8-4 奥の個室
「改めて。チーム『護り手』リーダーのアインだ。恥ずかしながら『鉄壁』とも呼ばれるな」
「俺はツヴァイ。『グローリーハンズ』だ」
「ツヴァイの二つ名『火球』だな。あ、おれはサンペイ。『アイアンメイデン』のリーダーやってる」
「そこのお笑い三人組は置いといて、私はミナ。女性だけのチーム『流れる風』のまとめ役をしてるわ」
「いつも言ってるだろ。お笑い呼ばわりはちょっと」
「名前からしてオチがついてるじゃない」
アイン、ツヴァイとしてサンペイだものな。別にリア友でもなく、たまたまだってのがすごいわ。今は名前かぶりもできないのに。
アインが盾を持つ戦士……というよりも、雰囲気が騎士っぽいな。『護り手』の名にふさわしく防御主体のプレースタイルっぽい。
ツヴァイは見るからに魔法使い。黒めのローブを着てる。重い装備だと困るくらいに体力に数値を割り振っていないんだろう。
サンペイも盾を持っているけど、小さめのバックラー。鎧も皮鎧だし、身軽そうな感じ。いわゆる軽戦士。物語の勇者はこのスタイルだよな。ある意味オールマイティ的な戦い方ができるタイプ。
ミナさんは、ごつい鎧を着た重戦士。剣は大剣だけど、鎧も金属なのでアマゾネスという感じはしない。まさに、戦士の中の戦士。女性には珍しい戦い方な気がするが、現実とは違ってステータスは比較的簡単に上げられるからね。
そんで、グリフは軽戦士。サンペイと同じ感じだけど、ちょっと装備は軽め。確か、風魔術も使えて、魔法戦士を目指しているって話。
回復職のユニックと斥候兼魔法使いのサラム、生産一直線の俺ギーストの計8名が入ってもそれなりに余裕がある、奥の個室。こんな場所が冒険者ギルドの奥にあったとは気付かなかった。あるなら2階だと思ってたんだけど、受付奥の目立たない場所に用意されてるなんて。
「あそこは、食事と交流がメインの場所だったんだが、最近プレイヤーが増えたんで、交流はこういった場所を使うようになったんだ。ま、ルール化されていないが暗黙の了解ってやつだ」
「空いてるときは問題ないけど、混んでると文句言ってくる人もいるわ」
「今じゃ冒険の利益を分ける時間くれぇか、使えるのは」
「人が変わるとルールも変わる。もっと先に進めるようになれば、また変わっていくだろう」
「で、グリフと『鉄壁』。俺らも良かったのか?」
「ああ、このギーストにも確認とったからな。雑談って名前の情報交換なら、お前らを外す意味はないだろ」
「情報交換かぁ。久しくしてないね。情報屋ができてから、もっぱら売るかネットで読むかだもの」
「なんだ、お前ら買ってねぇのか?」
「何買うってのよ、今更。新しい攻略情報なんて見当たらないでしょ。生産情報は日進月歩かもしれないけど、私達には関係ないもの」
「そうでもねぇぞ。高く売れる素材がわかっから」
「それじゃ、利益と経費でトントンでしょ」
「わかってねぇなぁ。先行ってる感が重要なんだよ。そうじゃなきゃ楽しくねぇだろ」
「まあまあ、二人とも。楽しみ方は人それぞれってことで」
「ってなわけで、娯楽には飢えてる。情報ならなおさら。
声をかけてもらったのは嬉しいよ」
うーん。なんか、ハードル高くない?つーか、俺が聞く立場のはずなんだけど。
人物的には、べらんめぇのツヴァイ、軽めなサンペイに比べ、アインは真面目そうだ。ミナさんも含め、まあ、まともな人物に感じる。詮索するつもりはないが、社会人かねぇ。
で、なんでこんな状況になっているかなんて正直どうでもよく、俺としては第二陣歓迎イベントであるダンジョンアタックと、ここんところの情勢を教えてもらえればそれでいい。生産関係は、直接生産ギルドで聞けるし。ただまあ、情報源は多い方が良いのでいてもらっても何の問題もない。俺の近状を聞いたグリフが呼ぶのを問題視しなかったのも理由の一つ。
「で、まずはギースト何が聞きたいんだっけ?」
「俺の名前はギースト。生産メインの錬金術師?いや、最近は薬剤師かね。
あー、前提として俺はネットでの情報収集をしていない。公式をちょろっと見る程度。で、ソロで生産メイン。
それを踏まえてだけど、ダンジョンアタックと最近の情報を確保しにギルドに顔を出したんだ。……ここまで混んでるのは予想外だったよ」
「『幻獣旅団』としては、最近は検証の手伝いが多かったし、ダンジョンアタックもさっきやったばかりだな。だから、どれだけこたえられるかわからなかったんで、頼れる友人たちを巻き込んだってわけだ」
「巻き込んだのは『鉄壁』だけどな。
そういうことか。ならなんでも聞いてくれ……って言いたいところだけど、何説明すりゃいいのかわからんな。本人から知ってることを言ってもらった方が早いだろ」
「そっか。そうだね。
うーん今知っていることかぁ」
何かあったかな?
