9-12 戦い終えて
「これで、雑魚は最後である」
「強化終了まで、結構かかりましたね」
「仕方ないである。直接攻撃以外で生じた遠吠えが必要なのである」
「あ、その顔は。ギースト、あなた知らなかったんでしょ?
最近分かったんだけど、ここのボスは、一定条件で倒した取り巻きの数によって強化されるのよ」
「へぇー。どれくらい強くなるんだ?」
「最大強化数は100と決まっているのである」
「体感では3倍くらい強くなる感じね」
「……ボス3匹同時なんて、無茶すんなぁ」
呆れた俺に、軽く突っ込みが入る。
「どちらかといえば3連戦ね。同時に戦うなら、強さ3倍程度じゃないもの」
「連携されなくても、同時戦闘は厳しいですよ」
「そんなもんかねぇ……。で、強くなるだけ?」
「そんなわけないである」
「まあ、私たちも強い奴と戦いたい!なんて思ってるわけじゃないのよ。レアドロップが落ちやすくなるの。大抵は牙だけど、3倍まですれば半分以上は毛皮も付くのよ」
「ハイレアとして爪もあるらしいですが」
「ガセね……って言えないところがレアドロップは厄介よね」
「現状は、ボスからのみのレアドロップですから。露店で手に入ると良いんですが」
「手に入っても使うのはミラくらいでしょうが」
「手に入れることが重要である。収集者としての使命である」
あー。コレクター魂は理解できるわ。序盤にもかかわらず生産数をコンプリートしようと目論んでいる俺には、痛いほどよくわかるわ。
つーか、この検証が進むには、相当な情報が必要だったんじゃないかな?気づいた奴はすごいな。
「それはそうと。どう?参考になった?」
「……いやぁ。桁が違いすぎて参考も何もないよ」
「まあ、現在ここの最高峰二人だしねぇ」
「立ち回りの基本は勉強になりますが、さすがに真似できませんよ」
「そう?動きは極端に違う二人だけど、参考になるようにって今回はどっちもわかりやすく動いてくれてるじゃない」
「それですら我にも高いレベルの動きである。生産が主なら無理である」
「わかりやすく動いてくれてるってのもわからなかったよ。悪いことしたなぁ」
「あら。悪いことなんてないわよ。今後のことを考えるといい経験になったと思うわ。あの二人も周りに合わせることを覚えないと」
「我らも言えた義理ではないのである」
「好き勝手していますからね、私達は」
「動の『戦乙女』、静の『廃神』。両極端な戦い方を見られるんだから、今後の参考に、ね」
「敏捷力を駆使した姫の戦い方が参考になると思いますが」
「余分な動きを排除した神の方が、継戦能力が高いである」
「……ってな感じで、ギーストも今後の参考にしてね」
いや、無理だろ。参考どころか、理解が追い付かないわ。
素早く動きながら次々に敵を屠る『戦乙女』と、大して動いていないのに周りの敵が倒れていく『廃神』。正直、『戦乙女』の動きも遠くからだから目で追えるけれど、近くなら絶対にわからん。遠くからだって動きが見えない『廃神』なんて考えるまでもない。
ステータスが上がったからって俺にできる動きとは思えないんだよな。まあ、いいもん見させてもらったとは思うけど。
あ。
のんきに会話を繰り広げていたけれど、戦闘中であることには変わりない。こちらに攻撃が通らないことを確信していたからこそ、のんびりとしていた。前衛に対してはそれだけの信頼を寄せていた。
その確信は正しく、今ちょうど、ボスが動きを止めて、光の粒へと変化した。
改めて最初を思い出すと、登場時に比べてボスの体躯は2周りは大きく、動きも素早くなっていた気がする。まあ、それでも前衛二人の前には手も足も出なかったんだけど。
あんまり感慨がわかないけれど、これが俺にとってのフィールドボスであるウルフリーダー討伐の一部始終である。
「少なくともレベルが上がったんじゃない?まだ10かそこらでしょ?」
「【水魔術】も、である。特に“ウォータボール”を使ってなかったのであるから、複数上がっていてもおかしくないのである」
「運が良ければ【投擲】も生えてるかもしれませんね」
「一定時間内に投げ当ててダメージを3回だっけ?結構早く取得条件が判った技術よね」
「検証は終わっていないみたいですが、ほぼそれが取得条件のようですね。ここのボス戦で取得するプレイヤーが多いようですよ」
「……みんなも持ってるの?」
「別に必要ないである」
「私以外誰も持ってないんじゃない?不要な技術をわざわざ覚えるのも面倒って感じる人も結構いるのよ。
いくらステータスにボーナスが付くっていっても、わざわざ、ね」
「そんなもんかねぇ」
MPの限り“簡易錬金”や“粉砕”を駆使し、アイテム枠を空けていた。空けた端からドロップアイテムが手に入ったけど、まとめ処理もしつつボスドロップに備えていたのだ。
肝心のボスドロップはっと。ふむふむ。これか。
ハイウルフの毛皮と牙が一つずつ。なかなか良いのか?
「やっぱり、三倍にするとドロップも良いわね。毛皮と牙の両方が出たわ」
「あ、俺も同じだ」
「我は一つだけである」
「あら残念「が、爪である」え?レアじゃないの!」
「私も爪ですね。毛皮もありました」
「相変わらず、シロのリアルラックはすごいわね。あ、お疲れさま。二人とも。
ドロップはどうだった?」
なんか、パーティープレーってのも面白いな。