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王の初仕事

「アリスローザ、だいたい魔道を奉じる事は王の命だろう。その国の廟を襲ったりしている時点ですでに反逆罪は成立している。この国において魔道と王は別々のものじゃないだろう?」

「そ、それは……」

 ――それでも私達は国のために……王のために戦っていたのに……。

 もどかしく思いながらどう、言ったらいいのかとアリスローザが頭を巡らす。その横を一枚の書簡を持ってラドビアスが通り過ぎる。

「それか」

「そのようです」

 ラドビアスが書簡を巻いて留めてある紐を解いて、クロードに手渡す。それはハオタイで使われている文字で描かれているが、範字と互換性(ごかんせい)があるらしくクロードにも意味が解かった。

「ふさわしい地位と読めるが……ラドビアス、俺は間違っているか」

 横からのぞき込んだラドビアスがクロードが指差す文字を追って顔を上げる。

「それでよろしいかと」

「ドミニク候、ふさわしい地位とは何だ?」

 ぎょっとしてドミニクはクロードを見て慌てて下を向く。

 ――こんな子供が王だと言うのか……そしてこんな子供なのになんという落ち着き方だ。その上、ハオタイの文字にまで通じているとは……。

「私はこの国の未来を陛下のお立場を(うれ)いていたのでございます」

 ドミニクはがばりとその場にひれ伏して声を上げる。

「魔道師に操られている者どもを排し、正しいご政道が行われんと切なる願い(ゆえ)のことでございます。陛下に弓を引く事など考えも及びません」

「よくもそんなに口がまわるな、ドミニク」

 クロードがため息まじりに言う。

「俺はサイトスに居たんじゃない、ここに居たんだ。何も知らないわけないだろう?」

 クロードは面を厳しくして、後ろで魔獣たちに睨まれて固まっている兵士たちに声をかける。

「抗弁、弁解の類はサイトスへ行ってから正式な裁判の場でいくらでも聞いてやる。ドミニク侯爵の州管轄の任を今この時をもって解く。身柄を拘束して幽閉し、国軍到着後、速やかに引き渡すように」

 クロードの言葉に兵士たちの先頭にいた州軍の将軍の肩章を付けている大柄な男の双眸(そうほう)が戸惑うようにクロードとドミニクの間を彷徨う。

「トレンス、私を裏切る気かっ」

 ドミニクが迷っている将軍を自分側に引き戻そうと大声を出す。

「将軍、気持ちは解かるが今は自分の職務に忠実でいて欲しい。君たちが今迄職務のためにドミニクの命に従って動いていた事は仕方の無いことで不問にする。が今、この先からの俺の命に従わないことは後々君のみならず、州軍全部に関わってくる事になると心得よ」

 落ち着いた少年の声が将軍のうろうろと泳ぐ目を止めさせた。

「お前達、早急に王陛下のご指示に従え」

「無礼者、私に触れるなっ、離せ、この下郎ども」

 両側から腕を屈強な兵士たちに取られてドミニクは手足をばたつかせて暴れるが、そのまま引きずられるように連行されて部屋を出て行った。

「クロード、私の話を聞いて。これは誤解なのよ」

 アリスローザが駆け寄ろうとするのを兵士らが取り押さえる。

「アリスローザ、君はそんなつもりはなかったにせよ、きみの父親はこの国の王座を狙っていたんだ。きみは聞きたく無いかもしれないかもしれないが……。そして君も知らないこととはいえ、その企みに加担していた」

「嘘よ、そんな、お父様が」

「さっきのビカラからの書簡はそれを確約すると書かれていたんだ」

「嘘よ、信じないわ」

 アリスローザの目から流れる涙にクロードはふいと顔を背けたくなる。泣かないでと慰めたくなるのを歯を食いしばって耐える。

「信じようと信じまいと真実はそういうことだ。自分が信じたく無いことから目を背けることは出来ない」

「クロード」

 クロードの言葉にきっと睨むようにアリスローザが鋭い視線を向ける。クロードは、一瞬酷く傷ついた顔を浮かべたが、直ぐにその表情を消して将軍に命を下す。

「レジスタンス活動に加担していた嫌疑により元ボルチモア州州姫、アリスローザをドミニクと別に幽閉し、同じく国軍に引き渡すように」

 挑戦的な目を向けながら連行されていくのを、クロードは追いかけて自分を弁解したくてたまらなかった。

 ――違う、俺の本心は……こんな事を望んじゃいない……。

 しかし、現実にはクロードは無表情でアリスローザが連れて行かれるのを見送り、次の指示を出す。

「州城敷地内にある、古い教会の地下にあるアジトにレジスタンスの各グループのリーダーがいるはずだ。捕らえて他のアジトやメンバーの捕縛に係ってくれ」

「承知しました」

 将軍が副官を残して手勢を引き連れて部屋を出て行く。

「後の者も俺とラドビアスを残して小宮から退城してくれ」

 クロードの命に残された官吏と魔道師のダニアンが驚いて口を出す。

「……と言われますと?」

「言葉の通りだ、出て行ってくれ。用があれば呼ぶ」

 ぱしりと言われればもうなすすべも無く。少年の覇気(はき)に圧されて皆しおしおと部屋を出て行った。

 ふーっとクロードが大きくため息をついた。

「疲れた、やっぱり俺には王は務まりそうにないや」

「そうですか?」

 ラドビアスがにっこりと笑顔を見せる。

「王様になりたてにしてはご立派でしたよ」

 いつか、魔術のときにもそんな風に言われたのを思い出しクロードは吹き出す。

「俺が何やってもラドビアスはそう言うんじゃないの?」

 急に十四歳の少年に戻ったように悪戯っぽくクロードは片目をつむったが、確かに王としての貫禄を見せて、大人たちにちらとも遅れをとるものでは無かったとラドビアスは思う。帝王学を幼い頃からまなんでいたクライブならいざ知らずこの前までモンド州の公子として、箱の中に入れられたような生活を送っていたはずのクロード。

 彼があれ程やれるとはラドビアスは思っていなかった。魔術にしても何をやらしてもこの少年は自分でも解からないような才能を隠し持っている。

「いいえ、本当にご立派でしたよ」

 ラドビアスに重ねて言われ照れたようにクロードは赤くなった。

「やめてくれよ、それよりこの大きな檻? を開けなきゃ」

 クロードが見上げる球体の檻をラドビアスが確かめるように触れた。


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