ああ、さっきグリフ達に聞いたことと運営からのメールか。後は……実体験?
ダンジョンアタックは前回のダンジョンと同じ場所にあって、今は誰でも行けること。難易度が複数あって攻略をポイントで評価されること。高ポイント獲得者には後で賞品とかがあること。評価のポイントは、探索率やら何やらで複雑なこと。攻略とは別に検証班も挑んでること。検証と言えば、今まであった戦闘スキルだけでなく、生産や趣味系スキル、街中の依頼や世界観などについても検証が始まったこと。思いがけないスキルが有用と評価されたり、プレースタイルが色々と分かれて幅が広がったこと。反面、攻略は行き詰っていること。生産ギルドができて、街が発展していること。
ああ、生産ギルドと言えば、それなりにレシピが充実し始めたらしい。簡単なものだけどオリジナルレシピもできるようになったとか。これは、セバンス情報。生産スキルの使い方とか、道具の使い方をギルドでは教える程度だけど、中にはスキルなしで学ぶ人もいる。主に住人だけどね。そいつを頑張ると、“技術”を覚えられる。まあ、車の運転で行くとマニュアル操作になるから、スキルに比べれば何を作るにもすごい大変だけど、その分工夫ができて、差もできる。……そういや、俺が最初に覚えたのはここのギルド長からの【短剣】だっけ。んで、その夜には衛兵小隊長のトルークさんに依頼を貰って、【薬剤】を覚えて、ああ、図書館でレシピを覚えたなぁ。それから……
「そこまで」
「ん?」
「情報料としても、貰いすぎ。どうしたもんかな?」
「攻略は人数がいたけど、生産や街中派は少なかったからな。ここまで情報に差があるとは」
「検証班も当てにならないわよ。街中に目を向けた途端、生産だのイベントだのと忙しいもの。何しろ、頼りのチームがダンジョンアタック中でしょ」
「そう言われると肩身が狭いな。ああ、ギースト。わかんないよな。
ま、情報に対価が必要なのはわかるだろ?」
「そりゃそうだ」
「で、まずは君が知ってる情報を確認して、欲しい情報を確認して、出せる報酬を確認してからと思ってたんだけど……さっき簡単に言ってた内容だけで、こっちとしては釣り合う形で提供できるだけの情報がなぁって状況」
「つまり、知らなかったことが多かったってこと?」
さっき言った内容程度はジーンなんかにも伝えた気がしたし、特にクロなんて掲示板に書き込むって話をしてたと思うんだけど。
オリジナルレシピとかはその後だけど、この程度はすぐに書き込まれるだろうし。
周りを見渡すと悩み顔なのは【鉄壁】、ミナ、サンペイとグリフ。【火球】とユニック達は微妙な表情。
「まあ、ちょっと整理するか。
さっきの話で、初耳だったりするのは、えーと、生産ギルドで“技術”が覚えられる、ギルド長から【短剣】、衛兵の何とかさんから【薬剤】か」
「図書館でレシピも知らなかったわよ。技術なら作ったものに差ができて工夫もなんて、言われてはいたけど確認はされてないんじゃないの?」
「スキルなしでも作れるってのもまだ検証前かな。それと、なんかのフラグがあったのかもしれないけど、街の住民から依頼があるってのも初耳」
「ああ、スキルなしでってのは確認されたけど検証前なんでどこにも書かれてないと思う。住民からの依頼も同じだね。どっちも一回こっきりだったからなぁ」
「それってすごいことか?」
俺の言葉に何人かが溜息を吐く。
でも俺は知っている。彼らの方が間違っているんだ。
「だってさ、これだけ現実っぽいゲームだよ?スキルがなきゃ剣が振れないわけじゃないし、走れないわけでもない。なら、生産だって魔法だって、簡単じゃなくてもできるだろ?
依頼だってそうさ。プレイヤー同士だってお願いできる。お願いって言うなれば依頼だろ。なら、住民からお願いを受けたら、システム上依頼になったって変じゃない」
「あーまーそういわれるとなー」
「図書館にレシピ本なんてありきたりだし、手作り品なら差が出て当然。技術を人から教わるなんて当たり前だろ」
「……常識にとらわれすぎてた、か」
「それも、ゲームのね。スキルがなければできない。普通はそうだもの」
「攻略派ばっかりが活躍したのも原因かな」
「まあ、まだ始まったばかりだし、逆にもっと面白くなると思えば」
「真っ先に攻略するだけがゲームじゃない、か。忘れてたな」
「もっと冒険しなさいってことか」
なんとか俺の言い分に納得してくれた彼らだったが、呟かれたミナの言葉に雰囲気が変わった。
「……思惑通り?」