7-11 魔術ギルドへ
「ま、そういう訳じゃから、お主なら問題なく外で活動できるじゃろ。
ただし!一人でハイウルフの巣食うセックへの街道を進むのはお勧めできん。万が一を考えるんじゃ」
「うちとしては、その前にギルドに来てる依頼をこなしてくれると助かるんやけどね。たーくさん」
「不安があるなら、その方がええじゃろ。経験を積めば積むほど人は強くなるんじゃからの。
何度も言うが魔術ギルドにも行くとええ。お主をまた違った形で強くしてくれるじゃろう」
「そうやね。なんだかんだ言うて、強くなって悪いことはないんやから。
……んあ、そうや。長いこと話してるけど、ボルボランの要件は終わったん?」
「おう、そうじゃ。すっかり忘れとった。
元々は、設立に感謝を示すだけのつもりだったんじゃが、皆が迷惑をかけたみたいじゃしのぅ……」
「あ、別にそれは良いですよ。大したことないですし。面白い情報とかもらいましたから」
「そう言ってくれると助かりはするが、の。まあええか。今後、何かあったら言うがええ。できる限りは力になろう」
なんか恐縮した感じのボルボランが頭をかきながらぼやく。
ココルもかけた迷惑の内容を聞いて苦笑い。冒険者ギルドでもトラブルあったしね。別に気にしてないけど。
「はい。じゃあ、長々とお邪魔しました」
そう言って部屋を出ると、廊下にノースさんが。嘘!待ってたの?
部屋に案内される途中でお願いしていた素材を渡されたので、支払いをした。廊下だけど、俺にはインベントリがあるので受け取りには問題なし。
そう考えると、祝福の冒険者って、ものすごいアドバンテージがあるよな。レベルも上がりやすいし、スキルもある。ゲーム内とはいえ、今後は世界の常識が簡単に覆っていくんじゃないだろうか。
「では、ご案内を」
「あ、良いですよ。また注目されますし」
「……そうですね。他の者には注意するよう伝えましたが、念のため別々に行きましょうか。
では、先に戻っておりますので」
そう言って階下へと向かうノースさん。歩き方も颯爽としていて、できる秘書って感じだな。
んー。さて、どうしようか。初心者魔法薬の効果が落ちるのが嫌ってのもあってレベルを上げなかったわけだけど、ウルフも簡単に倒せるようになるって話だしなぁ。
下で依頼を受けるか……あ、魔法ギルドに先に行くか。降りてすぐに依頼カウンターじゃ注目されるだろ。
そうと決まったら、さっそく行きますか。
まだ見ぬ、魔法ギルドへ。
……まだ見ぬだよね?
んなこんだで、やってきました魔法ギルド。
作りは驚くほど冒険者ギルドと同じ。ただこじんまりしただけ。冒険者らしい人間がひっきりなしに訪れるのも、大して変わらない。依頼が張り出されている掲示板が小さいのが気になるのと、やってくる冒険者にローブを着た魔法使いらしい格好の人間の割合がちと高いくらいか。
あ、大きな違いを発見!
受付っていうか、スタッフの大半が男です。今までの二つのギルドはどちらも女性の割合が高かったけど、こっちはそうでもない。どっちかっていうと、低めだな。
「ここは特殊なのです、はい」
「そんなに違うの?」
「生産ギルドならちょっと似てるです。何せ、依頼が依頼なので、受付は【鑑定】がないと務まらないですから、はい」
そう説明してくれたのは、ちょっと小太り気味の中年男性。受付のアルさん。
しゃべり方が特徴的で、すごーく、某社の係長を思い出す。あの人も、いつも額の汗をハンカチでぬぐってたな。
依頼掲示板を見てなかったからわからないけど、そんなに変な依頼が多いのか?
「研究に使うので、納品系は細かいのです、はい」
「例えば?」
聞くと、汗を拭きながら隣に目配せ。意識から追い出してたけど、隣では魔法使いらしくローブをかぶった人がカウンターで話をしている。
依頼をこなしてきたのか、受付――こっちも男性。かなりムキムキ――の人が、大量のウサギをより分けながら説明していた。
「あー、こっちは火魔術で、こっちが風か。おぉ、これはとどめだけ火だな。ありがたい、滞ってた依頼が結構片付くぞ。
ん?ああ、これはちょっともったいないな。火と風で倒してるが、この依頼は納品されたばかりなんだ。魔術のみ枠で良ければ受けるぞ」
「隣のが聞こえましたですか?あのように、魔術で攻撃して剣でとどめ、火魔術でとどめ、風のみを使って、水と土で、などなど、研究によって求められる素材が違うです。なのでみなさん、先に依頼を受けずに倒してまとめて持ってくることが多いのです、はい。
こちらとしては、受けてもらった依頼が解決されないってことがないので良いのですが、受付に高レベルの【鑑定】が必要になるのです、はい」
「依頼がかぶることも結構あるんじゃない?」
「それでも、違約金を払うよりは良いと考える人が多いです。新しくできた生産ギルドでも、条件が合う依頼があればそれなりの金額になりますし、安くてもよければ冒険者ギルドで引き取ってくれますです、はい。
生産ギルドができたので、みなさん喜んでるです、はい」
「じゃあ、どんなのが求められているかを見てから冒険に行けばいいのかな?」
「その方が効率が良いです、はい。
採取素材なら育成や取り方、品質が細かく指定されることが多いです。討伐はありませんが、得られた素材は倒し方によって求められますです、はい。
なので、街に戻られた際は、まず初めにこちらにお越しください、はい。
あ、お勧めの依頼を見つける場合はこのカウンター水晶です。カウンター水晶は、触った方で達成可能な依頼が表示されるように設定されているので使うと便利です、はい」
カウンター水晶って名前だけど、冒険者ギルドで登録の際に触ったものに近い。それが、カウンター横に置かれていて、誰でも触れるようになっていた。触ると、水魔術が関わっている依頼が、簡単そうな物から表示されている。これは便利だな。
掲示板は、常設依頼が大半で、緊急性のあるやつが印付きで掲示されることが多いそうだ。だから、ちら見で通り過ぎる人が大半なんだな。
あ、水晶に表示されている依頼でいくつか赤いやつがあるぞ。
「それはお手持ちの物で達成可能な依頼です。受けている依頼が薄い黒、その中で達成可能が青、受けてないけど達成可能が赤です、はい。
納品の際は【鑑定】しますのでご安心くださいです、はい」
「うーん……あ、これとこっちはお願いします。後は別にいいです」
「ありがとうございますです。こちらが報酬です、はい」
『薬草:品質69×1、品質89×2、品質45×1……品質5×2を納品しました』
『魔力草:……を納品しました』
取得経験値や報酬とかは正直、どうでもいい。ただ、買ったばかりの商品がそのまま納入できたからってだけ。依頼をざっと見ると、初心者魔力薬や素材の納品はたくさんありそうなので、定期的にこっちに持ってきてもいいかも。躍起にならなくてもレベルアップできそうだ。
さて、ここでの要件は終わっちゃったな。登録もしたし、ついでに納品もできた。依頼の傾向もわかったし。
こうなると、後は家で生産活動かな。
……やっぱりまだ、外は怖いし。