9-5 自分探し
「ほほう。そんな感じなんだ」
「まあ、プレースタイルは追々固まっていくが、ある程度は決めておいた方が良いである。パーティーを組むにも、相手の動きが全く想像もできなければ仲間に入れてくれないのである」
「そうだな。いつも『名無し』とかにお願いするわけにもいかんし」
素材集めとか、自分でもやりたいし。でも、俺じゃあソロは難しいよな。そこまでのPSはない。……あ、だから基本を決めてパーティーを組んで冒険するわけか。
「ウルフを抜きにしても積極的に前線にでるには不安である。かといって遠距離特化とも言えない。中盤か後衛だとしても、大体の動きのイメージはつけておくべきである。
今回にしても、完全に守られる依頼者タイプか、一緒に戦う依頼者タイプかに大きく分けられるである」
「……護衛を雇う商人と、一緒に旅して経費を浮かす行商人って感じかな。今回は、人数が俺を含めてぴったりだから一緒に冒険タイプだろ?」
「そうでもないである。戦いの際はミラを専属でつけて残りで殲滅する形であればできなくはないである」
「ボスは」
「手間はかかるができるである」
即答ですか。ボスを2名減(足手まとい1)の状態で倒せるのですか。そうですか。トッププレイヤーは違いますな。
でも、そういう割には、少々渋い顔。できることはできるが、簡単ではないらしい。まあ、攻略組とは言っても、そこまで隔絶した能力があるもんじゃないってことだ。まあ、まだ始まったばかりだし。これから先は実力が離れていく一方だろうけど。
「だからボスは気にせず、ギースト自身のプレースタイルを考えるである。自分が何が得意か。何をしたいか。どうなりたいか」
「……得意かぁ。【錬金】と【薬剤】持ってるからアイテムを大量に作れるってのと、ステータスなら器用力と精神力が高くて……【水魔術】も高いけど」
「便利ではあるが威力には欠けるであるな」
「だな。メイン火力とするには、なぁ」
「正直、どの魔術も一長一短である。風も、視認しづらく連射性は高いであるが……土は言わずもがな」
「小技や守りに長けるがって話だな」
「スキルレベルと精神力が上がれば威力は増すであるが、ソロでやるには消費MPがネックである」
「実感こもってるねぇ」
そういえば、クロは魔法専門ソロ冒険者の第一人者でもあったはず。メリットデメリットは十二分に把握しているのだろう。彼みたいに特化するんじゃなければ、俺だと精々補助にしか使えないか。
「【水魔術】の良いところは、状態異常などの回復を覚えることである。生活が便利になるので、こちらの住人には人気であるが、冒険者にはそこそこであるな」
「便利だけど……ってことか」
「水を運ばなくて良いので助かるであるが、プレイヤーにはあまり関係ないであるし。そもそも街道などは水利の良い場所にしかないのである。そこを移動する限りは、そこまで重要ではないのである。それよりも、必要な技能はたくさんあるである。
……おっと話がズレたである。ソロだとしてもある程度レベルが上がれば、どのようなプレースタイルでもこのあたりならごり押しで行けるである。
貴殿は、まず、集団での戦いに慣れたほうがいいである」
「確かに経験は少ないからな」
経験がないとは言わないのは、グリフ達と一緒にイベントダンジョンに潜ったから。あれでだいぶ鍛えられた。
そこでわかったことがある。ウルフ恐怖症についてだ。怖くて無意識に避けているって言われてたからそうだと思っていたけど、それはちょっと違ったみたいだ。ケイブウルフは特に問題なかったし。
それでじっくり考えるとこうじゃないかと思い当たることがある。
ウルフが怖いんじゃなくて、こちらを殺そうという意思、殺気。つまりは死の可能性が怖かったんだ。
ケイブウルフを例にとれば、グリフ達とパーティーを組んでいれば怖くとも何ともない。ただ、ソロで潜ると考えると、背筋が震える。最初から簡単に倒せたウサギやコッコだって、群れと戦うイメージを持った時点で足がすくむ。
目の前に迫る死。それが恐怖の源泉。
一人でウルフと戦うと考えれば、レベルが上がった今でも肝が冷える。しかし、目の前にいるクロどころか、押しかけ弟子と一緒に戦うと考えるだけで問題ないと思える。群れなら厳しいだろうが、単体であれば、自分以外にもう一人いれば死ぬことはほぼないって実感してるから。正直、ソロでも問題ないんだろうけど、そこは、前回のイメージがまとわりつくからなぁ。
でもまあ、そうなると、ソロで素材を集めるのはかなり困難を伴う。明らかに問題のないレベルまで鍛えるか、死に慣れるか。……ゲームとはいえ、ここまでリアルだと死に慣れたいとは思わないな。ソロだと簡単なもの、必要なら護衛やら野良パーティーで頑張るしかないか。
そうなると、自らの戦い方も朧げながらイメージできてくる。ソロはさておき、仲間がいる状態で活躍できること。できるなら、自分のスキルやステータスが意味あること。でも、積極的に前線にはでないこと。そんなところか。クロなら何か思いつくかな?
