10-11 結論
「……これが……伝説の……」
「何わからんこと言っとるだね。魔力水は確かに珍しいが、そこかしこで採れるだで。
この辺りでは水質が良いとは言われてるようだがね」
「あ、すみません」
調子に乗りました。ノリと勢いで言いました。はい。
つーか、魔力水って聞いたことがある気がしたけど、よくわかりません。なんだっけ?
それが顔に出ていたのか、おじさんが説明をしてくれた。
「魔力が宿ってれば良いもんだ。そう言われとるが、昔は良いもんには魔力が宿るって教わったもんだ。
良いもん作りたけりゃ、質の良い素材を使わにゃならん。そりゃ真実よ。
魔力の宿った餌なんてあげられんから、うちは魔力水を飲み水に混ぜてこいつらにくれとる」
「へー。牛に飲ませて何か変わりますか?」
「人が飲んでも効果があったって話は聞いたこたぁないが、うちの子は病気もせんし、性質が良いって評判よ。魔力水さまさまだで。
で、少しずつあげとるから、今はそんだけ残っとる。そいつをやろうってことだ」
「い、良いんですか?そんな貴重な水を」
何気なく渡された物が思ったよりも高価そうなのを聞いて緊張してきた。
その言葉に、おっちゃんは苦笑い。
「よく勘違いされるけどな。よそじゃわからんが、この村じゃそんなに高価なもんじゃなか。置いとくと少しずつ普通の水になるからなぁ。
精々、回復薬とかを作る時に必要になるくらいだで。じゃから昔っからなんか作るときに使っとる」
「あれ?回復薬?……あ、思い出した。回復薬を作るのに必要な素材だ、魔力水。
でも、生産ギルドで作るの制限してた気が」
「ああ、そりゃここらじゃ薬草類が貴重だで。材料持ち込みならまだしも、よそもんに好き勝手作らせることはせんだろ」
「……言われてみれば、薬草がないって言ってたな」
確か、名称忘れたけどお得意様認定的なやつでも、薬草類の優先購入だったな。
「あ、忘れてただ。確か、この水を使って作ったもんは必ずギルドが買い取っとったはずだ。それもあっての魔力水の無料提供だで。
ま、住民限定で一人辺りの量は決められとるが。この水だって無限にゃないからな」
「そりゃそうでしょうね。それでも、自分としてはありがたいです。新しいのを作ることが目的なんで。利益は正直どっちでも」
「やっぱり、兄ちゃんは変わっとんな。金はいくらあっても足らんだろうに。
でもまあ、そんな状況だからここのギルドはそんなに人がおらんのだ。田舎だからっちゅう訳だけじゃねぇ。それなりに仕事をすりゃ、気前よくくれる住民も結構いるだろうな。使い道が限られとるから人によっちゃ使い切れんで」
薬草の最盛期は大勢来るそうだけど、それ以外は今みたいに閑散としているとのこと。
プレイヤーには関係ないんじゃね?なにせ、インベントリに薬草を入れておけばほとんど劣化なしだし。あれ?それなら魔力水も?いや、さすがにそこは運営側も対処してるか。あ、だから生産系のプレイヤーは一度はこっちに来ても結局アークに戻ってるのか。買い手側も向こうが多いしな。
ベータの時みたいにアークに生産ギルドがなければ、もっとこっちがにぎわうんだろうけど。経験者や情報持っているプレイヤーにしても、こっちはスキル枠とレベル、レシピを増やすためでしかないんだろうな。だから、一度くればそれで充分。
どっちにせよ、俺にとってはどうでもいいこと。なにせ、目的は新レシピ。たぶん、薬は初心者用と同じ手順で作っても、完成すると思う。そんなことを師匠であるポム店長が言っていた気がする。新しいレシピが覚えられ、収入も経験も得られるならこんなに素晴らしいことはない。
「そういうことでしたら、遠慮なくいただきます。
で、それはそれとして、これからもちょくちょくお手伝いに来ますね」
「……まあ、兄ちゃんが良いなら良いけどな。手伝ってくれりゃこっちも助かるこっちでも使うから全部はやれんが、余ったんで良ければこれからも時にはやれるぞ」
「すみません」
「そういう時の台詞は違うべや」
「あ、ありがとうございます」
「どういたしまして」
マジで、ここってゲームなのかなって思うほど住民が人なんだよな。
そのうち、リアルでも人間とAIが区別付かなくなったりして。ってことは考えても仕方ないか。そうなったら、なった時だ。
さて、それじゃあどうしようかな?
貰った魔力水をインベントリに入れながら考える。まずは、丁寧に回復薬を作ってみようか。レシピが覚えられたら万々歳。この水の量だと、2、3回は挑戦できるだろう。余るなら、水を使うレシピを順に魔力水でやってみればいい。良かった。簡易作成キットを常に持っといて。
うーん。そうなると、ここでもっと依頼をこなしながら過ごすか。ちょうど、放牧が楽しくなってきたし。運が良ければ、技術も覚えられるだろ。空いた時間は【言語】のレベルアップかな。でもまあ、無理なくやろう。せっかくバカンスにしようって考えたんだから、それを実行しないと。
よし、そうと決まれば、さっそく生産ギルドだ。ついでに、冒険者ギルドにも顔を出そうかな。