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その先へ

「陛下!」

 丸腰だと油断していた従者たちが悲鳴のように叫ぶ。 見た目、クライブより細く楽に拘束できると踏んでいた彼らは上位の魔道師と対峙(たいじ)したことが無かった。

 さらに『縛!』と、ラドビアスが次々と印を組んで呪を飛ばし、その場にいた者は床に貼りついたように動けなくなった。 そこへ二頭の魔獣も加勢しようとするが。

「サウンティトゥーダ、アウントゥエンおまえたちは手出しをするな!」

 クロードの一言で魔獣はぴたりと動きをとめた。

「いい子だ。おまえたちはそこにいろ」

「クロード様、急ぎましょう。新手が来ますよ」

 ラドビアスが縛されて突っ立っている者の間を縫って扉に行くと、レーン文字を描きつけて印を切る。

「簡単な結界を張りましたから一ザンほどは大丈夫ですが」

「うん、解かった」

 クロードはクライブに剣をあてたままバルコニーに出た。

「このまま出て行くと言うのなら君はこのレイモンドール国を(おとし)めた重罪人の烙印を押されて生涯追われることになるぞ、クロード」

 クライブの目から涙が一筋流れる。

「行くな、クロード。嘘だと……冗談だと言ってくれ。わたしを一人にしないでくれ、君が必要なんだ」

「悪い、行くよ、クライブ。レイモンドールをよろしく頼む」

 クロードは懇願するような目を向けるクライブを離して剣を指輪に戻すと、アウントゥエンに跨る。

「ラドビアス、行くぞ!」

「はい」

 サウンティトゥーダに跨ったラドビウスは呪を解くと、同時に先に飛び出したクロードを追ってバルコニーから飛び立った。

「矢を! 早く矢を用意して撃ち落せ!」

 やっと扉を開けた警備の兵士たちに命じるゴードンに「よせ、もう間に合わない。クロードは行ってしまった」とクライブは声をかけ、肩を落とした。 大きな喪失感に呑みこまれそうになってふらりと身体が揺れるのを必死で踏ん張る。

 ここで倒れたら、もう立ち上がれない、そんな切羽詰まった気持ちだけでクライブは立っていた。

「クロード様は行かれたのですか」

「……コーラル」

 クライブはいつの間にか扉近くに立っていた魔道師に気付いて、すがるような目を向ける。

「おまえの言う通りだった。私は……どうしたらいい?」

「そうですね……影ながらご助力致しますよ、陛下」

 コーラルが安心させるように笑いかけてくる。 クライブは亡き父親の面影をその魔道師に見て胸が詰まった。

 ――そうだ、この者は父上の弟なのだ。 私を心配して……導いてくれる。

 しかし、肩に手を置いたコーラルの瞳が氷のように冷たいことにクライブは気付かなかった。






 クロードの目の前に広大な陸地が広がる。 サイトスと海峡を隔てた位置にある、リスペイン王国だ。 五百年前、そこはルクサン皇国という大きな国で戦闘好きな国王、ドリゲルトが支配していた。 そのルクサン皇国が大量の軍隊をこの島国に送りこみ、一時は支配下に置いたがレイモンドール王ヴァイロンがこれを破り、ドリゲルトは憤死した。

 そして、あれ程勢いのあったルクサン皇国も王のいない間に他国の侵入を許すことになる。 今は三分割されてリスペイン王国、ポーチニア王国、イストニア連邦国の一部になっていた。


 永遠――そんなものは無いし、あってはならない。



 ――帰ってくる頃……この国はどうなっているのだろう。 他国に蹂躙(じゅうりん)されているか。

 そして俺が帰る場所があるのか……? 俺は重罪人だったっけ。 それでも自分は行くと決めて出てきたのだ。 俺は俺の道を突き進む。 引っかきまわして出て行く俺は卑怯者だが、すべてを終わらしたら絶対帰ってくるから……。

 クロードはつぶやいて、自分が置いていくものを一度だけ振り返った。





 サイトスの王宮の一角から異形の物が二つ空へと飛び立っていく。 それはこの国が魔術の国から脱しようとして吐き出したものかもしれない。 魔道の加護を失ったレイモンドールはこれからどうなっていくのか。



 クロードの目の前にはただ遥かな大陸の大地が広がっていた。



       了



 長い話に今まで付き合ってくださってありがとうございます。一応、クロード編は終わりです。混乱のレイモンドール編をアップしております。(転成の章)

 また、外伝としてこの話をのせる時に切った黎明期の話をのせますのでよろしかったらお読み下さい。

 似たような題名で混乱させてしまって申し訳ありません。


1・レイモンドール綺譚

2・レイモンドール綺譚(転成の章)・・・本編の続きです。


3・外伝・・・レイモンドール綺譚(創成の章)・・・レイモンドール国の出来た頃の話で す。


4・外伝・・・クロード冒険譚<1話、1話独立した話です。>

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