「……攻撃方法は、遠距離であるな。ステータスから【弓】か【風魔術】がお勧めである。いざという時のために【短剣】もあることだし、レンジャーやスカウト、盗賊系が王道であろう」
「王道かぁ」
「……貴殿には向かないかもしれぬな」
「別に嫌いじゃないんだけどね」
みんなと同じことが嫌なわけじゃなくて、せっかくだからやりたいことがやりたいってだけ。そう考えるとスキル枠をそっちに使うことにはちーとばかり抵抗がある。それに、遊撃とはいえ直接的に敵に会い向かうのは今の段階ではちょっと怖い。避けることはできないけど。
そうなると魔術か弓かぁ……技術で覚えるにはあれかなぁ。でも、【短剣】は比較的簡単だったし。
「覚えるには時間がかかるかな?」
「ん?【弓】であるか?……聞いた覚えがないであるな」
「冒険者ギルドか狩人関係、衛兵とかなら使えると思わない?」
「教えてくれるとは限らんであるが……使うだけならプレイヤーにもそれなりにいるであるが」
「ま、ミラがそうだしね。まずはそっちに聞いてみるかな」
「時間があるなら冒険者ギルドなどでも聞くことをお勧めするである。生産ギルドで生産系技術が覚えられるのであれば、冒険者ギルドなら戦闘系技術が覚えられるはずである」
「今のところそんな話は?」
「ないであるが、そろそろそんな話が出てきてもいいと思うである。技術が覚えられることが最近知られてきたであるし。スキル枠に余裕がないのは誰でも同じである」
そうして、技術習得とレベル上げに苦労して諦めるまでが一セットらしい。最初に比べて生産ギルドの込み具合が落ち着いたのはそういった理由だとか。
……駄弁ってても仕方ないな。将来は別にして、そろそろ当面の自分の動き方を決めよう。合わなかったら変えればいい。
「できれば新しい魔術は覚えたくない。絶対に無駄にするから。【短剣】はいざって時の保険にしてメインにはしない。【ダッシュ】もあるし、【水魔術】で微妙な回復兼中衛遊撃かな。
できれば、生産を生かせればいいんだけど……」
「薬を配れば良いのでは?」
「それだ!」
そうだ。どうせ遊撃なら、戦闘中、回復薬や魔力薬を配れば良い。足りなくなっても〝簡易錬金”なら戦闘中でも使える。あ、毒薬とかの状態異常系もあるんだからそれを敵に投げてもいいな。それならソロの時もハードルが低くなるんじゃね?
邪魔にならないように動くのがメインの遊撃だ。投げる練習は必須だな。味方に近寄れない時も使えるし。ちょっと練習して難しいようならスキル枠を使ってもいいや。器用力が関係する可能性が高いから無駄にはならないだろうし。
「ありがとう。なんとかなりそうだ」
「それは良かったである。明日は我らがいるであるから、色々試してみるである。遊撃としての動きならミラが、回復としての動きならシロが本職であるから」
「そうか、そうだね。そこでもお世話になります」
「なので、持っていくならMP回復系とデバフ系アイテムがお勧めである」
そうしてみよっかな。