2-1 初めての
【英雄歴263年春3月7日06:03(6月5日00:01)】
ベッドの上で安静にしてると30分弱(ゲーム内)でMPが全快になった。
所持品全てを鑑定するのに3時間弱。現実でも1時間経ってる。
いやー疲れた。薬草などの素材や魔物のドロップらしき物、初心者回復薬と初心者魔力薬、木材に鉱石、携帯食料まであった。グリフの話を聞きながら鑑定した種類ばかりだったけど、これで所持品は全て鑑定済み。
なんで、こんなに根を詰めてやったのかって?
それはスキルを見ればわかる。
スキル【錬金】(簡易錬金)1、【鑑定】(鑑定)10、【採取】1、【言語】2
技術【夜目】0
昨日の鑑定ラッシュでレベル10にまで成長していた。新規アーツはないが、グリフ情報だと【鑑定】が20になれば一括鑑定を覚えるはず。成長が楽しみでしかたない。
技術は、ダイブしたら確認できた新項目。グリフがマイナス補正がなくなるって言ってたし、ギルド長が言っていた覚えられるってのは、これか。そういえば、トルークさんも薬剤の技術って言ってた気がする。でも、出来るようになって0ってきついな。
部屋の物を適当に鑑定していると、良い匂いが漂ってきた。
「腹減ったな」
体感で3時間も経ってるんだから腹も減るか。
特に荷物もないので、寝癖とかを簡単にチェックしたら階下へ。
女将さんに鍵を返しつつ朝食をお願いしたところ、暖かい野菜スープに固いパンと小さな干し肉が出てきた。
ま、こんなもんか。まずくはないけど、たいして旨くもない。ごく普通の味だ。ビジネスホテルの朝食を思い出すな。
固いパンを良く噛んでから、スープで飲み込む。顎が鍛えられそうだ。行儀は悪くてもスープに浸して食えば良かったな。
食事を終わりにして、今日の予定を考える。って、考えるまでもなく、一日アルバイトだ。
それじゃあ、トルークさんを探しますか。早く【薬剤】も取得したいな。
トルークさんに連れられて行った薬屋の店主は穏やかそうな女性だった。トルークさんよりもちょっと若い。
「水くみをしてくれるだけでも助かるわ。息子が旅に出てから作れる量が減ってしまったのよ。
手伝ってくれるなら奥の離れを使ってちょうだい。離れの台所と簡易薬剤作成キットは好きに使って。材料はないけど、道具はそろってるから。瓶もある分は使ってくれて良いわ。
売り物になる物を作ってくれれば、もっと助かるわ~」
そう言いながらも、薬草をごりごりとつぶす。そこに水を少量注いで、深めの器に移す。弱火で熱しながら少しずつ水を追加すると、徐々に初心者回復薬特有のピンク色へと変化していく。
へーこうやって作るんだ。いけないいけない。見てるだけじゃなく、仕事を手伝わないと。開店前だから、まずは水汲みか。
ちらちらと眺めながら、裏の井戸から水を汲み水瓶へと満たしていく。重いし腰に来るわ~。
水瓶がいっぱいになったら、できあがっている薬を棚に並べる。古い薬が手前だ。
初心者魔力薬は限定生産とのこと。魔力草の入荷は少なく、常時提供できるほどの量は確保できないらしい。ただ、手順は初心者回復薬と一緒だって。
たぶん、毒薬も同じ作り方だろう。教えてはくれなかったけど。
開店後は客への対応も仕事の内。50Gの初心者回復薬と200Gの初心者魔力薬がここの主力。他の製品は使用期限の問題で注文生産が多い。
計算と受渡は簡単。特にプレーヤーの場合は驚いた。入店した場所で立ち止まったかと思うと、棚から商品が減ってカウンターに料金が置かれている。料金を受け取って顔をあげるときには既に退店している。便利だけど味気ない。
「そろそろ休憩しなさいな。食事もしてないでしょう?」
確かに。空いた時間は、ポム店長に初心者回復薬の作り方を習ってたから、休み無しだ。
【英雄歴263年春3月7日12:05(6月5日02:01)】
気がつけば5時間も働いていた。貰った携帯食料でも良いんだけど、せっかく台所があるんだから、野菜炒めでも作るか。
ポム店長に一声かけてから、近くで野菜と干し肉、それにパンを購入した。日持ちを考え、それぞれ2G分。
野菜炒めの味付けは台所にあった塩のみだったけど、悪くはない。自己評価は甘くなるね。
パンが固くなるから、夕飯はスープにするか。
食後の休憩をしながら、メニューをチェック。グリフにも言われたけど、便利な機能があるかもしれないし。
スキルスロットが増えてる?あ、ログに【スキルスロットが1つ開放されました(1日経過)】ってある。SPも3になってるし、何か取ろうかな。
あれ?これはレシピか?
