1-10 仲直り
前話はだいぶ駄目だったようです。
自分でもキャラが生きてないと感じ、作者の都合で動かしていると反省。物語を書くとは難しいものです。説明の過不足、何を書いて何を書かないか。プロはすごいなと改めて思いました。
とりあえず書き溜めた分を1話ずつ毎日19時に掲載。
ストックがなくなった時点で、書き直すか突っ走るかを考えます。
※1月31日修正
「そうか。ところで、ショートカットメニューって?」
俺の言葉にグリフは目を見開く。
もしかして、何も調べてないのかって小さいつぶやきが聞こえた。
じ、じかんがなかったんだからね。めんどうだからじゃないんだから。
「じゃあそこからいくか。
スキルによってはアーツが使える。【水魔術】で“アクアボール”や“クリエイトウォータ”とかだね。それを簡単に選べるように、視界端にアーツをまとめたメニューを出せる。
他にも、自分の荷物であるインベントリやステータス、地図や時計とかも出せる。
半透明だからって出し過ぎると視界が狭くなるから気をつけてね。
上級者はショートカットメニューに頼らず、イメージだけで実行するけどね」
あ、あの時計とかか。あれショートカットメニューってんだ。
手にコッコ焼きを出してみる。あれ?冷めてる?
「もしかして、こういうこと?」
「なんだ、イメージ発動できるのか。
そう、アーツをイメージで発動できない人用のメニューがショートカットメニュー。
ところでこれは?」
「コッコ焼きだよ」
「聞いたことないアイテムだな。あ、もしかして“鑑定”持ってる?」
「あ、使ってないや“鑑定”。これは、屋台のおっちゃんに聞いたんだよ」
グリフは俺を見たまま一瞬固まった。ため息と共に動き出す。
「あーそうだよね。まずさ、ステータス表示って強く思ってみて」
突然、空中から取り出した色々な物を机に並べ出すグリフ。
催促されたので表示してみると、HPとMPがバーで表示された。
「あ、体力とかの数字は、ギルドの証をつけないとわからないから。MPは満タン?数字は覚えている?じゃあ、これを端から“鑑定”して」
「22。あ、うん」
勢いに押されて、つい返事をしちゃった。でもまあ、やってみるか。お、薬草に毒草、毒キノコにウルフの牙、色々あるな。残念ながら、名称くらいしかわからないけど。
「MPバーが0になると眠くなるから気をつけて。眠気を我慢するとステータス低下が起きるし。ぎりぎりで止めといて」
20ちょっと鑑定するとほぼ0になった。確か、MP22だから、1“鑑定”で1MP消費か。
「“鑑定”は最初は名前くらいしかわからないけど、スキルレベルが上がると色々と情報が出るようになるから、10刻みくらいでもう一回すると良いよ。
アーツも10刻みで覚えることが多いね。
で、今“鑑定”してもらったけど、こういった補助系スキルは成功する度に経験値が手に入るんだ。ただ、薬草を最初に鑑定した経験値を100とすると、2~11回目が経験値10、12~111回目が経験値1で、その後は0。初成功の3倍までしか経験値が貰えない。ここまではβで検証済み。
つまり、【鑑定】は色々な物を“鑑定”しないとレベルが上がらないんだ。
だから、街にいるときのようにMPに余裕があるなら、小まめに使うと良いよ。
で、これは補助系は大体そう。回復薬を作る【薬剤】も薬草摘みの【採取】も、そうどのスキルもね」
要約すると、スキルはどんどん使えってことね。いろんな場面で。ちなみに、スキル上昇で能力値が上がることもあるそうだ。
いつの間にやら、机の上に並べられていた物が全部入れ替わっていた。
「あ、MPバーは半分くらいになった?ん、じゃあこれね。“鑑定”。初心者魔力薬でしょ。飲んだら、こっちを鑑定して。全部鑑定したら入れ替えるから、もう一回」
連続で行うと、MP枯渇までになぜか60回鑑定できた。
あれ?11+22で33なのに、倍できるんだ?
