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ELEMENT 2015秋号  作者: ELEMENTメンバー
テーマ創作「月」
2/17

十五夜(作:奈月ねこ)

 一週間ほど前からだった。夜になると僕の周りで誰かの話し声がする。空耳だろうか。

 三日前、確かに僕は聞いた。夜に誰かが話している。でも家族じゃない。泥棒?でも毎晩はおかしい。

 二日前、僕は寝ずの番をすることにした。


 ざわざわ


「誰?」


 僕は怖くなり、思わず声を出してしまった。急に辺りはしんと静まり返った。

 何かいる。絶対突き止めてやる!


 前日、また寝ずの番をすることにした。だが、寝不足でいつの間にか眠ってしまっていた。


 当日、お母さんが何か作っている。


「何作ってるの?」

「月見だんごよ。今日は『十五夜』なのよ。作物の収穫を前に感謝する日なの。それに『中秋の名月』と言ってお月見をするのよ」

「へえ、そうなんだ。このススキは?」

「魔除けよ」

「ふーん。一本もらってもいい?」

「いいけど何に使うの?」

「……内緒」


 僕はススキをもらうことに成功した。ススキは魔除けなんだ!これで今夜は大丈夫だ!


貴史たかふみ、お月見するわよ」

「はーい」


 大きくて明るい月。今日は空気が澄み渡り、いつもより月がくっきりと見える。綺麗な月に僕は見とれた。


「去年より月が大きく感じるね」

「お父さん、僕、去年のことあんまり覚えてないよ」

「そうか、貴史はまだ小さいからね。今日の月をよく見ておくといいよ」

「うん!」


「そろそろ貴史は寝る時間だな」

「そうね、お月見も出来たし寝ましょうか」


 僕は自分の部屋に行った。でも今日こそ声の正体を突き止めてやる!魔除けのススキもあるんだ!


 そして、深夜、動き出すものたちがいる。


 ざわざわざわ


 来た!僕はそっと窓辺に近寄った。どうやら外から声がする。僕は階段を降りて縁側に行ってみた。すると、月見だんごに群がっているものたちがいる。あれは何?


「おだんご……」


 思わず僕の口から言葉が漏れた。おだんごを手に持っていたものたちは一斉に僕を見た。人ではない何か。なんと表現したらいいかわからない。人の雰囲気を感じられない。


『見られたぞ』

『なに、子供だから見えるんだ。心配には及ばん』

『そうだ、そうだ』


 皆が口々に話す。これだ。一週間前から聞こえてきた声。そうだ!ススキ!僕はススキを彼らの目の前に突き出した。しかし彼らは笑っているだけだ。


「な、なんなんだよ」

『我らは魔ではない。そんなものは効かぬ。坊主、一緒に来るか?』

『この子供を誘うので?』

『まぁ、だんごももらったしな』

『坊主、喜べ。主様ぬしさまからのお誘いだ』

「ヌシサマって?どこへ行くの?」

『月見だ』


 僕は好奇心に負けて、彼らについて行くことにした。不思議と彼らのことが怖くはなかったからだ。庭の生垣を越え、狭い路地に入り、いつの間にか開けた場所に出てきた。


「わぁ、凄いお月様」


 家で見た月の二倍はあるだろうか。とても明るい。そんな月に照らされて、人ではないものたちが集っていた。


『人間だ』

『人間がいるぞ』


 ざわざわざわ


『静まれ!主様が招かれたのだ』


 しんと静まった人ではないものたち。


『さあ、今宵は楽しもう』


 主様の一声で宴会が始まった。


「あ、あの……あなたたちは……それに、ヌシサマって……?」

『我々は人が"もののけ"と呼ぶものたちだ。イタズラをする"もののけ"もいるが、ほとんどは人には関わらない。心配せずとも良い。私が一応この辺りの"もののけ"の面倒を見ているのだ。だからぬしと呼ばれている』

「へぇ、そうなんだ」


 僕は周りをよく見てみた。


『あそこのだんごは……』

『こっちのだんごが旨い……』

『あっちは果物が……』


 口々にだんごを食べながら月見をする。ああ、人ももののけたちも同じなんだ!踊り出すものたち。ざわざわと語り合うものたち。神々しい月と、もののけたちの幻想的な光景。でも、何故かしっくりと馴染んでいる。僕は他の家のだんごも食べさせてもらった。楽しいひととき。


『坊主、来月も来ると良い』

「えっ、来月も何かあるの?」

『……月見だ。片見月かたみつきは良くないからな』


 僕の記憶はここまでだった。



「おはよう。貴史、朝よ」

「えっ、ここどこ?」

「何言ってるの。自分の部屋でしょう。朝ごはんが出来てるから下に来なさい」

「……うん。おはよう……ねえ、お母さん、来月もお月見があるの?」

「あら、よく知ってるわね。『十三夜』というものがあるわ」

「……カタミツキって?」

「そんなことも知ってるの?」

「ねえ、なんのこと?」

「そうね。『十五夜』と『十三夜』は対になっていて、昔は両方の月を見ないと『片見月』と言って縁起が悪いとされたそうよ。さあ、とりあえずはごはんを食べてからね」

「うん!」


 縁起が悪い……もののけでも縁起を気にするのかな。そもそも昨日のことは現実?いつの間にか家に帰ってるし、あの場所はどこだったのかもわからない。僕が寝ぼけただけなのかなあ。あ、早く起きないと、お母さんに叱られる!

 そして、僕がベッドから降りた時だった。


 コロコロコロ


 食べかけのだんごが床に転がった。

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