9-4 出立に向けて
「……とまあ、こんな状況である」
「そういえば、遅くなったけどイベントじゃ大活躍だったんだって?『名無し』。
すげえな。おめでとう」
「ありがとうである。まあ、パーティープレーとしては盲点というか、やってみたら思いのほか良い点数になったというか。
ネタプレイのはずだったんだがなぁ」
「何はともあれ、ふつうのパーティーランキングトップだろ?個人ランクも独占したって聞いてるし。
素直に祝われときなって」
「そうであるな。ありがとう」
ちょっとだけ吹っ切れた表情でクロは頭を下げた。
……素が出たのは見なかったことにしよう。
それにしても、ネタプレイで断トツの成績を稼ぎ出すなんて、あれだろ?よくあるチートキャラってことだ。すごいやつらが集まったもんだ。類友かね。
メンテ明けの状況も大体教わったし、明日の準備は大丈夫かな。
「装備はどうしようかな」
「死に戻りしないように気を付けてくれれば大丈夫である。PSに自信は?」
「あると思うか?」
「……で、あるなら。行動を阻害しない程度の、革鎧とかレザースーツを中心に、防御重視で。動けないと困るであるが、PSに自信がないなら華麗に躱す夢は見ないことである」
「魔法特化は?」
「……【水魔術】だけで?」
ごめん。目つきが怖いです。
「固定砲台としては火力が足らないし、遊撃としても行動に不安である。おとなしく、死なないことをメインに考えるである」
「時には【水魔術】で援護、と」
「あまりやるとヘイトを稼ぐのでお勧めしないであるが……まあ、今のギーストなら問題にならないレベルであるな」
「あとは、回復系のアイテムを大量に持つよ」
「通常ウルフのドロップは処理できるであるか?できるなら、MPメインでお願いしたいである。ドロップが貯まって仕方ないである」
「あーっと。毛皮なら〝簡易錬金”でなんとか。他は何があったっけ?」
「牙」
「それはレシピを知らないなぁ。クロは知らない?」
「図書館でも見たことないである。ウルフキラーが唯一である」
そうか。ウルフキラーか。忘れていたよ。
作ってもいいんだけど、鉄鉱石かインゴットが必要だし。そんなの持っていくくらいなら、まとめて袋に入れたほうがインベントリは圧迫しないんだよな。クロを見ると、同じことを考えていたようで、何とも言えない表情をしている。
「鉄鉱石を持っていくのが大変である」
「〝錬金”でやったこともないなぁ。たぶん、レシピになってると思うけど。どうだったかな」
「それなら、牙を使って【細工】のレベル上げもしてみたらどうである?作れればレシピに登録されるのであろう?」
「【薬剤】とかではそうだったな。
銅や青銅もあるから、そっちも試すか。あとは必要なことはあるかなぁ」
「粉砕とかの加工が【錬金】のスキルにあれば、粉にして袋に詰めればかなりの圧縮にはなるんであろうが」
「……あーそういや、たいして確認してないわ。スキルアーツ」
今更ながらにスキルアーツのことを思い出しながら言う俺に、クロはあきれていた。
仕方ないじゃないか。使わないんだから。それに、必要じゃないから知らないんだからどうでもよくない?えっ?自分のできることを把握するのは冒険者としての第一歩だって?反論できませぬ。
じゃあ、明日の出立に向けて、自分のことを確認しますか。
せっかく、知識豊富なクロもいることですし、協力してもらおう。広めたほうが良い知識なら拡散してもらって、俺が見てもまずいと思ったらそもそも言わなきゃいいだけだし。
何々……あ、【鑑定】が37で【錬金】が30、【水魔術】が28だ。もしかしたら、そろそろ上位スキルに進化可能かも。40レベが基本だっけ?スキルアーツは取り立てて追加なし。やっぱ、上位にするしかないのか。スキルアーツも便利なようで不便だよな。種類が少ないから。
スキルがあっても下級の生産系だとオリジナルは作れないみたいだし。これなら、スキルは手軽だけど、いろいろ作れる技術の方が良い気がするなぁ。
「40が見えてきたスキルはいくつかあるけど、アーツに新しいのは特にないかな。技術はレベル上がっても特にアーツ覚えないし」
「オリジナルが作れるのは利点であるが、難しさと面倒くささが技術の欠点であるな。使いこなせれば強いだろうとは思うであるが」
「ま、それは今は置いておこう。
ところで。根本のところだけど、そもそもセックに行くのにそこまで敵が出るのか?荷物に入らないくらい」
「……ひっきりなしに襲われたとして、フルパーティーで袋があれば、3割空いてれば持てないってことはないである。薬の消費を考えれば2割」
「なら、気にする必要はないな」
普通なら、貴重品は持ってなきゃいけないから大変なんだろうけど、俺は置いていける。だから、下手したら俺だけでもドロップアイテムを全部回収できるんじゃないかな?
ま、回復薬や魔力薬を大量に持っていくつもりだからそこまでの余裕はないけどさ。
それはそうと、せっかくクロが遊びに来てくれたんだ。ここのところいけてない図書館と、クロがセックまで行った時の話なんかをじっくり聞かせてもらおうかな。