メニューに【錬金】用の新しい項目が出来ていた。開くと上部にショートカット枠、下に料理と薬剤のレシピがある。初心者回復薬、初心者魔力薬、干し肉野菜炒め。注視すると必要品が表示される。回復薬は薬草と水か。火とか道具はいらないんだ。あ、その代わりにMP消費するのか。
うーん。ログインしたらスキルの成長だけは見ないとダメだな。いや待てよ。レシピはさっき覚えたのか。
ま、いいや。せっかくだからやってみよう。茶碗に残っていた水瓶の水を汲み、薬草を1つ取り出して机に置いて、“簡易錬金”を使う。水と薬草が光ったかと思えば、お互いの光が中間地点に集う。
光が消えると、あっちゃー、そこに液体がこぼれていた。
受け皿が必要ですか。そうですか。次回は準備しよう。
ま、ただ今回は不要だったかな?なにせ水が茶色いし。
【英雄歴263年春3月7日19:06(6月5日04:22)】
今日の手伝いは19時までやった。これで1割。結構きついな。
食事を作ろうとすると、疲労で身体が重い。ゲームなのに。でも食わないとバッドステータスがあるみたいだし、干し肉と野菜のスープでも作るか。これで野菜は終了だ。
それにしても、水汲みがどうしても大変だよな。今日はできなかったけど、時間が出来れば販売商品の“鑑定”とかしたいし。うーん。やっぱこれかな?
スキル選択で【水魔術】を注視すると、“ウォータボール”と“クリエイトウォータ”が表示される。攻撃力は低いが消費MPも低い“ウォータボール”は、戦闘の役に立つだろうし、なによりも消費MP1で水がでる“クリエイトウォータ”があれば、水汲みの回数も減る。
SPを3消費して【水魔術】を獲得すると、水瓶に一度“クリエイトウォータ”を。
ふーん。これくらいなら、5回も唱えれば水瓶からあふれるな。
それにしてもやりたいことだらけだ。
訓練もしたいし、せっかく【言語】を取ったんだから図書館にも行きたい。魔法ギルドにも行ってみたい。
でも、まずは初心者回復薬を作ろうか。
薬草の残りは、うん59個。結構あるな。
簡易薬剤作成キットを準備する。下で火を焚ける台と耐火カップ。注入カップは丁度1回分のサイズなのがありがたい。乳鉢は小さくて使いづらそうだ。
じゃあ、まずはオーソドックスに作ってみるか。
ごりごり ピチャピチャ くつくつ ちょろちょろ かんせー
でも、アイテム名は『回復薬?』だし、説明文も『回復薬のようだ』ってのはなしだろ。
作った人にもできた物がどんな物かわからないのはちょっとあれだよな。俺は【鑑定】持ってるから良いけど。
“鑑定”結果は
初心者回復薬 品質50 HP回復50 回復薬
こんなに簡単にできるんだ。空き瓶も50はあるし、どんどん作るか。
“クリエイトウォータ”で水を出し、作成を繰り返す。ちなみに最初に完成したのはビギナーズラックだったらしく、失敗も多かった。
結果、成功11、失敗28。薬草残り20。効果と価値には5~10の幅があるけど、ランダムかなぁ。
一番できの悪かった回復薬を二つに分けて“鑑定”。量が少なすぎて効果がないって説明が追加されてる。スキルレベル10だからかな。
で、ここに水を入れると……茶色くなった。価値も0だし、ダメになったと説明が変化している。
うーん。回復50って俺からすると多いから、薄められると助かるんだけど。
あ、じゃあ、熱しながら入れる水を増やしてみるか。
ごりごり ピチャピチャ くつくつ たっぷり しっぱい
ハイ駄目。
注入カップに汲み直すと間が空くからダメなのかな?
2カップ分をお椀に入れてもう一回。
ごりごり ピチャピチャ くつくつ たっぷり かんせー
初心者回復薬(小) 品質50 HP回復20 回復薬
おっ、新製品だ。効果は下がってるけど、1つの薬草から2つ出来たからスキル経験値的には得かも。色が薄めだから区別もつく。
逆に濃いとどうなるんだ?水半分でやってみるか。
ごりごり ピチャピチャ くつくつ ピチャピチャ しっぱい
かなりの薬草が溶けずに残ってしまった。もう一回熱しながら水を……あ、茶色くなった。
失敗したら茶色くなるってのは確定か。
今度は薬草を倍使ってみるか。
ごりごりごりごり ピチャピチャ くつくつ たっぷり かんせー
また溶け残りそうだったから、多めに水を入れるはめになった。お椀に水を1回分用意しておいたのは大正解だな。
完成したのは普通の初心者回復薬×2。あまり意味がなかった。
うーん。あ、水の代わりに回復薬を使ってみるか。
ごりごり ピチャピチャ くつくつ ちょろちょろ かんせー
初心者回復薬(大) 品質60 HP回復80 回復薬
お、これは良いな。色も濃い。ただ、2枚使ってこれだと、どうかな?
残りの薬草は……15枚。完成品は小2、中11、大1か。残りはポム店長に見て貰ってからにするか。
失敗作はまとめてゴミ入れ代わりの壷に入れる。
それじゃあ、一度ログアウト。
ようやく物作り。でもゲーム内では異例の早さ。