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矜持の行方

「この者、マルトはガリオール様に長く……といってもあなた様の尺度で言えばたったの十年ですがお仕えしておりました」

「だから、何だと?」

 ラドビアスが突き放すように言う。

「それで、何ゆえ、クライブ陛下の術を解かなかったのか。何を考えているのだコーラル」

「私はコーラル前国王に十四年間、お仕えし……やっと魔道師庁でお役に立てるとガリオール様にお誓い申しあげておりましたのに。今の状況は納得しかねます」

 コーラルは挑むようにラドビアスに言った。 王の子として同じ日に生まれたのに、王の影として生きなければならない身の不運。 それを我慢できたのは、自分が王の死後、永遠の時を国の施政者の一人として生きる。 そのために自分こそが選ばれたのだ、という誇りがあったからなのだ。 それが……あっさりと奪い取られた。

 イーヴァルアイ様が亡くなったから竜道が無くなったという事も、結界がなくなったという事も仕方ない。 だからといってこの国を今迄支えてきた魔道を政治の表から排除するなどという事は我慢がならない。 神聖な『鍵』を受け取ったのがクロード様であるなら王はクロード様なのだ。

「おまえたちがどう思うと勝手だが、クロード様は王位につくご意志は無い。無駄なことは止めなさい」

 ラドビアスは立ち上がるとさっさと歩きだした。

「魔道師庁がこんなになってしまってお寂しくはないのですか? ラドビアス様!」

 マルトがラドビアスの上着のすそを思わず握って追いすがる。

「別に。おまえたちには気の毒に思うが、そんなに政治に係わりたいのであれば還俗して官吏になればいいではないか」

 ラドビアスは冷たく言ってマルトの手を払う。

「クロード様を浴室にお迎えに行くので失礼する。それと、もう、ここは魔道師庁ではないよ、マルト」

 ラドビアスが出て行ったあとに何とも言えない暗い空気になって二人の魔道師は無言で立っていた。

「ラドビアス様には解かって頂けなかったが……そうだな、その手がある」

 コーラルがぼそりとつぶやく。

「マルトおまえ、気持ちを同じくする者を連れて官吏になれ」

「コーラル様、何を」

「形だけの還俗を……サイトスをこの国を魔道師の元に取り戻すのだ、マルト」

「……解かりました」

 ――そしてこの国は魔道師の王を迎える。 それはクロード様でもない、この私だ。

 晴れやかにコーラルは久しぶりに笑った。




 三日程、祝賀の宴が続き各州候らが各所領に帰って行く頃、地下宮のアリスローザの獄の戸が開けられる。

「アリスローザ様、お迎えに参りました、これからスノーフォーク候様についてボルチモア州にお帰り頂きます」

「ラドビアス、クロードは?」

 アリスローザがきょろきょろと辺りを見回しながら問うのにラドビアスは「クロード様は上でお待ちです」そう、幾分素っ気無く応える。

 ユリウスに仕えていたこの男がクロードと一緒にいるのがアリスローザには気に食わない。 国がどんどん魔道と距離を置いていくのに、ラドビアスといるとクロードのほうはどんどん魔道側へ引き込まれていつか自分の前から消えていきそうだ。

 この従者は表面上は礼儀正しく無礼な事をするでもないし、人当たりも大変いい。 しかし、本当の所はどうなのだろう。 優しそうな声音のわりに先程見せた顔は……かなり冷たかった。

 ラドビアスに続き階段を上がり、迷路のような廊下を歩いていくと大きく曲がった所で突き当たった。 そこは梯子が上まで続いていて上を仰ぐと四角に切られた、跳ね上げ式の扉があるようだ。 ラドビアスが先に立って梯子を上り、パズルのように板が組んである戸板を動かすと、歯車がかみ合ったような音がした。 それを押し上げて開けると下から続くアリスローザの片手を掴んで引っ張りあげる。

「この地下宮の中を良く知っているみたいね」

 こんな誰もこないような場所の……自分が仕えていたモンド州州城内ならともかく、首都サイトスの地下宮の隠し通路の事まで何でこの男が知っているのか。

「サイトスの主城を建て直す時に私もこちらにおりましたもので」

 アリスローザの胸の内を読んだようにラドビアスが口にした内容に、アリスローザが目を見開いて掴まれた手首を振りほどいた。

 ――それって四百年以上前の話じゃ……。

 ラドビアスが軋む音を立てて次の戸を押し上げると固まった埃が落ちて来て、その先に二人がやっと立てるほどの足場があった。 そこから最後の梯子が伸びている。

「足元にお気をつけください」

 こちらに顔を向けたラドビアスが一人事のように言う。

「足を滑らせて頭をうつ……というのも……やはり止めときますか」

 しかしその後にはいつもの笑顔を見せる。

「先にお上がり下さい、アリスローザ様。戸は引き戸になっております」

 生きた心地もせず、追われるように急いで梯子を上り、戸をあけて上に体を出す。 急に昼間の力強い光がアリスローザの目を一瞬(くら)ませて、今出てきたばかりの穴に足を取られそうになった。

「あっ」

 バランスを崩したところをがっしりと肩を掴まれてひき戻された。

「大丈夫? アリスローザ」

「クロード!」

 アリスローザに抱きつかれてクロードは目を白黒させた。


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