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生産だって冒険だよね  作者: ネルシュ
大冒険?
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10-1 到着

久方ぶりの投稿になります

 丘の上から1刻もかからないで麓までたどり着いた。ちょっとした雑談をしていたらここにいたって感じだ。道が平たんになってすぐに、簡易ではあるが柵が張られている。


「こんなに近くて、ウルフとか怖くないのかな?これだってスカスカだし」

「そう言われればそうですね。どうしてでしょうか……」


 『戦乙女』リリーが真面目に考えている。雑談なんだから、もっと適当に思いついたことを言っていいのに。会ったばかりだからかと思ったけど、もともと真面目な質なんだろう。おじさんとしては、ゲームなんだからもっと気軽にとも思わなくもないけど、それこそ大きなお世話だろう。

 回答を求めて図書館の主、知識の宝庫であるクロに目を向けると、なぜかシロが説明してくれた。

 遠くに見える、黒い塊を示しながら。


「ここで飼われている家畜は強いんですよ。いくらウルフの群れが大きくても、あれほどではないですから」

「あれは群れか……結構距離があるのに大きくないか?」

「大きいですよ。見たら驚くでしょう。集団としても、体格も。

 頭も良くて、いつもは中柵の内側にいるんです。あれは子牛の集団ですね。あの、ひときわ大きいのが引率の親牛でしょう。

 野生の牛なら、ここに来れるパーティーでも一匹を囲まないと難しいでしょうね。家畜だから大人しいですが、それでもウルフなら群れで来ても問題ないですね」

「……そんなのを飼ってるのか?」

「普段はおとなしいですし、採れるミルクは絶品ですよ」


 シロの解説は絶好調。最近、野良パーティーで護衛を兼ねてセックに来ることが多いので、慣れたらしい。あ、野良パーティーってのはその時限りで集まった集団の事で、消耗品の回復薬があまり効果が高くないから高レベルヒーラーは大人気とのこと。

 戦闘では経験値の基本割と役割分配があるとされる。半分くらいがパーティー人数で同じだけ配られ、与ダメージや回復、引き付けやラストアタックなどの功績によって残りの経験値が分けられていると推測されている。自分のプレーによって得られる経験が違うところが良いと評判である。


「思ったよりも近いね。もっと遠いと思っていたな。

 ここで初心者系じゃない回復薬とか作ってるんだろ?もっと向こうに入ってきていいと思うんだけど」

「その答えは簡単である。アークよりも先の街、テツエンやガルゲラで必要とされるからである」

「どうせ運ぶなら、利益になるものをってことですね。馬車であれば問題なく運べますから」

「……たまには我も解説したいである。いつもいつもシロばかりである。せっかく図書館で学んだことが生かせないである」

「すみません。いつもの癖で。

 クロ。そんな顔をしないでくださいよ。図書館では、どんな情報があったのですか?」

「図書館に街の情報とかあるんですか?行っておけばよかった」

「だめよ、リリー。本を読むのにも文字が判らないと無理なの」

「えっ?アイテムとか依頼とか普通に読めるじゃないですか」

「そこは親切設計よね。ただ、お店のメニューとかはウィンドウでわかるけど、置いてあるのは読めないでしょ?こっちは独自の言語が設定されているのよ」

「あ、あれメニューだったんですね。何かと思ってました。

 あ。もしかして【言語】ってそのために」

「そうである!我の【言語】は高レベルのため、多くの文献が読めるのである」

「最初はそんなに読むものがないのにな」

「ギーストさんもお持ちなんですか?」

「あ、ギーストでいいよ。

 うん。俺も持ってる。最近さぼってるけど」

「せっかくだから、この機会に読むと良いである。かなり面白いである。

 例えば、生産の手順について、我の知る現実と違うものもあるである」

「高性能のアイテムがあまり作られてないのはそれもあるかもしれませんね」


 スキルでの生産だと工夫する余地がほとんどないのも原因じゃないかな。手作業だと技術になって、レベル上げが大変だし。


「最初読めるのは簡単な話だけである。子供向けであるな。……本を子供が読むかはわからんであるが。

 レベルが上がると、情報誌や伝記、辞典なども読めるようになるである。街だけでなく、素材やモンスターについて詳しくなったである」

「「おおー」」

「それならそうと早くいってくださいよ」

「そうよ。もっと楽に倒せるんじゃないの?」

「……一振りで数匹のウルフを倒せるのにであるか?この辺りだと奴ら以上の敵はそうそういないである」

「そりゃそうね。野生の牛とかだって、ほとんど見たことないし」

「だから、語りたいのである。野生の牛は、正式名称が『ワイルドブル』である。この事実を知るとアイテムやモンスター表示とかも『野生の牛』が『ワイルドブル』になるである」

「切り替えもできるんですよね?」

「そうである。従来表記の方がわかりやすいであるが、情緒にかけるである。やっぱり、小鬼よりもゴブリンである」


 先々に行くと、色んな名前のモンスターが出てくるんだとか。その辺りも、簡素化されたわかりやすい名前だと、ものによっては雰囲気が壊れるとのこと。リアルさを求めるなら、苦労もしろってことのようだ。

 今のところあまり浸透していない情報とのこと。正直、他のプレイヤーからすると今更言われてもって感じだし、わざわざそのためにスキル枠を消費したいとも思わない。メーカーに要望を出すことで変えさせようと計画している一派が有力だとか。……わからんでもないな。雰囲気ってのは重要だから。

 それにしても、クロも話が止まらないな。牛の部位のこっちでの呼び名とか、面白いけど無駄な知識だろ?よくもまあ、覚えているよな。もしかして、独自にこっちの翻訳本とか作ってるんじゃないか?モンスター名が修正されないなら、それで一儲けとかできるかもな。


「それにしても結構歩くな」

「柵を超えてますからセックの敷地内には入っているんですけどね。さすがに、ここで『ようこそセックへ!』と言っても様になりませんね」


 牧畜と生産の街セック。遠いようで近く、近いようで遠い街である。

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