10-6 交流
現実での情報源は、個人的こだわりにより1つしかない。我が同僚、ゲーム好きの須佐見だ。
今迷っていることはセックをどう堪能するか。自分のプレースタイルから考えるとスキルよりも技術を獲得したいので、何を教わるかってことでもある。アークの家をほったらかしにしたくはないんで。
これについては、わざわざ須佐見に意見を求めるようなことでもない。どの技術を選んでも、攻略上は大して変わらないだろう。生産ならどの分野でも育てれば儲けられるし、損はしない。その分、苦労はするだろうが、そこを楽しみたい俺にはむしろプラスだ。
うん。決まった。
通勤途中の電車の中で、自分のこれからを決めてしまったので、特に須佐見に聞くべきこともなくなってしまった。やはり、ゲームをするのも大切だけど、少し離れて考える時間ってのも必要だな。はまりがちな自分によく言い聞かせておこう。
「おーい。昼は暇か?」
「まあ、いつもの通りだ。逆にそっちは大丈夫か?」
「前倒しで終わらせたんでな。悪いけど、昼休みは休憩がてら向こうでの話を聞かせてくれ。ここんとこアクセスできてなくて」
自席にて、勝手に自己解決して頷いていた俺に声をかけてきたのは、やはり須佐見。返事をしつつそちらを見れば、少々疲れたヤツの表情。
イベントを十分に堪能するために、その後の仕事に影響させないために、ここのところ、やらなきゃいけない仕事類をできる限り前倒しで進めていたようだ。今は絶賛後始末中だったとのこと。ご愁傷さまです。
一段落着いたのと、ゲーム成分が不足したので、癒しがてら情報収集をしたいとのこと。
ぶっちゃけ、俺の話を聞いたって大して新しいことがないって理解してるだろうに。それくらいならネットで調べた方が新情報は短時間で遺漏なく集まるだろうに。
昼食を食べながら聞くと、須佐見は口を尖らせた。
「MMOらしく交流したいじゃないか。ただ効率のために調べて進めるなんて、邪道な気がしてな」
「それはいつもの俺のセリフだろ」
「って、実はゲーム内交流どころかアクセスすらここんとこできてないのは朝に言ったろ?楽しんだ上で新情報を検索するのは、それはそれで楽しいんだが、こんな状況で無機質にただ調べて情報を得るのは、ほらなんか、なぁ。
いつもなら効率重視だけど、今はな」
「性に合わないってやつか」
「まあ、趣味じゃないってことだな。ゲームが作業になると飽きてくる」
……そうとうストレスが溜まってるな。須佐見が情報収集に趣向を求めるなんてな。
仕事量だけじゃなく、はまっているものから強制的に遠ざけられてるんだから当たり前か。俺が知ってることなんてたかが知れているけど教え……って須佐見が知らない情報が何かなんてわからんな。
「提供できる情報なんて思いつかんが」
「ああ、今週頭くらいからのプレー内容を聞かせてくれよ。あ、教えたくない情報なら別にいいよ。
正直、向こうの最近の話が聞きたいだけだから。帰るまで待てないんだよ。調べ始めたら制限効かないし」
「そういうことなら任せてくれ。ま、俺のことだから、どう考えても冒険者じゃない冒険譚かもしれないけれど」
「その方が良いなぁ。生産系のプレーヤーがどんなことやってるかなんて、こんな機会でもなければ聞くこともないし」
俺としては、結構な冒険をしたんだぞ?
すごい久しぶりにアークの街中から出たし、ボス戦どころか、セックにすらたどり着いたんだぜ。第一線で活躍していたらしい須佐見には懐かしいだけだろうけど、今のこいつにはそんな情報の方が良いんだろうな。
冒険に出始めたころを思い出して楽しめるだろう。最先端情報だとダイブしていない今の自分に、逆にストレスが溜まるだろうから。
「いつも情報を提供してもらってばかりじゃ悪いから、まあ構わんよ。じゃあ、どこからいこうか……やっと、と言うか、とうとうと言うべきか、セックに向かうことにしたんだ。そろそろ違うレシピでも作ってみたいし、ちょうど護衛をしてくれる人達の都合がついてな。
おんぶにだっことは言っても、それなりに苦労したよ。モンスターが出てくる旅ってのは大変なんだな」
「本当に旅したら比じゃないくらい大変なんだろうけどな。
それにしても、とうとうセックに移動か。第1陣としては最後の方だろ?良かったなぁ。
今後は冒険者として活動するのかい?」
「いや、しないな。自分には向かないことがよく分かった。生産に注力するさ」
「でも、他の街に行くことも結構あるだろ?自分で素材を集めたりとか」
「そこはそれ。レベル上げて、ガチガチに装備を固めて。んで、護衛を雇うよ。攻撃用アイテムだって開発するさ……誰かが。俺はコツコツ作ってる方が性に合ってる」
あんな感じに戦うなんて無理です。レベルが上がろうが、何しようが。ボスの攻撃で一撃死がないようにすれば、まあ、護衛役がなんとかしてくれる。はず。
攻略最先端には間違っても行こうとは思わん。
「まあ、コツコツに飽きたら冒険するんでも良いとは思うがね。それでも面白いゲームだから。
ま、護衛が必要なら声かけてくれ」
「そこは、没入型MMOらしく、冒険者ギルドで依頼するさ」
「それもまたよし。
それからそれから?」
「そうだな……セックはのんびりした良いところだな……」
食べながらとりとめもない話をする。なんか、学生の頃を思い出すなぁ……。