8-8 戦いと検証と
「スライム行ったぞ、気をつけろ」
「このサイズなら対処できる。こっちは気にしなくていい」
息の合った動きをする幻獣旅団とちょっとまだぎこちない動きの俺。それでもまあなんとかついていけてる。レベルが上がったおかげで、ちょっとした攻撃ならそれほどきつくない。装備の質も高いし。
スキルの恩恵の一つ、ステータスへの影響は技能でも変わらない。生産系だから上がっているのは器用力とかだけど、以前戦った時よりも動きやすい気がする。身体を“器用”に動かせる気がするわけだ。たぶん、他のステータスもそう。色んな所に効果がリンクされているんだろう。……まったく。ここの運営はいい意味で狂ってやがる。
飛び掛かってきたスライムを避けざまに切り裂く。これがスライムか。子犬サイズの水まんじゅうにしか見えんが。こんななりでも、一部にはものすごい恐れられているモンスターだ。
話し合いの時が思い出される。
「雑魚っぽいけど、魔術師には厳しいんだよな。スライムって」
「他のゲームだとスライム最強説がでるやつだってあるくらいだぞ。構造を考えればありえる話さ」
「核と水でできているでしたっけ?」
「だからよ。水だから衝撃無効や火や水が効かないとか、そんなの設定次第でしょ。
ギーストは【短剣】持ちってことだけど、【水魔術】の方がスキルレベル高いんでしょ?とっさだと使いかねないわよ」
「魔術師の【杖】とも相性は悪いわな。効率は悪いが、杖なんざなくたって魔術は使える。どうせ、幻獣旅団と一緒なんだ。素直に短剣装備しとけ」
ツヴァイの意見は正しかった。魔法メインの戦い方だと、スライムは厳しい。まあ、最初から俺にその選択肢はなかったんだけど。ソロで来る予定もないし。
幻獣旅団はたった3人のパーティーだけど、チームとして固定メンバーで活動しているだけあって、連携は確か。今回は護衛を想定しているので、彼らのトライアングルに守られている状態。やさしいレベルのダンジョンだからかもしれないけど、十二分に機能している。まあ、それでも数が多いと今みたいに抜けてくることもあるんだけどね。
「うーん。殲滅力が足らないね。火じゃスライムには相性が」
「と言うか、手数がな。雑魚でも数が多いと足らないな」
「ここはスライムも小さいから良いけど、“ふつう”以上じゃ危ないな。数が少なければ対応できるんだけど。
トライアングルで慣れてるから真ん中入ってもらったけど、全方面に対応できる分、思ったよりもそれぞれの面で対応が少し遅れるなぁ」
「護衛対象をほったらかすわけにもいかないし、仕方ないだろ。警戒は必要だろ」
「ギーストがそれなりに戦えるから何とかなってるけど、単独で護衛は難しいね。ほかと協力してってのが現実的かなぁ」
俺の想定よりも、彼ら自身の目が厳しかった。守るべき対象を危険にさらすわけにはいかない。やり直しができるゲームじゃないってのがその理由とのこと。・・・・・・そうだよな。お世話になったポム店長なんかを俺のせいで・・・・・・ってなったら、いくらゲームとはいえ簡単に立ち直れるとは思えないし。
この自分達への厳しさが、攻略組の所以かね。何かしら秀でるには、それなりの理由があるわけだ。
俺なんか適当にやってるし、楽しければ良いと思うけど、彼らはきちんと分析して、効率も求めているみたいだ。ゲーマーとして、いや、冒険者としても、その態度は正しいのだろう。俺も、もう少し真面目にやらないといけないのかも。ただの暇つぶしとして楽しむのでもなければ。
楽しく色んなことに挑戦することが、祝福の冒険者に課せられた責務なのかも。住民は命がけの冒険なんてそうやるわけにもいかないし。
ま、まずはこのダンジョンの攻略だな。そんなことをつらつらと考えていたら、話がまとまったらしい。
「……まあ、こんなダンジョンでもなければ、これだけのモンスがそうないと思うが、気を付けるに越したことはない。今回は偶然だけど、ふつうなら群れで、むずかしいなら組んで襲ってくる奴らもいるんだし。
今の俺たちだと、草原の薬草採りか行商の護衛レベルだな。後は、冒険者の手伝い。
第二陣の中には、セックまでの護衛を希望するのも結構な数いるし」
「βの時みたいに【索敵】とかも考えたほうが良いのかなぁ。そうなると、経験がある分、俺かな」
「でも、ユニックは今重要な回復兼盾だからなぁ。サラムと同じでスキル枠に空きはないだろ」
「グリフも同じだろ?そこは、βの経験を生かして、なんとか技術獲得だろうな。狩人の住民とかに習うんでも可」
「それが現実的か。後は、みんなで注意するしかないな。
よし、休憩終わり。じゃ行こうか」
それにしても、よく考えられたゲームバランスだと思うな。
まず草原にはウサギとコッコ。弱いけど、地上と対空の練習になる。手ごわい敵としてウルフ。先に進めば群れになるので進めば進むだけ難易度が上がっていく。
