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魔獣の躾

昼過ぎサウンティトゥーダとアウントゥエンを連れて、クロードは王宮のはずれにある森にやって来ていた。

「退屈だったろう? 少し遊んでおいで。ただし人間は狩るなよ。あと、アウントゥエンは火を吹くの禁止だからな」

クロードの言いつけに二頭の魔獣はこくんと頭を下げると相次いで消えていった。 二頭を見送ってクロードは草地に寝転がって空を眺めていた。

「お一人で動くのは構いませんが、城内からお出になるなら一言お知らせ願います」

聞きなれた声に目を向けるとラドビアスが立っていた。

「でも俺がここに居るって解かってたんでしょ?」

「それはこの辺りで恐ろしい獣の叫び声が聞こえると官たちが騒いでいたからです」

「へへっ……」

悪戯っぽく笑うクロードの横にラドビアスが膝をつく。

「……で、地下宮には何のご用で行ったのですか」さらりと尋ねる。

「アリスローザに会いに行ってたんだ。彼女、ボルチモアへ返そうと思ってるんだけど。できるでしょ?」

「それは……何とでもいたしますが、理由をお聞きしても?」

 ラドビアスの問いに、どう言おうかとクロードは唸る。

「アリスローザには生きてボルチモアでこの国の行く末を見て欲しいと思っているんだ。俺がベオークから帰って来たときに待っている人がいてほしいと思ったら駄目かな。いつになるか解からない。若いうちに帰れるのか、何十年かかるかもしれない。でも結婚して子供ができて……時が過ぎたあとも俺が帰って来たときに笑って話ができる人が欲しいんだ。それは……クライブじゃない」

「そうですか」

ラドビアスはクロードの素直な答えに思わず口元を緩めてクロードの頭に触れた。

「本当はだめですけど彼女の罪を直接知っているのは数少ない者だけですし、何とかしましょう」

「ありがとう、ラドビアス。しかし、おまえこの時間ここに居ていいの?」

クロードが身をおこしてラドビアスを見上げる。 朝早くから晩遅くまで仕事にかかりきりでその合間、合間にクロードの修業や勉強に付き合って。 いつ寝てるのか不思議になる。 見上げた顔は前から顔色が悪いので、今の体調がどうだかは窺えないし、クロードに対しての態度も何も変わらない。

「それを心配して頂けるのなら大人しく城内にいらして下さい。今、クロード様より大事に思うことなど私には無いのですからね」

 ラドビアスの言葉にじいんと嬉しくなったクロードは、その余韻に浸りたかった。 だが何か重い物を引きずる音と荒々しい鼻息。 生臭い血の匂いに邪魔されて立ち上がる。 その匂いの正体は、楽しそうな二頭の魔獣だった。 しかもお土産つきで……。

「これ、獲ってきたのか」

サウンティトゥーダがその大きな口に咥えているのは白馬で……たぶん王の騎乗する馬だ。 その後ろからアウントゥエンが咥えているのは茶色い大型の馬で馬車を引く馬だろう。

「あちゃー、今さら返しにもいけないよな」

「死んでますしね」

二人が顔を見合わせる横で二頭の魔獣が満足そうに褒めて欲しいと尻尾を振る。

「こうなったら……骨まで残さずに食べてしまえ」

あとは知らぬ存ぜぬで通そうとクロードは腹を決めた……が。

「そんな事通るわけないでしょう。馬丁たちが今頃大騒ぎですよ。二頭を野放しになさってはいけません、何事も躾が大事です」

ラドビアスにきっちり怒られて、クロードは大きな馬の腹から臓物を引きずり出して夢中で食べている二頭の前に立って腰に手をやる。

「おまえたち、勝手に食べ物を獲るの、サイトスでは禁止だからな!」

出来る限り低い声を出すと、えーっと言いそうな顔で口の周りを馬の鮮血でべたべたにした二頭がクロードを見る。

「解かった?」

クロードの声に大人しく頭を上下してこちらを注視する魔獣にクロードはにこりと笑う。

 ――やっぱり可愛い。

「まあやっちゃたもんは仕方無いからそれはゆっくりお食べ」

クロードの声を合図に二頭は先を争って馬の腹に頭を突っ込んだ。




 朝、ラドビアスに例によって荒っぽく起こされてクロードは頭を掻きながら仕度を始めた。

「あのさ、前に早馬を飛ばしたけど最北のダートベージ州までどのくらいかかるの?」

 今日もクロードを捕まえて丁寧に髪を梳りながらラドビアスが答える。

「馬を替えながら一日中駆け通しで片道二十日はかかるかと。直ぐに返事を持って帰って四十日と少しはかかりましょうね」

「そんなに……」

「なぜ州宰の魔道師が多かったと思われますか」

「魔道師庁の意向を州政にいき渡らせるため?」

「それもありますが……。サイトスからの政令の速やかな周知と州候への親書等の送付などを、竜道を使うことによって安全に地域の距離に係わらず、半日ほどで出来ていたのですよ」

「んーっ、それって俺を暗に責めてる?」

クロードが頭をかきむしる。

「止めてください。せっかく髪を梳いていますのに……どうされたんです? 何か気に病まれる事があるのですか」

 ラドビアスの問いにこっくりとクロードが頭を下げた。

「それは皇太后様に関係あります?」

ラドビアスが濃紺のリボンできっちり髪を結びながら聞く。

「では、こちらに朝食を運ばせますか」

「えっ、いいの?」

クロードが勢い良く言うので、ラドビアスは当たりかと薄く笑った。

「私も一緒にご相伴させていただきますよ。そのほうが私もクロード様と話をさせて頂く時間が増えますし」

はい、出来ましたとぽんと背中を叩いてクロードを開放すると、ラドビアスは、クロードが脱いで飛ばした夜着を魔獣の口から抜き取って畳み小脇に抱えて戸に手をかけた。

「三種の神器が出来たと報告がありましたから、見に行きましょう」

「出来たの?」

「はい、良い出来栄えだと報告がありました。今日はがんばって皆様とお食事なさってください。終わったら祭祀庁へお連れしますよ」

クロードが大人しく頷いたのを見てラドビアスは部屋を出て行った。


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