7-10 解説
「やっぱそうや。なるほどなぁ。
簡単なことやったな」
……再度、一通り話をしたところ、ウルフを倒したあたりでココルが納得したように頷いた。ま、俺には真剣な戦いができないって結論だから、簡単って言えば簡単だな。
コッコやウサギは問題にならないんだから、ゲーム的な戦闘なら問題ないけど、生々しい戦いがダメなんだろうな。日本の一般市民に戦いの経験があるわけがないので、当然だけど。逆に、嬉々として戦ってたら問題じゃね?
ゲームのリアル性を追求したデメリットかね。今のところ気にならないし、問題にもなってないみたいだけど、俺みたいなプレイヤーも多いんじゃないかな。入り込むゲームであるからこそ、現実とのギャップというか、自分との兼ね合いというか。
一人でそう納得していると、解説が入った。
「戦い方や心構え、装備なども問題になるが、そこは慣れるしかない。経験を積めばええ。お主の問題は、一人でやろうとすることと、レベルが低いことじゃな」
「あー!うちの出番が!せっかくの解説役を横取りせんといて。
……ま、ええか。そう!レベルの低さが問題なんよ」
いやまあ、確かに俺のプレーレベルは低いだろうけどね、不器用だし。リアルの戦闘経験もないし。スキルもない。でもまあ、それはどうにもならんだろ?慣れりゃいいのかもしれないけど、そこまでしなくても十分楽しめてるし。
「一人じゃ無理かぁ」
時には気の合う仲間と楽しむけど、こういったゲームは基本一人なんだよな。え?MMOの意味はって?広くゲームの世界を楽しめるからに決まってるじゃん。
現実でも人付き合いで苦労があるのに、ゲームの世界でもそんなのは嫌だし。
「複数で協力した方が戦いやすいのは確実じゃな。協力することで強者を倒す。そのために、冒険者はパーティーを組むんじゃから。
……協力する意義を広めたお主とは思えんセリフじゃな」
「ちょっと、ちょっと。そっちも重要だけど、頑張れば十分まかなえるやん。
戦うにはレベルが低いってことやん」
「……いや、俺が戦い慣れてないのは仕方ないだろ。戦闘系スキルも必要以上に覚えたいとは思わないし。
それに、強くなれば勝てるって、解決策にはなってないだろ」
「ん?
ああ、ちゃうちゃう。ん?いや、合ってるのか?まあ、ええわ。
レベルっちゅうても、戦い慣れとか技術とかの話やない。ほんまもんのレベルの方や。
神殿で調べてもろてもええんやけど、聞いた話じゃ祝福の冒険者ならすぐに確認できるんやろ?
今どない?」
あ、まさにレベルね。ゲーム世界の住人に言われたから、そっちだとは思わなかったよ。だって、ゲームシステムの話になりかねないもの。
えーっと……ステータス画面からすると、今は8か。結構上がったな。
「8ですね」
「……気を取り直して。
さっきも言うたけど、冒険者じゃレベル10はまだ新人なんよ。その新人だって、ソロでウルフとはやりあわんよ。労力とリスクに対して得る物が少ないんや」
「しかも、話を聞いた範囲じゃと、ほとんど何も経験せずに初戦闘がウルフ。いくら装備を固めていても、勝ったのが不思議なくらいじゃな」
「不思議なことに、レベルが上がると色んな面で強くなるんよ。これは確実な事実や。逆に、レベルが低ければ弱くて当たり前や。神殿で調べるのにお金がかかる理由の一つは、レベル至上主義にならんようにやと、うちはにらんでるんや。
ま、それはそうと、だから、新人はパーティーを組んで仕事をしたり、街中の雑用をして経験を積むんよ。戦いに命を懸ける前に、少しでもレベルを上げるために」
「お主はそれをしておらん。だから、じゃ。ウルフに苦戦したのは。
贔屓目に考えても、当時のレベルはせいぜい3。いっても5じゃろう」
「いやいや。うちで大量に依頼をこなして貰ろうたのもその後やし。それでも今8やろ?良いとこ2やったんやないかな?そんときは。
そんな状況で、ウルフをソロで討伐してる方が驚きやん。普通なら、やらへんし、できへんよ?
