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狂気(作:葵生りん)
「はぁ、はぁ、はぁ……」
息が、上がる。
足がもつれて転びそうになる。
もつれた足を解きながら助けを求めて伸ばした手はむなしく宙を引っかくだけで、ずしゃっと顔面から地面に突っ伏した。
はっはっはっはっ
呼吸は浅く、息が苦しい。
犬のようにだらしなく浅い呼吸を繰り返し、口に入った砂を噛んだ。
いる。
そこに。
そこにあるものが怖くて、振り返ることができない。
走っても、走っても、追いかけてくる。
静かに、音もなく、忍び寄ってくる。
どれだけ走っても、距離は開かない。
そして、縮まりもしない。
まるで、嘲っているみたいだ。
いつでも追いつけるけれど、あえてこの距離を保って怖がらせようとしているみたいだ。
追いかけてくる。
どこまでも。
どこまでも。
月が。
その表面に浮かぶ、鎌を持った死に神が。
狂気に満ちた笑い声が頭の中に響く。
追いかけてくる。
どこまでも、どこまでも――。