8-14 少しは
本当の現実並みの練習ができないと知ったミル・クレープはひとしきり落ち込んだ後、簡単に復活した。
まずは作れるだけの技術を学んで、建ててみてから考えることにしたらしい。
その切り替えの早さは学びたいな。
まだまだ集合時間まであるみたいだ。それなら、何かしら作業をさせるか。手持ちはどんな材料があるのかな?そうだ。余っている素材があるなら引き取ってもいいな。こっちは少しくらい増えても支障はないし。
「戦利品の処分は済んだのかい?
なんだったら、買い取るよ」
「残念ながら手に入ったのはドロップ品とヒカリゴケぐらいです。これでも、良い値段がつくものを厳選して持って帰ってきたんですよ。ただ、初心者回復薬を買うために、ほとんどは冒険者ギルドで処分しちゃいました。残ったのはスケルトンの骨片とガラス瓶に、いくつかのこん棒です。
でも、おかげで資金はそこそこ残ってますし、おかげで今日は3回くらいは入れそうです。だいぶ進めそうですね」
「そうか。でも、それだけじゃ足らないだろ?
袋とか使ってるか?」
「高いんですよね、あれ。それよりも装備を整えないといけないので。今のままじゃ連戦するとすぐに死にそうになりますから」
「ミル・クレープの戦闘スタイルはなんだっけ?他の人は聞いたけど」
「あ、斧です。まだ買えないので、こん棒を使ってますけど。
私を含めて近距離2、遠距離2の回復1なので、バランスが中々良いって言われます」
「ふむ……伐採とかを考えてるのかな。でも、武器すら満足に準備できないってことは、あれだろ?道具類とかも」
「ま、あ。でも、回復薬くらいは用意しますよ。初心者用なら安いですし。
それでも数は満足には揃えられませんが、まあ、死に戻るよりは」
「それ考えればなぁ」
成り行きとはいえ、曲がりなりにも弟子で師匠なわけだ。その弟子が苦労している……でも、苦労自体はしておいた方が良い物でもある。ただ、そんなに時間が取れるようでもないみたいだし。
よし。こうしようか。
「余った素材は買い取るぞ。まだ、袋を持ってないだろ?あれがあるとたくさんの素材を持って帰れるぞ。だから、それ持ってげ。
んで、回復薬ならあっちにあるから、それも持っていくと良い」
「え、でも……」
「気にするな。師匠らしいことはできないから、これくらいはな」
「この場所をただで使わせてもらってますし、押しかけですし。正直、迷惑しか」
「その分、素材を持ってきてくれれば良いぞ。
と、言っても気が咎めるか……そうだな。じゃあ回復薬や袋は販売しよう。値段はギルドの買値と売値の真ん中だな。もちろん、持ってきた素材も同じだ」
「……弟子に対して甘すぎると思います。私にとってかなり得ですよ?」
「そうでもない。素材類なら、ギルドに結構いい値段の依頼が時々あるぞ。そっちに回した方が得だ。依頼も達成できるから、そうした方が良いだろうな。
それに、直接取引ならこっちも利益があるんだ。ギルドが噛まない分、ギルドから買うよりも安く、売るよりも高くなるからな。袋で持ち帰れるアイテムが増えればその分、取引も増える。
長い目で見ればかなりお得なわけだ」
事実である。事実であるから、ミル・クレープは遠慮はしても断りはしなかった。師匠と呼ばれても場所を貸すことくらいしかできなかったが、これでちょっとは先達らしいことができたと思う。
良かった気づかれなくって。別に、この取引を、彼女らにする必要がなく、相手が誰であっても俺の利益になるってことに。逆に、もう少し先に進めるプレイヤーにした方が利益になるってことに。
こんな感じで人付き合いがあるゲームはほとんどやってないから、どう関係を作ればいいのかわからないけど、自分を取り繕ってもしょうがない。俺は俺以外の何者にもなれないからな。……RPGを根本から否定したか?
「なら、必ず持ってきますね」
「あ、それは別に良いぞ。友人との兼ね合いもあるだろうから、余ったやつを持ってきてくれるだけで十分だ。
そもそも、そいつらは自家製だからな」
嘘は言ってない。ただ、そいつらの中に袋が含まれてないだけだ。ま、今回鞣した皮膜や毛皮があるので、【裁縫】のレベル上げを兼ねて作ろうとは思っていたから、まるきり嘘ではない。
あ、これは伝えておかないと。
「ちなみに、個人間の商取引とはいえ、暴利をむさぼると下手したら犯罪になるからな。買占めや悪質な転売も罪だ。特に、回復薬とかの命に関わる系は気を付けろ。
まあ、そういった面でも、現実と変わらないってことだ」
「……なんか、超大規模MMORPGみたいですね。NPCがいないみたい」
「初めからそう謳っていればプレイヤーの態度も……ダメか。死に戻りがあると思ってひどいことするプレイヤーも乱立しそうだ」
「うーん。難しいですね」
「まあ、たかがゲーム、されどゲームってことだ。
それはそうと、時間は大丈夫か?」
「えっ?あ、もう少しで待ち合わせの時間に」
「ほら。
中に回復薬や袋を詰めてある。友達に会った時に分配すると良い。さっき取り出した不要なアイテムはそっちに置いて行け。金も半分にしとけば、死に戻っても安心だぞ」
「あ、じゃあ。そうさせていただきます。申し訳ありませんが、金額の清算は後でも」
「かまわんかまわん。俺は今灯はずっと生産する予定だから。俺がいなくても誰かに声をかければ良いから」
「はい!
ありがとうございます。ではまた」
「おう」
若いって元気だねぇ。