん張りだ。【木工】レベルがあと一つで目標達成なんだぞ?」
「そろそろ修理以外のこともしたいっすね」
「そう言うな。経験値も金も貰える、俺ら向けの依頼なんてそうないぞ。
討伐や採取なんてギャンブル依頼はできんだろ」
「ある程度やったらアークに戻らないっすか?他のスキルも上げれば、そっちの依頼もできるようになる気が」
「そうだな。せっかく向こうにもギルドができたんだからそうするか。ステータスも上昇するし。
なら、もうひと頑張りだ」
「うーっす」
調べた限りじゃ、こっちでできることは大半やったからな。ちょっとだけ貰えた魔力水も良い金になったし。木はアークの方が安かったし、あっちでレベルアップを図ってみるのが効率的だろうな。
それにしても【木工】がここまで上げづらいとは。草原の中の街だから仕方ないが、木の値段がネックだな。ここで手に入る料理レシピもそろそろコンプ気味だし、アークに帰る方がよさげだな。
護衛系の依頼が……うん。無理だな。精々、荷運びくらいだなできるの。インベントリ様様ですな。
「生産系って思ったよりも上がんないっすね」
「まあ、そう言うな。俺らに戦えるわけがないんだから。
それに、レベルは上がりづらいけど、金はそこそこ貯まるだろ?」
「そりゃそうっすけど……レベル上げのために貯めた以上に費やすのがきついっす」
「そりゃどのゲームでも同じだぞ。こっちで金だけ貯まったって別にやれることもないし、他の街に行けるようになるまでは、ただレベル上げだけを考えりゃいいだろ」
「あ、そうだ!帰りは馬車使いましょうよ、馬車。なんか旅行みたいじゃないっすか」
馬車も良いな。ときたまモンスターに襲われるらしいけど、道中に出るウルフくらいなら特に問題にならないしな。移動時間が短縮されるのが一番の売りだけど、風情があるって愛好家もいるくらいだから。
ん?やる気スイッチが入ったな。会話しながらだけど、手際が良くなった。いつもこれができれば、こいつも【木工】でトップクラスに行けるはずなんだけど。
「その口ぶりだと、旅バージョンか?」
「辻馬車使ったログアウト移動も惹かれるっすけど、せっかくなんで旅したいっす」
「振動がきついとは聞くが、それ以上に雰囲気の評価が高いよな」
「そうっす!絶対サスとか作るプレイヤーがいる、いや、すでに売り込みしててもおかしくないっす。このザ!田舎旅!を経験できるのは今だけっすよ?」
「わざわざ不便を選択するなんて考えづらいか。確かに、そう考えると今しかできない経験かもな」
「移動型課金アイテムとか騎獣とか、見たら絶対買っちゃいますよね?」
「騎獣はまだしも、課金はほどほどにな」
「うーっす。
よし、そうと決まれば今日はあっちまでやりましょう!」
やれやれ。気分屋だなぁ。まあ、見てて飽きないが。
ここで切り上げても良いんだが、せっかくだし、切りの良いところまでやろうか。この依頼にはお世話になったし、ご奉公代わりに。
ま、願わくば魔力水が手に入りますように。