10-10 今後
「長閑だなぁ。アクションだけじゃなくて、癒し系も充実したゲームだよな、これ。
ただ、癒しまで到達するのがちょっとだけ手間だけど」
縮尺がおかしいけれど、目の前に広がるのはのんびりとした田舎の風景。ちょっと向こうには柵を直す冒険者達の姿もある。プレイヤーかな?
大人しく頭の良い子牛――ミニブルって種類らしい。このサイズでも――を連れてと言うか、連れられて歩く道は踏み固められていて、迷う必要はない。彼らが食べる量は、体躯に比べると少なく、結構な数を飼っていても付近が荒野にならずにすむそうだ。肥料に使えるレベルのフンの効果もあり、青々と牧草が茂っている。
“鑑定”すると牧草としかでないので、1種類の植物だけが牛と共生しているのかもね。現実だと、毒性のある野草が混じっていないかこまめに見る必要があるとか聞いた気もするけれど、こっちはそんな心配はなさそうだ。
「そろそろ修理以外のこともしたいっすね」
「そう言うな。経験値も金も貰える、俺ら向けの依頼なんてそうないぞ。
討伐や採取なんてギャンブル依頼はできんだろ」
「ある程度やったらアークに戻らないっすか?他のスキルも上げれば、そっちの依頼もできるようになる気が」
「そうだな。せっかく向こうにもギルドができたんだからそうするか。ステータスも上昇するし。
なら、もうひと頑張りだ」
「うーっす」
ああ、やっぱりプレイヤーだ。まあ、こっちの住人だと冒険者チックな装備で雑用をこなすなんてありえんだろうし。【木工】中心だけど冒険もするビルドかね。どっかで聞いた感じのプレーだな。ミル・クレープ達みたいにチームを組めば強くはなりやすいんだろうけど、彼らは戦闘はあまりやってないみたいだな。
レベル上げてステータスを器用力に振ったんだろうな。生産主体はレベルが上がりにくいからなぁ。
お互い頑張りましょう。
心の中で、そう一声かけてから、ゆったりとした歩みを再開する。たまにはのんびりする贅沢も良いなぁ。
んもぅ~
「おぉどうした?そろそろ帰るか?」
ゆっくりと歩いたり、食事をしたりしていたうちの一匹から、鼻面を軽く押し付けながら鳴かれた。うん。耳元はやめてくれ。よだれも顔に付く。別に汚れはつかないけど、気分的になんかヤダ。
うーん。でも可愛いなぁ。会話ができれば良いんだけど、なんかスキル取ればできるのかな?絶対テイマー系のプレイヤーもいるだろうな。そっちの情報が固まって違う遊びをする人が増えたらいいのに。
そんなことをぼんやりと考えながら、順に帰ろうとする子牛を数える。よし。全員いる。
みんなが小屋に向かって歩き始めたので、見落としがないか再度確認してから、ちょっとだけ足を速めて小屋に急ぐ。念のためだ、念のため。寝床の準備が終わってなかったら大変だし。
「ちょうどよかった。さっき終わったところだで。
そろそろ餌の準備も終わるから、小屋に入れて大丈夫」
「よかった。ちょっと早いかなって気になってたんですよ。
前手伝ったときからすると」
「そりゃ、素人に教えながらの作業と、俺だけならどっちが早いかってこった。
それくらい、うちの子たちは理解できらぁ」
マジで?それって、下手したら人より頭良いんじゃね?
この設定大丈夫?食肉とかめちゃくちゃハードル上がるし、苦情とか出かねないぞ。
……まあ、ここの子牛の行く末なんて聞いたことないけど……牛って言うからには、ねぇ。
「今灯のところはこれくらいだで。その辺の道具を片付けてくれれば終わり。報酬は生産ギルドの窓口で貰ってくれ」
「なかなか面倒なシステムですよね」
「面倒なのはしゃあなかろ?ここに金持ってきたって邪魔なだけやし、どっちにせよ、終わった連絡をギルドにせんと困るだろうに」
「あー、そりゃそうですね」
ゲームなんだから自動でも大丈夫な気もするけど、そうなると味気なさすぎるか。
それにしても、動物の世話の良いところだけやるってのは、楽しいな。金にはならんが、ここのところゲーム内ではバタバタしたし、ちょくちょくこの街に来ることはないだろうから、集中してやってもいいかな?
ギルドでの本を空いた時間に読むとしても、リアルで1週間もすれば満足できるだろうし。よし。そうしよう。
じゃあ、それを前提に活動しようか。まず、薬草とかの運搬はそのままで、儲けたお金で皮とかを購入して加工。ここまでは、正直ルーチンワークにしよう。飽きてきたとはいえ、自分で決めた本来業務だし、やっぱ作成数の星は極めたい。ただ、メインにするには今はちょっとってだけ。
で、あとは放牧の手伝いだな。これはただの趣味。だからこそ、メインに据えよう。できるだけ、放牧やらのアークじゃできない仕事をこなすことで、田舎へのバカンスチックにしよう。昔憧れた貧乏旅行の旅的な。
中途半端な時間については、3つもあるギルドで本を読もう。せっかくとった【言語】だから、時にはレベルを上げてあげたい。そうすれば、アークでの活動も捗るに違いない。
道具の片付けと一緒に自分の今後の予定も立てられたので、やることもないからひと声かけて帰ろう。
「終わりました。じゃあ、これで上がりますね」
「お疲れ様だで。これ持ってきな。忘れずに受付へ出すんだで」
「木札ですか?あ、もしかしてこれが」
「これがなけりゃ、仕事が終わったことがわからんだろ。おっと、こっちも持ってけ。おまけだ」
「……酒ですか?」
革袋に入った液体。俺のつたない知識だと、ワインか水。わざわざ今水を貰う意味が分からないから、ワイン一択で。
それを聞いたタルテさんは、呆れた表情で俺の方を振り向いた。
「あんた、見た目の通り薬師だろ?ここに何しに来たんだね?
それが、ここの特産品。魔力水だで」