10-5 特別
夕焼けがとても奇麗でした。まる。
いや、本当に奇麗だったんだよ。これが見られるならもっと早く冒険に出るべきだったかも。街中で見るよりも数段素晴らしかった。
刻一刻と変わっていく景色。
徐々に赤く染まっていく草原の中を、悠々とこちらに向かって歩いてくる子牛……って言うにはでかいな。動く小山って感じだ。それが赤く染まっているんだから、ちとスプラッタを連想させる。
人懐っこいんだけどね。初めて世話する見知らぬ俺に対しても気にせずブラッシングをねだるし。まあ、まったく脅威に思ってないだけかもしれんが。この辺りじゃ敵なしなんでしょ?
一通り手伝いを終わりにしたら、そろそろマジで睡眠時間の危機。
「せっかくミルクの採取も協力してくれたんだから持ってげ。本当は、飯を食ってってもらいたいが」
「ありがとうございます。それは、次回のお楽しみに」
食事はとても楽しみだけど、残念ながら時間がない。今回のお手伝いはとても楽しかったし、【木工】の良い訓練になったので、セックでの息抜きとして今後もお世話になるつもりだから、その時は甘えようと思う。
その代わりに、ツボに入ったミルクを貰ってしまった。これこそが特別な依頼の副産物かな。料理するにも良いが、そのまま飲むのも良し。生鮮食品扱いだからか、チーズへの加工前のミルクは地元だけで消費するのみで、アークでは見たことないからすげぇ得した気分。
おっと。いい加減ログアウトしないと。
寝て起きて、出勤前の空き時間にまたダイブ。生産ギルドに顔を出すってよりも、手持ちの薬草を使い切るためだ。
早速、簡易の薬剤作成キットで作業。家の設備よりは劣るけど、安全な出先で作業できるのは嬉しい。【錬金】よりも高効率だし。あ、もちろん、【錬金】の方も数をこなす。うーん。星が全部光るのはまだまだ先っぽいな。カウントが表示されると嬉しいんだけど、でも、もしあったら寝食忘れてそればっかりになりそうでもあるし。痛し痒しか。
いくつものアイテムを作って生産ギルドへ納品。販売よりもこっちの方が良いって受付の人が依頼消化にしてくれました。おかげで生産ギルドのランクが一気に10に。冒険者ギルドが5だから、どうみても生産系のプレイヤーだよな。それでもこれだけ楽しめるんだから、ゲームの質は高いよな。
うーん。追加で素材を購入してってやるほどの時間はない。もちろん、放牧の手伝いなんてもってのほか。おっちゃんは少しでも構わないって言ってくれたけど、さすがになぁ。
「すみません。ここで学べる技術ってありますか?」
「あら?弟子入り希望ですか?」
「……じっくり教わる余裕は、たぶん無いんですが……あ、ちなみに、いくつか生産系を学んでます」
「教えていただけるかどうかは別としまして、ここセックでは【薬剤】【農業】【皮革】が盛んですね。それに伴いまして、【細工】や【裁縫】を修めた方も多いですね。
それと、【農業】の派生として【牧畜】ですね」
「派生ですか?」
「ええ。特化とも言います。基礎である【農業】からより専門的な分野になりますから、独り立ちはなかなか難しいですが。この町の特産でもありますね」
「ああ、確かにミルクは美味しかったです」
味を確かめるために、ダイブしてすぐに一飲みしたんだ。濃厚で美味かったです。カルボナーラ食べたい。
俺の言葉を受けて、受付嬢の笑顔が一段と深くなった。
「あれはお勧めです。ここでしか味わえないもの筆頭ですから。あの味に魅かれてセックに住み着いた冒険者もいるほどですよ?そんな方向けの依頼なども両ギルドにありますので、お時間があるようでしたら受けていただけると助かります。
あ、技術に関してはそれくらいかと思います。資料をご覧になりたいのでしたら……ギースト様でしたら、有料ですがご覧になれますよ」
「そうなんですか、ありがとう。見させてもらう時には時間を作ってきます」
聞きたいことが聞けたので、いったん受付から離れる。やっぱり新しいことは学べそう。特に、本が読めるのは嬉しいけど……【言語】のレベルが足らないかも。職員に代読とかお願いできないかな。ダメなら、クロに協力してもらえると良いんだけど。
それにしても、中心は【薬剤】と【農業】に【皮革】かぁ。特に【農業】はアークだと学びにくいから惹かれるなぁ。ただ、覚えても活用が難しいな。小屋の横で薬草育てるくらいしか、今のところは活躍の場がない。【牧畜】なんてもってのほか。現実的なのは、本格的な【皮革】の勉強か、回復薬が作れるようになることかな。アークじゃ難しいから。
基本こちらの住人は全工程を手作業でやってる。スキルじゃなくて技術って意味だけど。自分が技術でやることを考えると、素材を加工しているアークで学ぶよりも、同じ【細工】や【裁縫】でもこっちで学んだ方が意味がある気もするけど。アークの家もほったらかしにはしたくないな。
うーん、いいや。ここで切り上げて、日中考えるか。