「これがタイミング活用法。魔力薬は身体にかけると効果が3割減になるけど、すぐに、具体的には10秒かけて、効果が発揮される。飲むとフルに効果あるけど、効果発動まで20秒、完了まで1分かかるんだ。そのタイムラグを利用して、効果を十全に活用するのがタイミング活用法。回復薬でも使える考え方だよ。で、他にも」
怒濤のようにまくし立てられてそろそろきつい。HPやMPは自動回復するけど、安全地帯や休憩中は回復力が高まるってのは有益な情報だけど、詳しい数字――戦闘中が5分に1%で……――はさすがに覚えられない。つーか、良く覚えているな、この人。
手のひらを立てて一度止めさせてもらう。
「なんで急に?」
「ここまでの様子だと、ゲーム開始前に基本的なことも調べてないでしょ?でも、ソロで生産系もやるならこれくらい知っておかないと難しいよ。インベントリは40枠、実質39枠しかないからアイテムは有効活用しないと。
ま、こういう情報の提供がお詫びその1ってことで」
その後も、色々と教えてもらった。というか、こっちにかまわず話し始めた。
あ、この人は、検証大好き・説明大好き人間だ。しかも親切型。MPが回復する度に未鑑定アイテムを並べてくれる。
活動中にレベル上昇はなく、実世界で1時間以上の睡眠が必須。短時間ログアウトじゃダメみたいだ。
スキル枠は全部で10。βの時は入れ替えができなかったとのこと。
インベントリは大きさにかかわらず1つ1枠、初期アイテムの財布で1枠消費、手で持つ物や装備は別、袋に入れれば複数アイテムで1枠可ってのはとても役に立つ。でも、インベントリ内も時間が経過するとは思わなかった。食べ物なんてほっとくと腐るらしい。
地図がオートマップの割には30分で情報が消えていくけど、紙にでもに書けば大丈夫だそうだ。紙束とペンは地味に価値があるな。
もっとも重要なのは、祝福について。これは公式の警告があるらしい。
Q『祝福とはなんですか?』
A『異世界から訪れる冒険者に神と世界が与えたもの。復活、インベントリ、痛覚軽減、スキルなどがあります。なお、祝福に値しない冒険者には祝福が失われます』
Q『祝福に値しない判断基準はなんですか』
A『重度の犯罪行為です。みなさんは良識を持って行動してください』
Q『祝福が失われるとどうなりますか』
A『祝福が受けられなくなります』
文面通り受け取れば、スキルもインベントリもなくなって、痛みがあって死んだら終わりか。……マジか!
改めて買うにも決して安い費用じゃないし、今は人気過ぎて手に入らないし、個人情報も登録するから下手したら複数持っててもアクセス禁止にされるかも。そう思っていまだ誰も挑戦していないらしい。
そこまでのチャレンジャーはいないか。
「で、グリフさん。これは?」
室内に置かれた袋。39個はパンパンに膨らんでいて、1つだけが空間に余裕がありそうだ。
色々中身を整理してまとめたのはユニックさん。とても静かで裏方が身についている動きだった。
「もちろん、お詫びその2。俺らの手持ちアイテムで、初心者に有効なやつばかりだから。
ちなみに、余裕がある袋に、今の手持ちアイテムを入れると良い。お金も問題なく出せるぞ」
さすがに、これは貰えない。貰いすぎだ。
「貰ってほしい。
って話をこれからしたいと思う」
サラムが俺の顔をしっかりと見て口を開いた。ここまでがイベントってわけじゃないよね。βテスターって言ってたし。
「俺達は幻獣旅団。攻略組として、今日も迷宮を探索してきた。
そこのは、その際に手に入れた素材の一部だから、遠慮するな。俺達ならいつでも手に入るレベルの物だ」
物によっては、売るよりも依頼品として納入した方が割が良いようだが、俺なら錬金で消費したいな。
「今でこそ俺ら幻獣旅団として攻略組だが、βでは違う。ソロじゃ獣一匹すら狩れない生産組で始めたんだ」
三人とも遠い目をしている。
「ウサギから逃げ回っている時に出会って協力したのは始まりだな。
グリフが【木工】・【鑑定】・【器用力増加】、ユニックが【鍛冶】・【採掘】・【筋力増加】、俺が【錬金】・【薬剤】・【採取】を選択してたんだが、最初は三人で協力しても草原のウサギを二匹同時には相手できなかった。
で、結果としてグリフとユニックが攻撃メインの生産。俺が魔法メインの生産でスキル構成をしていったんだ。
……それが間違いだったんだよな」
語るサラムの表情は暗い。あまりいい話ではないのはわかるけど、そんな表情はやめてほしいな。
「生産ギルドがないから、作る場所がアークにはなかった。この時点で、スキルの大半が役立たずだ。
