8-3 情報収集
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
「あの騒動のおかげで、検証が盛り上がってね。
その後の“生きてる情報”と併せて、住民による人物評価や、βとの違いの中でも特に街や生活に関するところに重点を置いた検証が進んだんだ」
「おかげ?怒られただけなのに?」
あれで何が盛り上がるんだ?
そんな疑問に、説明したがりのグリフを押さえて、ユニックが答えてくれた。
「あれ、βでもあったミニイベントですが、その時は訓練だけなんですよ。新人に他の冒険者が絡んでも、ギルド内では云々と言われるだけで。ま、喧嘩になれば別ですが。その場合は、即衛兵が飛んできます。
今回は、ギルド長に連れられてガッツリ怒られたでしょ?βとそこまで違うのってあまりなかったんですよね。おかげで、検証班が食いついて」
「その過程で、住民の感情がこれまで以上の内容で実装されているって結論がでたんだ。すごいぞ。個人に対する感情、職業に対する、種族に対する感情などがあるって言われてるな。こりゃもう、現実と変わらない。
そのせいか、同じような依頼でも、街中のやつは相性や性格によって違う流れになることも多くて」
「いい感じに狂ってますよね、運営。狂気の沙汰ですよ。よくまあ、実装しようなんて考えたし、これでラグもフリーズも聞かないんだから。
遊ぶ方からすると、楽しいからOKですけど。ま、それは良いとして、そんなこともあって、今までのような討伐やレベル上げメインじゃないプレイヤーも増えまして。おかげで、色々と検証が進んだんですよ」
グリフは本当にうれしそうだ。心から『冒険者達』を楽しんでいることがわかる。会話には参加してこないが、サラムも深く頷いている。ユニックはちょっと目線が違うみたい。
でもそっか。戦闘にばっかり注力してたみんなも、ちゃんとこの世界を楽しむようになったんだ。何か嬉しいな。
検証が進めば、自分が周りから遅れるのはわかってるけど、別に攻略に興味はない。そもそも楽しむのが目的なので、現状では街で生活するだけでも十分。
やることなくなったら次の街に行こうかと考えてるレベルだし。
「まあ、今は攻略も滞ってるんで、検証位しかやることがないのが現実なんですが」
「あー。それを言うなよ。気がめいる。
セック、次の街が解放されたのは知ってるだろ?フィールドボスが倒されたし。だけどな、その先が見つからなくて。今の有力候補は実装前って意見だな」
「でも、そのおかげで検証も進み、第一期と第二期の差が縮まってトラブルにも……ああ、狩場が重なる以外はトラブルも少なくて」
「レベル差による諍いは減ったよな。隠しフラグがあるんじゃないかって街中の依頼もかなりやられてるから、住民とのトラブルも減ったし」
「一期が20、二期が15レベルがそこそこランクですかね。生産ギルドができたおかげで、そのあたりの数値も今後はばらけていくでしょうし」
「楽しみ方もばらけてきたんで、今後は攻略情報も多種多様になってくだろうな。生産情報の充実が待ち遠しいな」
もと生産職としては、やはりこの状況に何かクルものがあるらしい。ちょっと遠い目をしている。感慨深いんだろうな。
迷宮攻略後の休息をあまり邪魔しても、な。周りもそれなりに混んでるし、そろそろ戻ろうか。別にダンジョンアタックするわけじゃなし。
でもまあ、俺の当初の目的は情報収集。せっかくなんで、ダンジョンアタックと最近の情勢を改めて聞いてみよう。その話をしようとしたら、横から声がかかった。
「ようグリフ。長い話になるようなら、奥の部屋を使った方がいいんじゃないか?」
「おお、【鉄壁】の。
あ、そうか。ここはギルドだったな。ありがとうそうさせてもらうよ。
ん?あ、そうだ。ギースト。人が増えても大丈夫か?」
見覚えのない人がグリフに声をかけてきたので眺めていたら、俺にも話が振られた。うーんと、【鉄壁】とか呼ばれてたってことは、まあ二つ名持ちだよな。つまりなかなか有名な人。情報収集の相手としてはもってこい。おお。こういうのも災い転じて福となすって言うのかな?これなら、怒られて良かったとまで言えそうだ。
「問題なし。今日は情報収集のつもりだったから」
「じゃあ、えーと、【鉄壁】の。時間はあるかい?」
「おう。うちのは並んだばっかだからな」
「じゃあ、ついでに……」
「ああ、アイツらへの声掛けは俺がしておく。そっちは先に部屋を取ってくれ」
「頼んだ」
え?グリフ俺を置いてくのか?
なんて口を挟む暇もなく、彼は受付の空いている人へと向かった。奥の部屋を借りる手続きだ。
声をかけてきた【鉄壁】さんも机を離れ、何人かに声をかけている。
うーん。ちょっと話が大きくなってきたのか?暇だったからなら良いんだけど。攻略メインでやってる人の邪魔はしたくないな。
そう思っていたら、ユニックが良くつるむメンバーに声をかけてるだけですよと説明してくれた。
ログイン時間が似ていて、それぞれにプレースタイルが違う。基本は仲間でつるむけど、必要ならお互い様でお手伝い。そんな友好的なチーム運営をしているそうだ。
まあ、いつでも全員が同じようにダイブできるわけじゃないし、依頼によっては特殊なスキルが必要になる。そんなこんなで、時折つるむ仲間ができたらしい。良いことだよな。
個人でも楽しいけど、気の置けない仲間とつるむのも楽しそうだ。ジーン達に入れてもらうのは……方針が違うからちょっとな。生産仲間ができれば……いるな、すでに。こっちの住民だけど。
うん。俺は恵まれてるな。
投稿を始めてからそろそろ2年になろうとしています。
せめて、今年中にはもともとの区切りとして考えていたエピソード(2部終了)まで持っていきたいと思います。