夜は、バットとウルフ。強さだけでなく、夜という環境もあって昼間よりも数段厳しい戦いになる。
フィールドはそんな感じだけど、ここを代表とした迷宮やダンジョンも似たようなもの。弱小モブとしてスライムやバット。夜の飛んでるバットに比べ、近づくまで待ち、頭上から音もなく襲ってくるバージョンは慣れるまできつい。外に比べると難易度が高いけど、これはそういうもんだし仕方ないか。
そして、人型モンスとしてのミニゴブリン。棍棒もどきや投石攻撃がある。こいつらはうるさいから近づいてくるのが良くわかるが、おかげで他のやつらに気付きにくいので要注意。ふつうにはゴブリン、難しいにはスケルトンも出るとか。
ゴブリンに紛れて襲いかかってくる中で特に注意が必要なのが、ケイブウルフ。地下迷宮型には出現しなくて、洞窟でしか会敵しない。ウルフを少し細くして毛深くした感じ。細身なだけに、体力も攻撃力もウルフの劣化版との評価だけど、音が反響する洞窟内なのに気が付けば暗闇から襲いかかってくる隠密性が特徴。落ち着いて対処すれば良いんだけど、俺はちょっと遠慮したい。普通以上だと、群れることもあるんだから困ったもんだ。
そんな散発的に襲いかかってくるモンスターを倒しながら――正確には、倒しているのを見ながら――テクテクと進む。俺がしているのは、落ちている石を拾ったり、生えている薬草を摘んだり。珍しい所では、光源となっているヒカリゴケを時々集めている。
一気に集めないのかって?初心者が良くやるらしいが、死に戻る。そんなことしたら、真っ暗になって敵が見えないだろ。
「てなわけで、ボス戦だな。順調に来たけど、何か気付いたことはあったか?」
「【錬金】である程度処理してもらったから、インベントリに空きがあって助かった。今までは価値が低いアイテムを気にせず捨ててたけど、計算すると結構損してたんだと思うね。これがどれだけポイントに繋がるかだよな。
もう少し持ち物整理しないと駄目だな。スキルや技術で賄えるものは減らさないと」
「インベントリだけじゃなく、MPも有限だからな。スキルとのバランスを考えないと詰むぞ。
出た時のスコアを見ないと何とも言えないけど、新しい発見はなかったかな」
「俺は初めてだから、なんとも。ただ、難易度最低でもこんだけ敵がでてくるなら、ソロは難しいなって。
【錬金】のレベル上げにはなったと思うんで、そこは申し訳ないくらいありがたかった」
「……そういや、いつもよりも敵が多かった気がするな」
「いや、こんなもんだろ。確かに、あそこはやばかったけど、ありゃたまたまだろ。
いつもみたいに三人でまとめて戦える状況なら、なんてことはない数だろ」
スライムに抜けられた時か。
騒がしいミニゴブリンが近付いてきたので待ち構えてたら、横からケイブウルフが音もなく襲いかかってきた。岩陰に小さな通り穴があったらしい。1頭とはいえ、戦うには狭い洞窟。近づくミニゴブリンに気を取られ、自然と押されて出た先は、高い天井の小空間。お約束通りに天井から襲いかかってきたバットと床にいたスライム。それぞれ強くはないから数がいても受けたダメージはたかが知れているけど、彼らにしてみれば、守るべき対象が攻撃を受けたのことがショックだったようだ。
俺としては、ウルフじゃなければ別にモンスターを怖いとは思わない。……これって、今回一番の収穫かもしれない。ケイブウルフは毛色に姿形が違い、微妙にウルフ感が薄れていて、トラウマをそこまで刺激しないのか、動けないとかそんなことはなかった。その前に彼らがあっさりと倒していたのかもしれないが。
次の周回は護衛は護衛でも、俺も戦闘に加わるフォーメーションを予定しているので、そこのところも判明するだろう。
そのためにも、ここのボス――ゴブリンを中心とした集団戦――をクリアしないとね。
「……懸念は数か。それはここのボスも同じだな。いつもと同じ数だとしても、戦える人数が減れば、一気に厳しくなるからな。
やさしいとふつうは無限湧きしないから、防御優先で確実に削って行こう」
「了解。いのちだいじに、だな」
「そうそう。人数変わると敵の数がどうなるかは、外で情報集めてるやつらが他のチームからも聞いてまとめるだろ。俺らは護衛の練習に来たんだ。そっち優先で」
「危なくなったら手を出した方が良いかい?」
「あーそーだな。本当に、危なくなったらで良いか?
【水魔術】が使えるなら、“ウォータブレッド”で対処できるだろうし」
「そうだね。協力してもらって悪いけど、まずは護衛の練習ってことでお願いできるかな」
「良いよ。元々そのつもりだから。
じゃあ、見学がてらで」
さて、行きますか。
俺達は隊列を組んでボス部屋への扉へ手をかけた。