10-3 見学
冒険者ギルドに比べると商業ギルド、生産ギルドの建物は一回り以上大きい。が、閑散具合はどこも似たようなものだ。
それでも一番にぎわっているのは生産ギルドだろうか。
「商業ギルドもそんなにいないんだな」
「馬車での荷運びが中心だから。個人の行商人は少ないから規模に比べると人間は少ないよね」
「来てる馬車の数を考えるとあれだけの大きさは必要よね。商品も結構あるんでしょ?」
「近くで薬草などを栽培しているようである。それに、ここの売りは初心者用ではない回復薬と魔力薬。アークの先の大きい都市でそこそこ高く売れるのである」
「だからアークにほとんどないのね」
「初心者レベルならそこまで回復量もいらないですから。それこそ初心者用で賄えるんですよ。連続使用のペナルティーもありませんし。
回復薬などは本当ならもっと遠くまで運びたいでしょうが、使用期限のことを考えると遠くまで運べないですし、ここでしか作れないわけでもないので、ここからテツエン――アークの先の商業都市ですが――へと運ぶのがせいぜいでしょうね。その先はコストに見合わないですから」
「微妙な現実味は別に求めてないんだけど」
「そのおかげで発生する依頼やクエストがあるみたいですから。リアリティも出ますし」
「ゲームらしさに欠けるって意見もあるし、でもリアルさが売りのゲームだからねぇ」
確かに、アークでは初心者向けの依頼ばかりがあったが、こっちでは輸送メインだから護衛が中心と、冒険者ギルドの依頼も趣が違っていた。ここならではの依頼として家畜の世話なんかもある。内容の割に妙に報酬が高かった気もするけど。
生産ギルドでの依頼も多分そうなってるんだろうな。早く確認したいな。
「……良し悪しってことですね。
生産ギルドもそこまで人がいませんね。この辺りでは中心的な生産ギルドって聞いていたので、アークほどじゃなくてももっといるかと思いました」
「アークにできたからでしょ。奥にあるここよりも、中継地にもなってるあっちの方がにぎわうのは当たり前よ」
「回復薬などはあちらでは作れませんから、ここも廃れはしないでしょうが……」
「栄枯盛衰。どんな産業にでも波はあるである。ただ朽ち果てるか、新たな道を進むかは当事者が決めることである」
「変わらず道を歩くことも否定されるべきではありませんけどね」
「正解など後にならないとわからないである。信じて進むのみである!」
「クロは、自分を信じすぎよ。もう少し器用になりなさいよ」
「現実ならまだしも、この夢のような世界で己を曲げる必要性などないのである。全ては我が選んだ道。我が歩みの後に道ができるのである!」
「どこかで聞いたようなセリフね。
ま、一番好きにやってるクロが一番楽しそうなのは確かよね」
「……皆さんも好きにやっているのでは」
「シーッ。リリー。それは言わない約束ですよ」
生産ギルドの出入りが落ち着いたのを見計らって中に入ると閑散とはしているが手入れが行き届いた広いホールが俺達を出迎える。
特徴があるわけでもなく、さっきの冒険者ギルドと似たかよったかの造りだ。建物の感じからするとカウンター後ろに大きめの倉庫があるっぽいのと、奥に作業スペースがあるから、全体では一番大きい建物なのに少し狭く感じるかな。
これだと大人数が集まるのはちょっと難しいのかも。冒険者ギルドや商人ギルドと違って、集まることは少ないのかもな。生産者が集まるようなイベントもそうそうないだろうし。
「依頼は結構貼ってあるね」
「え?どこもあんなもんじゃないの?」
「じゃあ、どこも人気なんだね」
「ん?何の関係があるの?」
???
なんか話がズレているぞ?
困惑顔のミラと顔を見合わせてしまった。多分、俺も同じような顔をしているはず。そこですかさずシロが説明を入れてくれた。
「ギーストさん。よく見ると同じ依頼ばかりなんですよ、あれ。ギルドランクが上がると色んな依頼が貼られるようになりますが」
「え?マジで?
これなんて掘り出し物っぽいけど」
「ええ。
そもそも、ここを見なくてもメニューで選べますから。ここを見ている時点で、プレイヤーでないか、縛りプレイでしょうね」
「そっか……じゃあ、これだけが古いのも演出かぁ。牧畜の手伝いで報酬も安いから、何か意味がある依頼なのかと思ったのに」
「……どこに古いのがあるの?みんな同じでしょ?」
「え?明らかにこれだけ古いでしょ。端なんてボロボロだよ?」
俺の言葉にクロが肩をすくめて、深く息を吐いた。
馬鹿にしているわけではない。なぜなら感心した口調だからだ。
「あっさりと見つけるであるな。検証が終わったばかりの内容である」
「あーっと。もしかして、人によって貼られている依頼が違うって説の?ギルドランクやスキルが関係してるんだっけ?」
「変化自体は確定です。ただ微妙だったので演出なのか、なんらかの要因があるのかと調べている途中みたいですよ。いくつもギルドがありますから、それぞれでのランクが作用しているんじゃないかって言われていますが……そのようですね。私にはどれも簡単な納品依頼にしか見えませんし」
「私もそうね。ウサギの毛皮とかくらいよ」
「え?薬草では?
ああ、スキルが影響しているんですよね。忘れてました」
詳しく話を聞いてみると、基本的にはプレイヤーにふさわしい依頼が表示される。スキルやらレベルによって違うようだ。ただ、チームを組んでいると同じになる。だから、普通のプレイヤーでは気が付かない。第二陣が来て、話の食い違いから発覚したことらしい。
ちなみに、魔法ギルドでのランクが高いクロには、魔法的要素が強い依頼が見えるとのこと。各ギルドランクでも変化するみたいだ。
速攻、シロが調べてくれた。
「ああ、もう掲示板には検証結果まで書かれているみたいですね。朝には中間報告的に出ていたようです。やはり、スキルでも各ギルドランクでも違って、チームを組んでいると同じになる、と。装備でもちょっと変わるようですね。盾のあるなしとかで。自分のプレースタイルが最も影響するようですが、ランダム性の強い特殊な依頼もあると。それに、掲示板にしか出ていない依頼もあるとのこと。相変わらず癖が強いゲームシステムですね。
アークに生産ギルドまでできたので検証しやすかったようです。皆さん頑張ってますね」
「色んなパターンを調べるなんてできないわぁ。やっぱり戦っている方が楽しいもの」
「そこは人それぞれですね。
ところで、ギーストさん。その依頼やってみますか?特殊な依頼の可能性もありますよ?」
「う~ん……ちょっとだけ話を聞いてみます。みんなは」
「ここでチームを組むとその依頼が消える可能性もありますから。仲間が必要なら声をかけてください。こっちで見てますよ」
「そうですか。じゃあ、行ってきます。
あ、そうだ。ありがとうございました。またよろしく」
「こちらこそ」
「あちらに籠るときには連絡するである。顔を出すであるから」
「じゃあねぇ」
「それでは」
なんか、見守られながらカウンターに向かうのって恥ずかしいわ。
初めてのおつかいっぽくて。