8-13 リザルトpart2
俺の独り言に、思わぬところから返事が返ってきた。全く意識をしていなかったので、内心ビビりまくりだったが、何でもないような振りをしてミルに返答する。
……ほぼなくとも、師匠の威厳を保ちたくなるのだ。
「おう。
今日も友達と遊ぶんだろ?」
「おはようございます。
はい。そうさせていただきます」
「そんなに畏まらなくて良いって」
「でも……場所とか材料とかもお世話になってますし、何より師匠ですから」
「大したこと教えてないんだけどな。ここにある道具の基本的な使い方くらいだし」
「私は知識では知ってましたけど、実際に触ったのはほぼ初めてだったんです。教えていただいてとても助かりました」
「そう言われるとなぁ。
ん?学んだって前言ってなかったか?」
「独学で知識だけです。あとは見様見真似ですが、ちゃんとした道具は使わせてもらえませんでした」
覚えてないだけかもしれないが、自分も家にあった道具類をまともに触らせてもらったことはない。職人気質の人は行動原理が似るのかな?ま、そんな状況で、最低限とはいえ使い方を教われればまあ感謝もするか。
でもまあ、師匠呼ばわりは止めてほしいけどな。すぐに弟子よりも数段劣る師匠になりかねんので。
お互い会話をしながら、生産行為を進めていく。俺は日持ちしない薬草と魔力草を各種薬に。金のあるやつらは休憩時間を減らすために初心者系を浴びるほど使うだろう。いくらあっても足らないはずだ。ミル・クレープは道具の手入れと、何やらインベントリを片付けている。先日確保した自分スペースは遠慮して物を置いていないが、出し入れと作業には使ってくれてるな。空けた甲斐があった。
「それにしても、朝から元気だな」
「そう……ですか?
もう良い時間ですよね?」
「……日の出とともに活動する家じゃそうなるか。でも、それなら友達とは時間が合わないだろ」
「慣れました」
太陽とともに動いていた祖父や納品時間が早かった父などは、日が出る前に起きることも多々あった。自然と俺も早寝早起きだった気がする。まあ、家庭の時間がそうなってれば、子供もそうなるよな。
慣れるという言葉に納得したのだが、朝からここにいるのは理由がわからない。それを聞くと簡単に答えが返ってきた。
「時間が空いたので。一人で外に出る気にもなりませんし、せっかくですし」
「そうか。昨日は楽しかったかい?」
「ええ。久しぶりに目いっぱい遊びました。夕食に遅れかけて、ちょっと怒られちゃいました」
そう言って笑う。うん。まあ普通の子だよね。宮大工にあこがれるのは珍しくても、中身はごく普通。昔の俺と同じく、どこにでもいる。
そんな、どこにでもいる子が、自分なりの何かを探す手伝いができるなら……代替行為ではないとは思うけど……少しは幼い自分も救われる気がする。
「まあ、親の立場からすると当然だろうね。自堕落できるのは一人暮らし社会人の特権だな」
「それに慣れると大変ですよ」
「自覚はしてる。
昨日はダンジョンアタックまでやったのかい?あっちでは見なかったけど」
「あ、師匠もダンジョンアタックに参加したんですか?私たちはまだまだレベルが低いので、難易度やさしいでもボスまでたどり着けませんでした。でも、優ちゃんのおかげで全滅はしなかったんですよ」
作業の手までは止めなくても、口調に熱を帯びているからそうとう楽しかったんだろう。でもね、お嬢さん。
「リアルあだ名は止めとこうか」
「あ、そうですね。えーあーっと、ソフィーですね。慣れてないからどうもあれですね。
ソフィーは風魔術を使うんですが、杖でも強くて。私たちを守りながら入り口まで撤退したんです。昔から運動が得意だったんですが、あんなに強いとは思いませんでした」
「そうか。結構大変だったんだな」
「休憩を入れないとレベルが上がらないのを途中ですっかり忘れてまして。今はレベル7になりましたけど、その時は5だったんですよ。
逆に、ボスの前で気づけて良かったですよ。行ってたら死に戻ってました。自分の実力をきちんと認識しておかないとダメですね」
「負けて学ぶこともあると思うけど、まあ、勝つに越したことはない。
それに、こっちの住人は死んだら終わりだから。そこんとこは、友達にも重々伝えてほしい。
このゲームは、結構、現実だぞ」
「……その情報、やっぱり本当なんですか?掲示板とかで見ただけでは大げさに感じてましたけど」
「やってみて、どう思った?」
「そうですね。やっぱり、サロ先生は先生ですし、セバンス様はまさに執事ですね。ほかの人も、感情を持つ人間と見間違います。正直区別つかないですね。
誰も彼も作り物じみた綺麗さがあるので現実じゃないのはわかりますが、画面の向こうに人がいるって言われても納得できるかもしれませんね」
「そう感じたのなら、良かった。俺も生きてるって感じたし、同じように感じた人も多いから今の流れがある。
ゲームだと周りを気にせずしでかす人もいるけど、画面の向こうには自分と同じ人間がいるんだから」
ミル・クレープのセリフに変な部分があった気もするけどスルーで。このスルースキルは大人になると自然と鍛えられます。
それはそうと、彼女達もこのゲームらしからぬゲームを、現実さながらに楽しんでくれそうでよかった。やっぱり、自分が好きなゲームは楽しくやってもらいたい。
「でも、レベルが上がったので回復が大変になりました。HPとか数字が増えたのに回復量が減るって意地悪ですよね。
みんなはステータスを上げたんですけど私は見合わせたので、そこのところも大変です」
「なんでまた?
レベルが上がれば強くはなるけど、ステータスを上げないと友達とも差がつくだろ?」
「……上手く言えないんですけど、本当に作ってみたいんですよね、木造建築。
でも、ステータス上げて作れても、なんか違う気がするんです。こう、ほら。自分の力じゃないみたいな」
「わかる気がするな」
「そうですよね!師匠もそう思いますよね」
勢い込んでこちらを向くミル・クレープ。うん。元気だ。なんだかんだ言って、引っ越す前の仲の良い友人と久々に遊んだことは、とても楽しかったんだろう。
だが、現実は残酷である。
「だが、残念なお知らせだ」
「え?」
「技術レベルが上がってもステータスは自動的に上昇する。これは確実だ」