10-9 仕事
同じように自分で作っているのに、なぜかリアルの飯がほんの少し味気ない。
美味しくはあるんだけど、なんでかなぁ。
お風呂の準備をしつつ洗い物や片付けまで。もちろん、洗濯もゴミ出しの準備も忘れずに。
うーん。ここのところゲーム熱のせいか、家事の効率化が著しいな。前は寝るまでに4時間あっても足りなかったのに、今なんて2時間も家事してないのに、これまでにないくらいこなしてる。
人間の好奇心?ってか興味とかの原動力?のすごさと、今まで如何に自分が時間を無駄にしていたのかって反省しきり。
この反省はゲームに生かそう。楽しみつつも、生産自体には効率化を導入だ。
「と、いうことで、やってきました」
「急にどした?熱があるなら休まんといかんで」
「あ、お気になさらず。ちょっと興奮しているだけなので」
「はあ。
なら良いが。
んで、今灯も手伝いを?」
「そう。特に、放牧の協力がしたいなぁって」
「まったく。変わりもんだで」
そう言いながらも彼は笑顔で迎え入れてくれた。うーん。βですらあまり牧畜の手伝いは人気がなかったのかな。まあ、生産系は不遇と判断されてたし、判らんでもないけど、そろそろ農業系プレイヤーが増えても良いと思うんだけどな。
現実で牛の世話なんてできる気はしないけど、ゲーム内で体験するならすごく良いと思うんだけど。ほら、臭さも汚れも大して問題にならないし。
「本業にはしませんけど、ちょっと興味があるんで。楽しいですよ」
「楽しいもんかねぇ」
「ええ。セックに来るまでは冒険でしたし、放牧なんてやったことなかったんで」
「報酬なんてそんなにだせんから、楽しんでくれんだら問題ないが。やっぱり変わりもんだで」
放牧といっても、牛たちは頭がとてもいいし、性格も穏やかだからやることはほとんどない。外でするフンは自然と牧草の栄養になるし、決められた範囲から無理に出ようなんて奴もいない。
ただ、体躯が大きいのでぶつかって壊れる柵があったら修繕したり、運悪くまとまりすぎたフンがあれば散らしたり、やらなきゃいけないけれど小屋の清掃なんかよりも優先度が低い「ついで仕事」をやってほしいってだけだもの。そんなに高いお金は出せないのはよくわかる。
翻って俺の方は、のんびりと普段できない牧畜体験を、それも楽しいところをやってお金がもらえる。しかも、もしかしたら技術だって身につくかもしれないわけで。
プレイヤーにもう少し余裕ができたらこういうのをやる人も増えると思うんだけど、【牧畜】をゲーム内で活用できる姿が想像できないからかなぁ。
「騎獣でも買わなけりゃ獣の世話の仕方なんて学んでもしょうがあるまいに。ましてや、うちの牛はでかくても家畜だ。経験もそこまで役には立たんぞ。柵の修繕も、最近はまとめて依頼に出しとるしな。
まあ、冒険者引退した時に畑でも耕すなら十分意味あるだろうが」
「あー。そんな人も結構いるんですか?」
「体力あるし、それなりに金を持ってる冒険者が引退して村に入るのは結構聞くなぁ。少しくらい作物の出来が悪くても、獣も狩れるし、魔物からの守りも期待できるから喜ばれるらしいなぁ。
ま、ここは牛がいるから問題ねぇんだが」
「やっぱりウルフくらいでは」
「相手にならんよ。子牛しかいないうちでも被害らしい被害は記憶にないからなぁ。生まれたばかりでもなきゃ負きゃせんよ。この辺りの魔物で一番強いのは野生の牛だからな」
「大きいですもんね」
子牛ですら現実の牛よりもでかいんだから、こっちも集団でいればウルフには負けないよな。
野生の牛は比較的おとなしいので、攻撃しなければ問題ないので、ここセックは牛を飼っているというよりも、牛に守られている村だと笑う。
ここが好きで、暮らしが充実してるんだろうな。じいちゃんもこんな感じだったな。生活できれば、あとは好きに生きるってのは本当に憧れる。
ま、それはそうと、放牧に行きますか。
「じゃ、ちょっと行ってきますね」
「おう。今なら柵の修繕しとる冒険者がいるだろうから、もし新しく壊れたところを見つけたら念のため伝えといてくれな。小屋で作業しとるから、何かあったら呼んどくれ。
あーっと、他には」
「フンがまとまっていたらばらすんですよね。それは前に小屋の清掃で覚えたんで大丈夫です」
「それをやっとくれるなら、追加で払うで。後でやるにも時間がかかる作業だで」
「それよりも、世話の仕方を空いた時間で教えてもらえれば」
「やっぱりあんた変わりもんだで。そんなもんで良ければかまわんよ」
「やった。よろしくお願いしますね」
さて依頼だ。牛の世話をきちんとやろうか。
ギルドでの噂が本当なら、これで【牧畜】が覚えられるかもしれん。何の役に立つかはわからないけれど、生産系の技術は覚えておいて損はないと思うんだよね。ある程度レベル上げれば、ステータス上昇効果があるはずだし。
将来的に自分の屋敷の庭で飼えればなんて最初思っていたけど、大きさを考えたら無理だったよなぁ。それでも、何かペットが飼えれば楽しそうだし。
攻略を優先していないと、こんな遊び方ができるゲームなんだから、もっとみんな自由に楽しめば良いのに。