冒険者ギルドが、戦闘系の技術を持たん奴に稽古つけたり簡単な依頼や仲間を紹介するのは、そんな無茶をせんようにや。命は大事にせな」
「まあ、今後は戦いを避け、物作りを主とする者も増えようが……きちんと依頼をこなせば、経験となり、自然とレベルも上がっていく。
神は見ておられるんじゃ」
「いずれにせよ、そんだけの装備を持ってるなら、ちょっとレベルを上げればウルフくらいは簡単や。
たぶん、今ならコッコやウサギ並みに手軽に倒せるんやないかな?」
そんなことをツラツラと二人で説明してくれた。
うーん。トラウマ的にまでなった、ウルフとの生死をかけた戦い(誇張あり)は、レベル不足が原因とな。
話を聞く限りでは、レベル1の勇者が装備を固めて初戦闘がスライムではなく、空飛ぶアイツって感じか。確かに、いくつかレベルが上がれば、集団だって雑魚扱いだけど。
戦いに対する苦手感は、ギリギリの戦いに対する免疫とかイザって時の粘り強さとかはあれだけど、通常戦闘ならレベルを上げれば問題ないと……いわゆるゴリ押し推進か。
まあ、無茶しなきゃゲーム感覚で楽しめると。あ、そもそもゲームだわ、これ。
「騙されたと思うてやってみたらええやん。
ただーし!一人で行かんことや。特に、自分で問題抱えちょるって認識してるんやから」
「そうじゃな。ギルドにゃ暇な奴もおろう。護衛に雇うのも手じゃ。
あとは……」
「自分の手札を増やすんもありやな。
小さいけどここにも魔法ギルドがあるんは知ってるやろ?
話を聞く限り魔術が使えるみたいやから、行ってみるのも手やね」
「そうじゃな。魔法ギルドならではの、毛色の変わった依頼もある。街中の経験でも色々積んだらレベルが上がるからのぅ。
戦う術を学ぶんじゃら、冒険者ギルドがええがの。あれじゃ外での冒険には向かん」
「……あぁ、そうやねぇ。
突っ立ったまんまじゃ、いくら高速詠唱ができてもそんなに怖ぁないし。実践的やないね」
「技術はすごいがの。それに、街の防衛にはあれでいいんじゃし。
ま、色々言うたが、色んなことを学んで、行きたい道を進むがええ。旅立ちはこの街の常。いくらでも応援しよう」
そう言ってもらえると助かるね。
……まだ実感はわかないけど、俺が苦労したのは本体レベルが低すぎたからみたいだし。もうちょっと街中を楽しんで、レベルが上がったら外に出ても良いかな?
なんてことを考えてると、ボルボランがちょっとだけ小声で聞いてきた。
「こんなことを聞くのもなんじゃが……お主は水魔術が使えるんじゃな?
大体の練度はわかるか?
あ、教えたくなければええんじゃ」
「ん?
ああ、スキルレベルか。スキル内容を教えないって人もいるけど、俺はそのあたりにこだわりないから。レベル位ならなおさら。別にいいよ。
えっと」
「詳しい数字はいらん。大体じゃ、大体」
「うーん。……20はないかな」
俺の言葉に、二人は深々とため息をついた。
傷つくので、そんな対応は止めていただきたい。
「魔術はの。戦闘系技術と同等視されることもあるんじゃ。熟練の剣士だとて、場合によっては魔術師に苦戦するんじゃぞ」
「つまりは、持ってるだけで、戦えるっちゅうことや。初心者レベルやって、使えりゃ十分牽制になるんよ」
「練度が一桁のうちは、初心者。40を超えれば熟練者じゃな。
ここらは弱い獣が相手じゃ。お主レベルなら下手したら一撃じゃぞ」
牽制パンチで一撃!ってことかい。
水を出すことにしか使ってないけど、よく考えれば、ほぼずーっと使ってたし、レベルが上がるのも当たり前か。
攻撃に使った記憶がないから、実感わかないけど。