8-7 まとめとこれから
「あー結構な時間になったな。そろそろ良いかな?」
あっちこっちにいって戻ってこなくなった話を纏めるように、グリフが言った。確かに、最後の方は半分くらい雑談になってたからな。
えーと、新しく得た情報はたくさんある。まずはモンスターの情報。コッコやウサギのレアドロップに始まり、迷宮や夜に出る敵の行動パターンや対処法、トラウマ気味のウルフに至っては、称号『ウルフキラー』の取り方まで。
群れのボスを残して遠吠えさせて30細刻で30頭倒すなんて俺には無理だと思うけど、それに活用できる道具の入手方法まで教えてもらった。こいつはまだ拡散前の情報とのこと。情報料に足らないからってその道具まで貰えちゃったよ。小規模範囲攻撃できる火炎弾なんてアイテムは聞いたこともなかった。ちなみに、あまり知られていない条件として、ウルフの総討伐数が100頭っぽいってのも教わったけど、こいつは30細刻で30頭が成功する頃には達成。
それ以外にも珍しいドロップの情報やアイテム、生産物の情報、市場の傾向やはてまて裏町の伝手に至るまで、こんなにも情報出して大丈夫かと心配したほどだ。ただ、内容から、俺のプレーに関わってこないモノも多かったけど、それでも知らない街を探検しているようで楽しかった。なお、ほとんどの情報がネット上に転がっていて、検証前で眉唾扱いされていたり、情報の洪水の中で埋もれている小ネタらしい。
小ネタと言えば、買占めと高額転売をするとつかまる的なおぼろげ情報を出したところ、食いつきがすごかった。βでは特になかったようで、被害(?)に会うプレイヤーが結構いるそうな。まあ、住民が生きているって考えれば、独自の法律やルールがあるのは当然だろうけど、そこんところを知る機会なんてそうそうないし。俺はトルークさんとの会話中に出てきたんでどこで調べられるのかはわからないけど、図書館か衛兵に聞けば教えてくれそうだなって結論になった。
そのほかにも、基本的な情報から、応用まで幅広く教えてくれた。特に、ダンジョンアタックについては、攻略情報や撤退の判断基準から、攻略をメインとするチームの連携やパーティープレーの方法まで、奥が深いなと感心した。ま、正直俺が参加するメリットはあまり感じられないんだが。
「んで、なぜかこんなとこにいるわけです」
「どうした、急に?」
「いや、なんでこうなったかなと思ってね」
洞窟の中で小さくつぶやいたら、同行者から返答があった。近くにいるんだから当たり前か。
このやり取りでわかるかな?今俺は洞窟の中にいます。正確には、洞窟型迷宮、つまり、ダンジョンアタックのダンジョンに。
同行者は、お察しの通り、幻獣旅団。グリフ達三人。
事の起こりはそう、情報交換だった。
「でさ。こっちから出せる情報は大体出したよね」
「そうね。他に情報らしい情報なんてないわね。正直、ギーストさんが何がわからないかわからないもの」
「……情報の伝え方って難しいね」
「だからこそ、金でのやり取りなんだろうが。まぁいいじゃねぇか。後はそっちを考えりゃ」
「……そうよね。うん。
私たちは、ある程度の素材を提供できるわ。今持っているものは……今の話し合い中に処分しちゃってるわね。
ま、これはどこも同じでしょ」
「そうだな。俺のところも処分してしまったようだ。
そこでだ、提案がある。ギースト。俺達と一緒にダンジョンへ行かないか?得られたアイテムの分配を通して残りの報酬を支払おう」
「あーそれなら、うちも一枚噛ませて」
「俺んとこも、それなら」
「そうね、それが間違いないかしら」
「いや。行くなら、俺ら幻獣旅団だな。検証でお願いしたいこともあるから丁度良い」
「あら。そうはいかないわ。お互いすっきりとした取引のためにも、ここのチームそれぞれが一度は彼と組んでおくべきよ」
「そうだな。皆の分を合わせればちゃんとした金額になっていたとしても、こちらが心苦しい」
「でも、検証でなら回数がそれなりになるぞ。ギーストは時間大丈夫か?」
「あーそうだね。今日は暇だから大丈夫」
「んならそっち優先でいいぞ。こっちは1回にしときゃいい。もちろん、ギーストが望むなら多くてもいいが」
ツヴァイの台詞で、皆がこっちを向く。視線の圧力が強いよ。
ふむ。俺としては、どうせレベル上げをしなきゃいけない時が来るんだから、それが今でも構わない。セックへ行くときは『名無し』のみんなにお願いするって約束だからそっちを優先するにしても、最低限のレベルがないとボスに一撃死するようじゃねぇ。
ウルフの克服にもなるだろうし、検証も気になる。たしか、ダンジョン内で生産した時のポイントの変化だっけ?
それだけなら大して時間もかからないだろうし。
「それだけと言えば、それだけだけど。結構時間かかるぞ?」
「え?」
「【薬剤】なら、外でも作れるんだろ?
なら、材料持込み、現地で採取に合わせ技。それぞれを【薬剤】と【錬金】で試すだけでも6回。比較対象に何もせずを入れて……可能なら10回程度は協力してほしい。その分の報酬はもちろん出すから」
そもそも、ダンジョンアタックにみんなが参加しているこの週末は、特に予定はない。なんとなくいつもの生活をしてもいいんだけど、今回だけしか経験できないことなのは確かだよな。またあるとは限らない。
うん。今回は冒険すべきタイミングだ。こんな機会でもなければ積極的に出ていかないだろうし。
その結果、ダンジョンアタックにこうやって参加しているわけです。検証で10回ほど潜った後、時間があれば残りの4チームにも連れられて潜る予定。すげぇ、俺ソロ生産じゃないみたいだ。
「で、どうすればいいんだっけ?」
「最初は、普通にクリアしよう」
「俺はあまり戦った経験がないんだけど」
「ああ、大丈夫。こっちは護衛依頼のつもりでやるから。
ただ、それじゃあ面白くないだろ?確か【水魔術】を持ってたよね。遠隔攻撃をしてもらえるかな?その際には一声かけてね」
「【投擲】もあるから石とかも投げてみるよ」
「そうだね、スキルは使って慣れないとイザってときに役に立たないから。
じゃ、先に進もうか。あ、採取とかする時にも一声お願い」
「了解」
検証を行うのは洞窟型のやさしい。ふつうや難しいでは護衛しながらだとちょっと困るらしい。ポイントの調整、できるだけ同じようなクリアをすることが難しいみたいだ。それだと、検証にはちょっと、ね。
洞窟型なのは、最初に入った時がそうだったから。別に迷宮型でもよかったらしいけど、俺としてはこっちで助かる。採取するなら自然がないとあれだろうし。
さて、楽しみますか。