それでも頑張ったんだぜ。セックに行けば生産ギルドがあったから2週間くらいで生産できるようになったし。
でも、それでも【錬金】が足を引っ張った」
実感がこもった台詞だけど……でも、そこまで言われるなら余計やりたくなる。
「どの生産スキルもそうだが、アーツ“簡易生成”をするには、MPと素材、レシピに道具が必要になる。初めて作るレシピには指導者も必要だな」
それはさっきも聞いたな。
「ただ、【錬金】は特殊でな。指導者はいらないが、成功率が低く消費MPも5と多い。素材代もばかにならないから上級者向けだな。レシピ教わるんだって楽じゃないぞ」
クエスト報酬やそれなりの支払いで教えてもらえることがわかっているとのこと。それ以外にもあるんじゃないかと言われているが、そもそも検証する人間が少なすぎて話にならない。
なんか、不遇だな生産職。
でも、ある程度になれば雪だるま式に資金が増えるらしい。……恵まれてるな生産職。
そのもうけはほぼ新素材に費やされると。……せちがらいな生産職。
「自分で素材を集めるなら、分野によって【採取】やら【伐採】やら必要だし、モンスター素材なら戦闘系がなきゃ話にならない。戦闘系に比べると成長機会が限られすぎてるから、生産系はどれも初心者お断り状態だぞ」
「特に俺の持ってた【錬金】は成功率がな。ほぼ成功しない。感覚としては、レベル%ってところだった」
えーっとそれって……。
「そう。初心者回復薬を1個作るのに薬草100個とかってレベル。しかも、さっきも言ったけど、2個目以降は成功しても経験値激減。大半が挫折したよ」
グリフは目線だけの俺の問いかけに肩をすくめながら答えてくれた。サラムは重々しく説明を続けた。
「βの期間は2ヶ月。この世界時間では半年。二人の協力で俺の【錬金】はβテスター最高レベルで終わった」
その前振りは聞けってことですね。
「……ちなみにレベルは?」
「4。片手間でやった【薬剤】は22だ」
4?2ヶ月みっちりやって?
なんでも、お金が続かなかったらしい。【薬剤】のおかげで、ある程度のレシピは手に入ったみたいだけど。
2か月で22ってのは低いのか。なんでも、β時代には戦闘系は中級スキルに上がって、さらにレベル20を超えるのがゴロゴロ。しかし、生産系はそれに集中していた廃人ですらレベル45で中級には上がれなかったとか。
「だから、生産系はクズスキルって言われるわけ。それを誰より理解しているから、俺らは作り直しか方向転換をお薦めしてるよ。せっかくのゲームを嫌いになられるのは残念だから」
「だが、これは俺達のわがままだ。
決めるのはあんただ」
説明するべき事はしたと、三人がこちらを見つめてくる。瞳の奥にわずかではあるが、狂おしいほどに熱い光がある。
βで生産を選んだほどだ。今だってやりたいんだろう。もしかしたら、ある程度まで進んだら生産に道を変えるつもりかもしれない。しかし、今はできない。苦労する新人は見たくないけど、できれば進んでほしい。
そんな思いが見える。
お節介で方法も間違えたけど、悪い人じゃない。
俺は……。
「話は理解した。理由も納得した。
それでも、俺は。
【錬金】を、生産を続ける」
ゲームの世界くらい、自分の道を生きたい。そう断言する。
幻獣旅団の三人は、深く息を吐いた。そうか。君も錬金持ちかと小さなつぶやきが聞こえた。
『ありがとう』
四人の言葉が重なる。一瞬の間を置いて、吹き出した。
話を聞いてくれて、許してくれて、思いを継いでくれて、気にかけてくれて、説明してくれて。
このイベントは良かった。
出会いはちょっとあれだったけど、結果的に良い奴らに知り合えた。情報収集の重要さも理解できた。
「君になら託せそうだ。俺の行けなかった高みを目指してほしい」
そう言ってサラムが差しだしたのは、一つの腕輪だった。
錬金の腕輪 耐久力50 “錬金”成功率+1% 先達の思いがこもった腕輪
「βで【錬金】レベル最高の賞品だ。俺には必要ない。ぜひ、使ってほしい」
今度は魔法を極めるんだと笑うサラムは、朗らかだった。そこまで吹っ切れた良い表情をされると、断りづらい。遠慮をしたけど、俺くらいしか【錬金】持ちは知らないと言われると弱い。
「貰った素材と一緒に、最大限活用させてもらうよ」
【錬金】や生産、攻略について、継続的に情報交換を約束して解散することにした。
帰るために立ち上がると同時にドアが開いた。
「仲直りは済んだん?」
冷たい瞳に押されて思わず正座。四人の動きがシンクロしました。
かなりな説明回でした。
※1月31日修正