10-8 伝言
「アークに連絡を取るのでしたら、手紙を送るか、伝言するかですね。どちらも、依頼でお受けできますよ?
アークから薬草を取り寄せる依頼を出すことも可能ではありますが」
「うーん」
悩むなぁ。取り寄せた方が早いんだろうけど、こっちに長めに滞在するってことを伝えられる手紙……ってこっちの言葉は少し読めるけど書けないぞ。日本語じゃ書いたって通じないだろ!ダメじゃん。じゃあ、伝言しかないか。
留守にする期間が長くなることを伝えつつ、馬車に満載の薬草と魔力草を送ってもらおう。それを加工して売れば、まあ、足しにはなるだろう。生活費のかからないゲームだからこそできるやり方かもしれんな。
「では、伝言をお願いします。
アークの生産ギルドにギーストからと伝えていただければ、家の者に連絡してくれると思います。あ、もちろん、その分込みで手数料を払いますので。
伝えていただくことは、馬車一杯に薬草と魔力草を積んで、セックまで運んでほしいってことと、こっちにちょっと長めに滞在することですね。あ、購入費用は渡してある経費で賄ってほしいってことも伝えてください。あとは」
「あ、少々お待ちください。えーっとセックまで運んでほしいと」
俺が言ったことを慌てて書き留める受付嬢。そりゃそうだ。急に口頭で言われたことをきちんと伝えるのは書かなきゃ無理だよな。もしかして、伝言って手紙を送るよりも高いのかな?
薬草を大量購入するつもりだったから別にいいけど、今後はきちんと確認してからにしないとダメだな。反省。
「……渡してある経費で賄うと。はい。他には何か?」
「急ぐわけじゃないけれど、こまめに往復してもらえると助かると」
「定期輸送ですか。
こちらでの受け取り場所などはお伝えしなくてもよろしいのですか?」
「あーっとそこは考えてなかったな。必ず会えるとも限らないから、どこか預けられる場所があると良いんだけど」
「では、こちらでお預かりしましょうか?もちろん、手数料はかかりますが。
もしくは、倉庫を借りられてもよろしいかと」
「倉庫って短期間でも借りられますか?それなら借りたいです。馬車3台分の薬草が問題なく入るサイズで」
売り物をそこに入れておけば、持ってってくれるだろうし。
そのことも、伝えてもらおう。
「承知しました。倉庫の警備も必要でしたら手配できますよ。もちろん、冒険者ギルドなどの他のギルドに依頼を出しても問題ありません。
あ、この倉庫手配お願いね。伝言の申請用紙もお願い。
では、以上でよろしいでしょうか?」
「そうですね。あ、倉庫のカギを預かっていただくことは?」
「もちろん、可能です。ではそれも伝言に?」
「はい。お願いします」
なかなか大量の伝言と、倉庫レンタルに鍵管理。〆て1,000G。ちなみに、現実で1週間借りられて倉庫は300~2,000G。今回は中規模なので700G。伝言が280Gだから、鍵預かりが1週間で20G。高いか安いかは微妙なところ。スタート時期としては高いけど、後半になると安すぎる気も。
「今の時期ですと倉庫が余っているのでこの特価ですよ。他の街ではありえませんから、そこのところご注意ください」
あ、さいですか。
何はともあれ、暇つぶし用の手配は済んだ。さて、帰る……っておい。ちょっとした時間つぶし兼MP消費のために何か作る予定だったんだ。買える素材があれば買っとかないと。自分には何もない。
「そうそう忘れるところでした。今買える素材は皮でしたっけ?」
「そうですね。ウルフの毛皮や牛の皮はたくさんあります。加工した革もある程度は。珍しいところでは、ワイルドブルの皮が2匹分あります。片方は傷が多いのですが、その分お安くなっていますよ」
「うーん。倉庫代とか支払うとそこまでの余裕はないかなぁ」
仕方ないので、手持ちで買えるだけのウルフと牛の皮を購入。こいつを加工して作りたいものがある。残った皮は、俺の経験値になってもらおう。
そこそこの量になったが、インベントリのおかげで手ぶらで帰れるのがうれしい。倉庫が近いとはいえ、運ぶのは面倒だ。
倉庫に入ってまずは、毛皮と皮に仕分ける。皮の方は全部“簡易なめし”で加工の下準備。毛皮が今回は重要である。まずは、半分は同じく“簡易なめし”で毛皮としてなんにでも使えるようにしておく。残った半分は毛と皮に分ける。ここで、地味に【裁縫】のレベルが上がったことが効いてくる。“毛取り”も最初に比べればなかなかの量と質の良い毛が集まった。
処理済みの毛皮を3枚、毛を抜いた皮が2枚、大量の毛。こいつらが俺の求めていたもの。
毛皮を2枚縫い合わせて袋を作る。残った毛皮は皮と合わせてこちらも袋に。そこに毛を詰めれば出来上がり。簡単だけど、毛皮の敷布団と掛布団だ。ちなみに、裏表毛皮製が掛布団である。本当は羽毛が良かったんだけど、毛でも十分に温かいだろう。
ここまでくれば、残りもわかるだろう。皮を縫い合わせて毛をぎゅうぎゅうに詰めれば、それは枕である。大きさが大きさなので、余った皮……というか、一応、革は【細工】の練習用に捨てずにとっておく。
ここまでの作業で、【皮革】【裁縫】【細工】に【生産者の指】辺りは経験値を獲得できたに違いない。自分の生活品質向上を目指すだけで経験値が貯まるんだから、生産は笑いが止まりませんな。
さて、いくつか作ったら、一番できの良いのを自分用にして、残りは積んでおこう。そうすれば、持ってって売ってくれるだろう。気づかずに、何か別のを仕入れて帰るんだったら、それはそれで有りだし。再ダイブの時に加工して遊ぶだけだもの。
そろそろお腹が本格的に空いてきた。ログアウトしますか。
おぉこの布団は、思ったよりも良いな。山小屋キャンプっぽい。