9-1 宴の後
だいぶ遅くなりました。
ご指摘いただいている部分の修正もできない状況ですが、投稿優先で。
主人公と同じく歩みの遅い作品ですが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
さて。無事(?)に第二陣歓迎イベントも終了したようだ。街を見れば一目瞭然。お祭り的雰囲気で盛り上がっていた空気がなく、どちらかといえば、穏やかな感じだ。
まあ、月曜の朝一ダイブだからかもしれないけど。
大通りも昨日までの混雑さはない。あの、雑踏感がすごくよかった気もするけど、通常の生活を考えたらこれくらいがいいな。東京は人多すぎ。
今灯もセバンスの準備は完璧である。イベントで儲けた部分をきちんと3つの袋に分けて置いてある。しかも、金貨で分けたらしく、端数は別にしてある。うーん。持ち出しで1枚ずつ増やせばいいか。
小山になっていた革と成れの果てなどもきちんと片付いているし、材料についても、日持ちしないものがまとまっていて、これをやらなきゃって気になる。しかし、今日は月曜日。出勤前のわずかな時間だ。できることは限られている。そして、やっておきたいことも。
そう、MPを消費する【錬金】である。消費したMPは次にダイブするときには回復している。逆に言えば使っておかないと損するわけだ。
ということで、ちょっとだけの空き時間にダイブしているのです。もちろん、作成数の星をコンプリートしたいから。正直、お金はどうでもいい。すでに、家で雇っている人達も、自分達で生活費を稼げる目途が立っている。完全に、自立している状況だ。もくろみ通り、プレイヤーがいなくても問題ない状況を作ることができた。これで俺は自由だ。
このゲームはリアル度が高いから、どうしても、現実っぽく思える。そうなると、関係することになった住民が、自分がいない間は大丈夫かと心配になるし、そうするだけの手段や金があればそうしたくなる。はるか昔の雇うってのはこうだったんだろうか。なんて考えたりする。
そう言った判断を俺に任せて、かつ、全面的に信頼し、フォローしてくれるセバンスは得難い人物だ。こっちの常識とか考え方なんて、俺にはよくわからないのが正直なところ。屋敷の管理にしても細かいところなんて見てられないし。
「面倒見がいいというか優しいというか、俺に甘いのかな」
「そうですかな?
それなりに厳しくしているつもりですが」
つぶやきに後ろから返答があった。
……さっきまでいなかったよね?確実に誰もいなかったよね?
俺を驚かすのが趣味ってわけじゃないんだろうけど、神出鬼没になってきたな。「それが執事のたしなみです」
確かに、いろんな小説やらゲームではそうだけど、これは……ゲームだったね。そうだね。
気を取り直して。
「厳しくはないよね。結構好き勝手させてもらってるし。この間も、俺の好きにすれば良いって」
「もちろんですとも。当家の代表は旦那様でございます。旦那様の思うとおりに動いていただいて結構でございます。
……それで成功しても没落しても、旦那様のご決断です」
ぼそっと怖いことが聞こえた。
「残される私どものこともご考慮いただきました。珍しい考え方をされるとは思いますが、仕えるものとしては望外の喜び。あとは旦那様の心の赴くままに」
そういって深々と一礼された。
取りようによってはとても厳しい内容なのだろう。自由に伴われる責任。それも、自分だけでなく多くの人間を巻き込む。リアルであれば、プレッシャーで潰れかねない。そう考えると、経営者ってのも大変なんだろうな。
ゲームだと思えるからまだしも、それでも、彼らは現実としか思えない人格を持っているので、判断にかかる重圧が半端ない。
しかし……やっぱり彼は優しいと思う。
大人になるとわかる。怖いことを言われたけど、プレッシャーが両肩にかかっているけど、そもそもそんなことを言ってくれるなんて、新人の頃しかない。下手したら、それすらない。細かいフォローも、懇切丁寧な説明も、とても貴重なものだ。普通は、少しずつ遠ざかったり、何も言わずにフェードアウト。そんな人間関係ばかり。きちんとこちらを思った忠告をしてくれるような人は欲しいと思ってもなかなか得られないのが現実。
「見限られない程度に頑張るよ。
足りないところはできるだけ直すから、気兼ねせずに言ってくれ」
「では遠慮なく。まずはですね……」
……なんで朝一から小言を言われる羽目になったんだ?
いや、俺が悪いんだけどさ。
まあいいか。
「楽しんだかい?」
「そうだな。面白いな。
そっちも楽しんでるかい?」
「もちろんだとも。毎日が楽しいな。
ただ、そうじゃなくてな。ゲーム自体もそうだけど、メインは週末のイベントはどうだったって話。
宗谷はソロだから心配してたんだ。連絡しとけばよかったなって」
「あ、そっちか。ひょんなことから知り合いと一緒に潜ることになったんで無問題。
思いのほか堪能したよ。そっちは良い成績残せたのか?」
「リアルでひょんなことからって初めて聞いたな。
……聞いて驚け!俺たちが、むずかしいの最高得点だぜ!」
「そりゃすごい。おめでとう」
「トップ3のパーティーと個人には豪華景品だから楽しみだぜ。ふつうとやさしいだと第二陣もランクに入ってたから成功したイベントだろうな」
かなり興奮している。口調が今まで聞いたことのない感じ。ゲーム漬けだったという学生の頃に意識が戻っているのかも。
生暖かい目で見ていたら落ち着いてきたらしく、一つ咳をしてから小声で言ってきた。
あ~ごまかしはできてませんよ。周りの社員の視線がちと痛い。
「いやぁ。本当に良かった。ゲームは面白いことは間違いないけど、最近行き詰っていたから」
「そうなのか?生産ギルドができたし、新規プレイヤーが増えたから色々と活発化してるんじゃないか?イベントも大盛り上がりだったわけだし」
「そのあたりはにぎやかだけど、攻略については停滞しててなぁ。新しい街に行ける方法が全然わからなくて。ヒントは出てきたんだけど」
「あぁ~そんなこと聞いた気がする」
「力が足らないってのはなんとか攻略した。レベルが20もあれば大丈夫っぽいんだけど、そうなると口を濁らせて許可が出なかったんだよなぁ。その中で、最近検証の方に行ってた『幻獣旅団』ってのが『胸を張って他の街に紹介できるほどではない』って言われたみたいなんだ」
「『幻獣旅団』?」
「三人組だけど、結構良いプレーをするチームだよ。今回のイベントも検証メインでやってくれてたし。
おかげで新規プレイヤーでも良いスコアが出てたし」
「ほうほう」
「ま、一番すごかったのはふつうの個人トップ3を独占した『名無し』だけどな。
むずかしいではチームランキングをこっちが占めたから、なんとか積極的攻略組の面目は保てたけど……。
パーティープレイだけじゃなくてPSを高めないと勝ちきれないな」
『幻獣旅団』に『名無し』か。頑張ってんだな。一緒にやってて上手いなとは思ったけど、攻略組の口から名前が出るんだなぁ。すごいもんだ。
まだまだ戦うのには慣れないし、そもそも生産の方が楽しいから良いんだけど、ちょっとうらやましい。