7-8 二人
「なんでこんなところで」
扉の向こうにいたのは、冒険者ギルドのトップだった。狐かシャム猫系の獣人だと思うんだけど。名前は……聞いたっけ?
俺の疑問の声が止まっていた時間を動かす。
体勢を整えた彼女が口を開く。
「珍しいとこで会いますな」
「ご無沙汰してます、ギルド長」
「……そこにも同じ立場の人間が、な。その呼び方じゃ混乱するやん。
あ、ノース。うちにもお茶貰えます?」
「少々お待ちください」
「あー儂らにもな。
で、ココル。忙しいお主がどうしたんじゃ。手伝いにでも来てくれたんか?」
「依頼されてた素材を運びがてら、うちから派遣してる娘たちの様子を見にね。
忙しそうやね」
「ああ。おかげで助かっておる。なんとか最初の波は乗り越えたんではないかな?新人も慣れてきおったし、そろそろ一段落じゃ。祝福の冒険者もこれ以上増えまい」
「そうやね。これ以上だと対処できへんね」
人が来たならとお暇しようとしてタイミングを失った。何せ、来たのが知ってる人だったし。
にこやかに二人が会話するのをなんとなく聞いていたら、ちょっと気になることがあった。念のため、言っておくか。
「これからも、祝福の冒険者は増えますよ。具体的には、3連に1万人は。
どんどん出ていくでしょうが、その分、新しい人が訪れるはずです」
「うーん。そいつはかなり予想と変わってくるな……まあ、ええ。考えても結果は同じ。今それを知れたことを喜ぶしかないか」
「時間があるのが救いやね。それまでに対応できる体制を作らんと」
「儂らの立場からすると、需要に供給が追い付くかが気になるところではある」
「3連もあれば、作ることくらいはできるのでは?」
「祝福の冒険者ならな。儂らには祝福の恩恵などないからな。
まあ、良い。ここは始まりの街だ。3連ある。初心者向けの物であれば、見られる形にできる者も多かろう」
「素材の確保が問題やけど、そっちは輸入もできるしな。領主様に話しとけばええんやないかな。食料については【農業】やけど……」
「時間が問題だな。植物の成長には時間がかかる。……お主の言う通りであれば、ギルドとしての初仕事は購入制限かもしれんな」
「……仕方ないわね。こちらの事情を理解してくれる祝福の冒険者にはうちから声をかけとくわ。話の分かるチームがいくつかあるし」
「生産畑の祝福の冒険者には儂らが話そう。彼らは彼らで繋がりがあるようだから話も広まるじゃろう。
それでもトラブルになるかもしれんから、衛兵隊にも話は通しておこう。後は……魔法と商人かの」
「どちらも組織がまだ小さいから迷惑かけるなぁ。……もう少し、そっちに協力してくれる祝福の冒険者がいればええんやけど」
チラチラとこちらを見ながら、ココル冒険者ギルド長が言う。……長っ!口に出すんでなければココルで良いや。
素早く話が進んだから口を挟まなかったけど、内容は大体理解できた。要は、需要に生産が追い付かない状況になるってことだろ。今の『冒険者達』と同じだからわかりやすい。俺らの存在が迷惑をかけるんだから、協力しないって選択肢はない。
まあ、知り合いが少ない俺には、手当たり次第に情報を流しつつ、生産力を上げるしかないが……気になるのは、魔法と商人が小さい組織ってことかな。
それが本当なら、なんらかの条件で規模が大きくなってできることが増えるはず。次回は間に合わなかったとしても、毎月1万人も追加されるなら、早めに拡大しておくべきだと思う。わかった情報は、自称準攻略組の同僚に流そう。これくらいは、事情を知る祝福の冒険者がやるべき協力だと思う。
「もちろん。生産なら、微力ではありますが協力しますよ。素材については薬草や魔力草の栽培ができると良いんですけどね。
それよりも、ギルドの大きさで何か変わるんですか?」
「協力は素直にありがたいわ。知り合いに声をかけてくれるならもっとありがたいんやけど、お願いできる?
で、ギルドか。もちろん、どんな組織でも規模が違えばできることも変わるやろ。当然やん」
「生産と冒険は規模としては中の小ってところじゃな。始まりとはいえ冒険者の街であるし、念願の生産ギルドなので領主様も力を入れたんじゃろうな」
「中規模にまでやと、他のギルドとギルド証の統合ができるんよ。資格凍結処理も統合されるんで、使用継続にはどっちかの依頼をこなせばええんやから使う方にしたら便利やな。
規模が大きいから依頼も多いし。ま、ギルド側には他にもあるんやけど、使う側からしたら違いはそんなもんやな」
「大規模になるとクランの登録も可能になるんじゃ。もちろん条件付きじゃが。王都のような大都市に冒険者が集まるにはそんなわけもある。その後は秘境に冒険へ出るやつらが大半じゃがな」
お主も先へと進むんじゃろ?と聞かれたが、返答に困る。正直、ここでの生活に満足してるんだよな。例えば生産数に出てる星マークが一杯になったら、つまり、ここでできることをコンプしたら絶対に進むだろうけど、下手したらそれまではアークに居続けるかもしれない。
「それよりも、ココルよ。お主も相変わらずだな。もっと伝えるべきことがあるじゃろ。
ギルドの規模、それは、すなわち街の規模でもある。セックのように強い分野がある所は街が小さくでもそのギルドが大きいこともあるんじゃが、基本は街が大きければギルドも大きいの。
規模が違えば扱える量も違う。依頼や買い取り、時には販売もじゃな。回復薬でいえば、小規模なら50もストックがあれば良い方じゃ。使用にも期限があるのでの。
急に人が集まれば、下手したら制限が必要になる訳じゃ。なんで、規模が小さいギルドほど大騒動への対応力が劣るの。ま、その分、小回りが利くんじゃが」
「そんなの、どんな組織でも同じやね。
でもまあ、ここのところ販売や買い取りの制限って聞かないんやけどね。昔と違って、今じゃ街道の整備も進みよったし、情報が流れるのも早ようなったから。商人様様やね」
「商人が運ぶにも物がなくては、な。ということで生産ギルドも大活躍じゃ」
「そんな商人を守るのも冒険者ギルドの依頼にはあるんよ。
護衛の依頼はなかなかに難しぅて。ランクの高さもさることながら、実績と信頼も必要になるんよ。命を預けるわけやから。
ギーストはんは、この間の納品依頼から特にこなしてないようだけど、何もせんと受けられる依頼の幅も狭うなるで」
商人大活躍か。で、物事は繋がっていくと。まさに現実と同じだな。リアルシミュレーターって話も現実味があるぞ。
それにしても、依頼。依頼かぁ。
あんまり気乗りしないんだよな。